114, 僕は七倉さんの家に呼ばれました。
ちょっと最近多忙ですが、たまにはちゃんと書くようにします。
「血縁があるというのはこういう時に気兼ねしなくていいよねえ。もちろん、今日は僕のひいじいさんが来ているわけだから、遠慮も何もあったものじゃないんだけどさ、でも主賓の親戚だったらなんとなく居心地がいいような気がするんだ。実際、こうして席も近いわけだしね。これは七倉さんの差配だと思うんだけど、いい席順だよ。僕から見れば司君はおじさんなんだし」
愉快そうにこんなことを言ったのは、僕とちょっとだけ血のつながりのある生徒会の2年生、倉橋先輩だった。
「やめてください倉橋先輩。たしかに、先輩はうちの父親とハトコになるわけですけど、ハトコよりも遠い親戚のことを叔父さんとか甥っ子とかいいませんから」
「中国史では続柄が分からないくらいの遠縁だけど、世代が上だとか下だとか分かっている親戚のことを、族弟とか族父とかいうじゃないか。あれ、今もそういうんだっけ? まあいいや。しかしいい寿司だ、幾らするんだろう。司君も遠慮していないで食べないとダメだよ、七倉さんが司君のために用意してくれたんだから」
「それは分かっていますけど……」
日ごとに残暑が和らいできた頃になって、僕は七倉さんに招待された。
「司くんが聡一郎さんの跡を継いだお祝いをしましょう」
七倉さんはそう言って、この久良川町に暮らす、並みの人間には使えない能力を使うことができるひとたちを集めてくれた。
場所はこの町でいちばん大きな屋敷、七倉さんの自宅。前に僕はこの屋敷を塀の外から見て回ったことがあるけれど、このお屋敷は近くにある惣社よりもよほど大きな母屋と、単に母屋から離れているだけで近隣の一軒家よりも広い離れと、いくつかの倉がある。
ここまで大きな屋敷を保有しているということは、当然だけれど屋敷の中を家族だけで切り盛りすることはできない。だから、七倉さんの屋敷のなかには家中のお手伝いをする人が何人もいた。
その人達が、七倉邸の窓際の部屋に宴席を準備してくれた。それじゃあ、七倉さんには「ばあや」みたいな呼ばれ方をしている人がいるのかと思えば、そういうポジションは存在しないみたいなんだけれど。
「屋敷の中には異能の力を持たない者のほうが多いでしょう? 菜摘のお父様もお母様も、お祖父様もお祖母様も能力を持たない方ですから、お手伝いの方も異能を持たない方がほとんどです」
そう説明してくれたのは七倉さんの師匠ともいうべき能力の使い手、楓さんだった。ふだんは久良川から遠い街に暮らしているはずの楓さんが、どうしてか七倉さんのすぐ左手の席に座っていた。楓さんは相変わらず何を考えているのか分からないような笑顔だった。
実は、僕はこのひとのことがちょっとだけ苦手かもしれない。けれども、このひとの実力を知りながら、楓さんを得意とするひとがいるとしたら、そのひとはきっと化け物かなにかに違いなかった。たぶん、僕が楓さんを前にすると気後れしてしまうことも、楓さんはきっと分かっていることなんだろうな。
「司様のお祝いなのに出席しないのは失礼ですわ」
そう言って楓さんは素知らぬ顔をしているけれど、楓さんがこの場に居るだけで何か事件のようなことが起こりそうな気がしてならない。一応、七倉さんと楓さんの向こう側には京香さんがいるので、何の断りもなく厄介ごとが降りかかってくることはないと思うんだけど。
「……今回は司様がこれまでにお会いした異能の使い手の方々に連絡をいたしました。他にも、久良川の町に暮らす能力者の方にお声がけはいたしましたが、まだお会いにならない方々の中には、望んで姿を隠していらっしゃる方もおりますから、多くを集めることはできませんでした」
いつもよりもちょっとだけ目つきの優しい京香さんの説明通り、今日このお屋敷に集まってくれたのは、七倉さんや楓さんを除けば、そのほとんどは久良川の町ではささやかな異能の力をもつ人たちだった。見かけだけだと単なるおじいちゃんだったり、おねえさんだったり、おじさんやおばさんだったりする。
僕のすぐ隣の席に座っている倉橋先輩も、先輩のひいおじいさんと一緒に出席してくれていた。掛けることを得意とする倉橋の家。けれども、先輩だけでなくひいおじいさんも能力はさっぱり使えないと言っていた。ひいおじいさんの先代は立派な使い手だったみたいだけれど、今は先輩の叔父さんがちょっとだけ能力を使うだけ。
そういえば、実は僕も少しだけ異能力者の血筋が流れている。僕の父親はとてもフツーのサラリーマンだし、母親も単なる主婦兼パートのおばちゃんだけれど、父方のおばあちゃんは、こっそりと「鍵掛け」の力を持っている。だから、血統の面で僕は先輩とそう大して変わりはない。もちろん、生まれよりも育ちのほうが重要だということなんだけれど。
じゃあ、どうして僕は祖父の後継者に選ばれたんだろう。
僕はこの町に引っ越してくるまではとても平凡な生活を送っていて、志野原さんのような不思議な能力を使う女の子はいたけれど、そんな非現実的な能力をもつひとがこの世界にいるなんて考えてはいなかった。
むしろ、祖父と長い時間を過ごしていたというのなら、僕ではなくて父や叔父や従兄弟のほうが適当なように思えた。たしかに僕の祖父には名前という共通点があるけれど……
「司くん、お味はいかがですか?」
僕が考え事をしながら、出されたお寿司をひとつずつ味わっていると、いつもとは違って着物を身に纏った七倉さんは、出席したみんなへの挨拶を終えるところだった。
「それはもう」
出された料理は評価が付けられないくらいに上等なものばかりだった。たぶん、立派な店構えをした料亭に出向いても食べられないくらいに、品質のいいものを揃えているに違いない。久良川町は海からも都心部からもそう遠く離れているわけではないから、ひょっとしたらこのお寿司も、船やトラックで運んできたものじゃないだろうか。七倉邸には料理人も出入りしているみたいだし、今食べているものも本当に作りたてみたいだし。




