真実は時として隠した方がいいこともある。
今回は、意外な人物が登場します。
店員達の惜しみ無い視線の嵐を受けながらファミレスを出ると、外はすっかり暗くなっていた。
「今日は災難だったな、嵯峨村」
俺は率直な感想を述べる。すると嵯峨村は『フレミングの左手』のようなポーズを顔に当てて、不敵に笑う。
「フッ、何を言う。今日は素晴らしい日だ。何故なら我が同士に巡り会えたのだからな!」
面倒くさいからスルーしよ。
「下らない事を言っていないで、さっさと本部に今日の事を報告するわよ。ヘルズの出現と、嵯峨村の営業妨害は報告するべき点だわ」
「いや店の物破壊したお前の方がよっぽど営業妨害だと思うぞ」
あの後、テーブルはイーデアリスが責任を持って直しておいた。爆破跡もきちんと消し、客が撮っていた動画も消去しておいた。・・・便利すぎるだろ、イーデアリスの能力。
「本部への報告は携帯でもいいだろ。何なら俺がーーー」
と、そこで俺達は、1人の少女がこちらに近付いてくるのに気がついた。紺色の着物を着ており、黒い髪を遊ばせたままにしている美少女。外見のレベルなら、イーデアリスと変わらないくらいだろう。雰囲気で、凛とした態度だというのが分かる。
そして1発で直感する。こいつはヤバイ奴だと。
敵と言う意味ではない。もし敵ならイーデアリスや嵯峨村が気がついている。だから違う。敵ではないが、何かヤバイオーラを放っている女だ。
「すみません」
その少女は、開口一番そう言った。相手は多分俺。少女は、ファミレスを指差しながら、俺に聞く。
「あのファミレスから出てきた方ですよね? 少々お時間いただけますか? 探している人が居るんです」
成る程、探している人か。ならば仕方ないな。
「そうだ。俺達は確かにあのファミレスから出てきた。だが俺は詳しいことはなにも知らん。このお姉さんなら色々知ってると思うから、聞きたい事ならこのお姉さんに聞くといいよ」
「ちょっと倉根くん⁉」
俺はイーデアリスを身代わりにした。こんなドがつくような面倒事、俺は関わりたくない。
「美人のお姉さん。少し時間よろしいでしょうか」
少女がイーデアリスの目を見て聞く。イーデアリスは諦めたように溜め息を吐くと、姿勢を低くして少女と目線を合わせた。
「いいわよ。で、探している人っていうのは?」
「この人です」
そう言って、少女が懐から一枚の写真を取り出してくる。写真は端がボロボロになっていて、この写真が数年前に撮られた事を物語っていた。
「これは・・・・」
イーデアリスにつられて、俺も写真を覗き込む。そこには、無邪気に笑う少年と恥ずかしそうな顔の少女、フードを被った無表情の少女の3人が写っていた。
「8年前に、兄と最後に撮った写真です。真ん中に居るのが私です」
確かに、この恥ずかしそうな顔の少女は、この少女に似ている。
「この写真だと、古すぎて分からないな」
いつの間にか写真を覗き込んでいた嵯峨村が呟くと、イーデアリスも頷いた。
「そうね。ねえ、そのお兄さんについて、詳しく教えてくれるかしら」
少女はこくりと頷いた。
「兄様は、当時身長138cm,体重33kg,体脂肪率10%,筋肉量10kg,座高63cm,視力右1.5左1.2,尿酸値・・・・」
つらつらとデータを並べ上げる少女。・・・ストーカーかよ。
この少女、見かけによらずブラコンなんだな。
「へ、へえ、凄いわね」
見ろ、どんな相手に対してもそのスタンスを揺るがす事のないイーデアリスが、若干引いている。凄いな、この少女。
「その・・・出来れば数値的な物じゃなくて、趣味とかそう言う物を聞きたいんだけど・・・駄目かしら?」
イーデアリスの穏やかな質問に、少女はハッとなる。
「す、すみません。兄様の事になるとつい喋りすぎてしまってーーー」
頬を染める少女。本当に兄の事が好きなんだな。
「兄様は多芸な人でした。運動も勉強も人並み以上に出来て、私の憧れでした。趣味はマジックで、新しい技を習得しては、よく私たちに見せてくれていました」
そりゃすごい。
「勉強も運動も人並みに出来ないどこかの誰かさんとは大違いね」
イーデアリスが皮肉げに言ってくる。ほっとけ。
「将来の夢も持っており、『俺は将来怪盗になるんだ!』と日々言っていました」
それはーーーーーーうん、頑張れとしか言えない。
「そのせいで両親や先生としょっちゅう喧嘩をしていてーーー10歳の頃、『この世界は間違っている』と言う言葉を残して、家を出ていってしまいました」
・・・・何だろう、なにも言えない。
というか過去はとにかく、そんな言葉を残して家出をしそうな人物は、1人思い付く。
「あれから7年、兄様は一度も家に帰ってきていません。いったいどこで何をしているのか。そもそも、生きているのか死んでいるのか。それすらも不明です」
10歳といえば、小学4年生だ。そんな子が、1人で生きていけるはずがない。だからそいつの両親も放置したのだろう。だが結局帰ってこなかった。それが意味するのは2つ。
死んだか、どこかの組織に引き取られたかのどちらかだ。
『最強の犯罪者』が進歩させた実験をさらに進化させるには、もっと実験体が必要だ。そのため、身寄りのない子供はとてもいい獲物だ。きっとその兄とやらも、何かの実験動物にされて、死んでいったのだろう。可愛そうに。
「そのお兄さんの名前、分かるかしら」
「弐夜といいます。難しい方の弐に、夜と書きます」
ん?
