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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
根暗な少年の怠惰な青春黙示録
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相手を過大評価して危険視するのはその人の自由だが、度を過ぎるとただの無駄骨である。

今回はイーデアリスVS向井原!

『自分を中心とした半径50キロ以内の重力を操る能力』


 これが向井原の能力だ。


『自分自身を宙に浮かせる事はできない』という制約こそあるが、それを差し引いてもこの能力は普通に強い。何より、『重力』という、地球上のどこにでもある法則を50キロという広範囲で操れるのが大きい。


 だがだからといって油断は出来ない。相手はあのイーデアリスだ。彼女の『現実を歪める能力』は、一瞬の隙も許されない。


「はああああっ!」


 威勢のいい声とともに、向井原がイーデアリスに打ちかかる。これでも陸上自衛隊特殊部隊副隊長だ。純粋な格闘技術だけなら、イーデアリスを1秒で5回殺せるだろう。


 ーーー純粋な格闘技術だけなら。


「甘いわよ」


 イーデアリスが向井原の背後に回り込み、馬鹿にするように言う。その言葉に向井原は後ろ蹴りで対処しようとするが、今度は距離を取って回避される。


「クソッ!」


 向井原が吠える。イーデアリスはそんな向井原を一切気に求めず、『無』から日傘を生成してそれをクルクルと回している。


「ま、そうなるわな」


 俺の隣で戦いを呑気に見ている嵯峨村が呟く。


「イーデアリスの能力を使えば、瞬間移動が可能だ。向井原が殴りつける寸前に能力を発動させれば、無限に逃げ続けることができる」


 わざわざ説明してくれる嵯峨村。サービス精神旺盛だな。


 というか、これは完全に想定外だ。まさかイーデアリスと向井原が突然戦うなんて、思ってもいなかった。正直、早く終われと思っている。


 シナリオにないことをされると、対処に困るな。


「これならどうだよ⁉」


 向井原が手から黒い球体を作り出し、イーデアリスに放つ。あれは小さなブラックホール、呑み込まれればいくらイーデアリスでもただでは済まない。


 呑み込まれれば、な。


「無駄よ。何をやってもね」


 イーデアリスが呟いた途端、黒い球体が音もなく消滅した。現実を歪めて球体を消したのだろう、見事な手口だ。


「ならこれで!」


 向井原は大きく息を吸い込むと、手に意識を集中させる。すると、向井原の手に黒球が出現する。それはどんどん膨らんでいき、やがて先程の5倍くらいの大きさになった。


「超巨大・ブラックホール!」


 向井原が叫んだ瞬間、黒球が全てを飲み込み始める。近くにあったチェス盤が、テーブルが、テレビが・・・あらゆる物が、向井原の作り出したブラックホールの中に飲み込まれていく。


「危ねえ!」


 ブラックホールに引き込まれそうになった嵯峨村が、慌てて《無敵化》を発動させた。俺もヘッドホンを外し、《空間断裂》を発動する。こんな大規模なブラックホールに巻き込まれたら最後、骨も残らないだろう。


 強すぎるだろ、『最強の犯罪者』の実験体。


「無駄よ。そんな事をしても」


 イーデアリスが平然とした表情で、向井原に言う。確かに、イーデアリスはブラックホールに巻き込まれていない。おそらく、

自分の周りに不可視のバリアを張ったのだろう。それでブラックホールを防いでいるのだ。


「なら、これで!」


 向井原が手に収束させていたブラックホールを、イーデアリスに投げつける。イーデアリスは一瞬面食らったが、すぐに元の表情に戻ると能力を解放した。


「無に帰りなさい」


 向井原の作り出した超巨大ブラックホールが、一瞬にして消滅する。引き寄せていた力が急に無くなったことにより、室内に強力な風が吹き荒れた。ちょうど俺はヘッドホンを付けていたため、その風をもろに浴びる。・・・・・冷たい。


「まだまだだぜ、イーデアリス!」


 向井原が、イーデアリスに殴りかかる。それを見て、イーデアリスが溜め息を吐く。


「またそれなの? 全く、馬鹿の一つ覚えもここまで来るとーーー⁉」


 その時、イーデアリスの体が向井原に引き寄せられる。それを見て向井原が、右腕を引いた。


「なるほどな。今度はイーデアリスの重力を操作して、自分の方に引っ張ったわけか。なかなかやるな、向井原も」


 既に《無敵化》を解除した嵯峨村が、驚嘆の声を上げる。説明ご苦労だな。


「これで終わりだ!」


 向井原の拳が一直線にイーデアリスに向かう。イーデアリスは、瞬間移動で逃げることが出来ない。


 厳密に言うと彼女の能力には、もう1つの欠点があるからだ。


 その欠点が、彼女の邪魔をしている。そのせいでイーデアリスはこの拳が当たるまでの一瞬の間、瞬間移動も使えなければバリアも張れない。完全な無防備だ。そして能力が無ければイーデアリスはただの女の子。自衛隊の向井原に勝てる道理など、あるはずがない。


 ーーーこの一言が無ければ。


「彼氏の前で、生き恥さらせイーデアリス!」


 だから、何度も何度も彼氏と。












 ウザいんだよ。














「グボァ!」


 突如向井原の体が吹き飛び、壁に激突する。一昨日の笹原良子のように壁にめり込んだ訳ではないが、それでもかなりの速度で壁に突っ込んでいった。いくら自衛隊特殊部隊と言えど、結局は人間。向井原は呻き声を上げた後、気絶した。