何か、その名前に聞き覚えがあるような・・・・
「そう言えば貴方、私達がファミレスから出てきたから聞いたのよね? ファミレスの中に、その弐夜って人が居たの?」
確かにそうだ。もしこの少女の聞いている『弐夜』が居たのなら、その場で声を掛ければいい。
「いえ、ただ少し似ている人がいて」
似ている人?
「お姉さん達は、怪盗ヘルズってご存知ですか? ほら、よく新聞に載る、あのヘルズです」
「ええ、知ってるわ。それがどうしたの?」
「そのヘルズが、私の兄に似ているような気がしまして。でも人違いだったら怖いので話しかけませんでした」
うん、多分それ本人です。
俺はそう言おうとしたが辞めた。言ったところでどうにもならない。イーデアリスもそれを知っているのか、「そう」としか相づちを返さなかった。
そう言えば、家出をした子供の末路が、もう1つあった。
『最強の犯罪者』に弟子入りする。
『最強の犯罪者』の弟子になるのに、条件はいらない。ただ、『最強の犯罪者』の住みかを見つけるのは完全に運ゲーなため、そう言う意味では『運』が必要かもしれない。
とにかく、それなら全て辻褄が合う。こいつの兄がヘルズと似ている事(同一人物だから当たり前)も、こいつの兄が家出してから1回も家に帰っていない事にも、説明がつく。
だが、それをこの少女に言うわけにはいかない。『貴方のお兄さんはあの有名な怪盗ヘルズなんですよ』なんて、どの面下げて言えと言うのだ。
「兄様・・・生きているのなら手紙の1つでも下さい。兄様が居ないことに、私はこれ以上耐えられません。どうか、元気なお姿を見せてください」
ついさっきも見ただろうし、新聞やテレビでしょっちゅう見てるだろ。
などとは、口が裂けても言えない。
「いや、俺の予想なんだけどそのお兄さんってフガッ!」
空気を読めない嵯峨村が言葉を発した瞬間、黒板消しが嵯峨村の口の中に突っ込まれた(大量のチョークの粉入り)。嵯峨村はしばらく悶えると、やがて膝から崩れ落ち、動かなくなった。
よし、これで邪魔者は消えた。
「早く、お兄さんに会えると良いわね」
イーデアリスが穏やかな笑みを浮かべながら、少女に言う。少女の顔が、パッと明るくなる。
「はい! ありがとうございます!」
そして少女は去っていった。走る後ろ姿も、なかなか凛とした所がある。
「ヘルズに、妹が居たんだな」
「そうね。しかもあんな美少女」
「遺伝って奴だろ。ヘルズも性格はアレだけど顔はいいし」
「確かにそうね」
「・・・・帰るか」
「そうね」
俺達は、終始無言で本部に戻った。
嵯峨村? 誰だっけそいつ?
「ふああ・・・」
次の日、いつも通り授業を適当に受け、帰ろうとしたその時。
「おい倉根。ちょっといいか」
学年主任から呼び出しがかかった。
「あ、はい。大丈夫です」
俺は出来るだけ丁寧に返事をすると、鞄を持って教室を出た。
隣のクラスを見ると、隣のクラスはまだホームルーム中だった。
「で、何の用でしょうか?」
学年主任とともに職員室に行くと、そこには俺のテストがあった。現国、数学、理科、公民、英語。5教科350点。全て100点満点中70点きっかりの、ある意味で凄いテストだ。
「お前のテストを分析していたらな、どうにも不思議な事に気が付いたんだ」
学年主任が、数学のテストを指差す。
「お前、図形の全証明は完璧なのに、証明の空欄補充は0点じゃないか。それからここ」
続いて、英語のテストを指差す。
「長文読解は満点なのに、短文読解と資料活用は0点だ。しかも極めつけは現国だ」
まだあるのかよ。
「お前は作文・及び登場人物に関する文章はしっかり書けているのに、何故かボーナス問題を全て落としている。『快晴』とか、中学生の問題だぞ」
「要するに、何が言いたいんですか?」
「お前、満点を狙えたんじゃないのか?」
学年主任が俺を見る。
「私の分析によれば、お前は5教科全てのテストにおいて、基本の問題を全て落としている。応用の問題が解けているのに、だ。」
成る程、疑うのも無理もない。足し算が出来ないのに、かけ算が出来る訳はないからな。
「なぜそんな真似をした? カンニングか? それとも教師に対する挑発か?」
どっちでもないんですけど。
だがここで口答えしても無駄だ。先入観を持った人間は、それを覆す明確な根拠がない限り変わることはない。そして、今俺の手元に、この怪しい70点の理由を証明する物はない。
よって、黙っていた。
学年主任はしばらく俺を見ていると、やがて肩の力を抜いた。
「まあいい。お前だって健全な高校生だ。きっと何かあったんだろう。今回は目をつぶろう。点数的に、カンニングでも無さそうだしな。だが、次回はちゃんと満点を狙っていけよ」
その、ありがたいのかありがたくないのか分からないような説教を受け、俺は職員室を後にした。
次回は10月11日更新予定です。