「な、何が起こって・・・・」


 驚いている嵯峨村の肩に、俺は手を置いた。


「おめでとう、嵯峨村」


「な、何がだよ⁉」


「ついに念願の『力』に目覚めたんだろう? 今のがその証拠だ。おめでとう、お前は新たなる力を手にしたんだ」


 俺は嵯峨村にいつも通りの平淡な声でまくし立てる。嵯峨村はしばらくポカンとした顔で聞いていたが、やがて不敵な顔になると、決めポーズを取った。


「フッ、ついに目覚めてしまったか。もう少し時間が掛かると思っていたが、まさかこんなに早くとはな。いいぜ、貴様に好きなだけ暴れさせてやろう! 我が新たなる相棒、《飛行螺旋フライラージ》よ!」


 もう名前付けてるし。


 まあいい。何とか誤魔化せた。これで少なくともこの場は乗り切れるだろう。


 俺は携帯のイミテーションコールを作動させた。戦いが終わった静寂の場に、振動音が流れる。


「おっと悪い。電話だ」


 俺はわざとらしく言うと、携帯を取り出しながら外へ出た。もちろん電話なんて無い。ただ、あの場に居るとイーデアリスの追求を受けそうだったので、外に出ただけだ。


 しかし、あれは俺も予想外だった。まさかこの3日間で2回も発動してしまうとは。完全に計算外だった。


「ちょっと倉根くん」


 突然後ろから声を掛けられ、俺は咄嗟に携帯を耳に当てた。


「はいこちら倉根。え、そばを二人前? すいません、うちは蕎麦屋じゃありません」


 後ろから、冷ややかな視線を感じる。だがここで演技を辞めれば、先程の『あれ』について聞かれることになる。ここは何としてでも嘘電話を続けなくては。


「え? ざるそばのそば抜き? いや、それじゃあただのざるですよ、お婆さん。というかそもそもうちは蕎麦屋じゃーーー」


「倉根くん、ちょっといいかしら?」


 瞬間、俺の手の中で携帯が潰れる。まるで圧搾機にやられたかのように携帯が手の中でひしゃげていき、ただの鉄塊と化す。

 

「貴方も、こうなりたい?」


 イーデアリスが冷たい声色で放ってくる。・・・おお、怖い。


「こんななんの取り柄もなくてネガティブでぼっちな俺に、学校一の美少女様が何の用ですかね?」


 俺は面倒くさそうに振り返った。ここからの展開、面倒な予感しかしない。


「貴方がどんな性格かはこの際どうでもいいわ。ーーーねえ貴方、いったい何をしたの?」


 碧眼の双眸が、まっすぐに俺を見据えてくる。


「嵯峨村がやったんだろ。ほら、あいつも否定してなかったじゃないか」


 ・・・無理のある言い訳だと、自分でも思った。だが、これくらいしか言い訳が思い付かない。


「嘘よ。あれは貴方がーーー」


 反論しようとするイーデアリスに、俺は畳み掛けるようにして言う。


「だいたい、俺にそんな芸当が出来ると思うか? こんな一介の音使いでしかない俺に。それにもしやったとして、何のためにやったんだ? 俺がお前1人を救うために力を使う人間じゃないっていうのは、よく分かってるだろ? 俺は白馬に乗った王子様でなければ、月を背に佇む怪盗でもない。俺はただの小市民だ。いい加減気づけ。人の事を勝手に隠れチートキャラに認定するな。相手の事を過大評価するのはお前の勝手だが、度を過ぎると嫌われるぞ」


 ・・・・少し言い過ぎたか。


 まあいい。相手はイーデアリスだ。このくらいの事で、傷ついたりはしないだろう。


「じゃあな。俺はもう帰る」


 もう立ち去った方がいいだろう。俺は一昨日のように、早足で家に向かった。



 道中、携帯が鳴った。今度は偽の電話ではない、本物だ。


「もしもし」


『嵯峨村だ。お前ってイーデアリスの誕生日プレゼント決めた? もう明後日に迫ってるけど』


 そうなのか。時間が経つのは早いものだな。


「お前はどうなんだ?」


『まだ全然決まってない。明日デパートに行って何か適当に選ぼうと思うんだけど、お前も一緒にどうだ?』


「俺はいい。一応決まってるからな」


 一応だけどな。


『マジか、さすが倉根だな。・・・・そう言えば、さっきイーデアリスがお前の調査をリットンに頼んでたぞ。お前、何かしたのか?』


「いや、別になにも。イーデアリスの勘違いだろ」


 そう、勘違いに違いない。


『そうか。なら安心だな。じゃあ、俺は明日のパラダイスのために、力を温存しておくことにするよ。では去らばだ、倉根よ!』


 厨二的な事を言われ、電話が切られる。だがその頃には俺は、別の事を考えていた。


『貴方、何をしたの?』


 イーデアリスの言葉が、頭の中を反芻する。


「別に何もしてないだろ」


 呟きが漏れる。俺は何かをしたわけではない。というか、俺はただの凡人だ。


 ただ少し特別な家庭に生まれた、ただの凡人だ。


「・・・そろそろ、蒔いた種を回収するか」


 俺はボソリ、と呟いた。






 

次回は10月16日更新予定です。


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