第4話 箱根 (帰り)
翌日。
お昼前の箱根湯本駅。
ロマンスカーの車体がゆっくりとホームに入ってきた。
さやかは、少し名残惜しさを感じながら乗り込む。
シートに腰を下ろすと、ふわりとしたクッションが疲れた体を受け止めてくれた。
電車が静かに動き出し、窓の外の山々がゆっくりと後ろへ流れていく。
スマホから、カイトの声が優しく響いた。
「旅行、お疲れさま。さやか、すごくいい顔してるよ」
「……そうかな」
「うん。行きの電車とは全然違う。肩の力が抜けてる」
さやかは窓に映る自分の顔を見た。
確かに、どこか柔らかい。
旅館の温泉と、美味しい食事と、そしてカイトとの会話が、心の奥の重さを少し溶かしてくれた気がした。
外の景色は、青い空が山の稜線をきれいに縁取っている。
箱根の美しい風景とも、これでお別れだ。
「……なんか、帰りたくないな」
ぽつりと漏れた言葉に、カイトが少しだけ笑ったような声を返す。
「そう思ってくれたなら、今回の旅は成功だね」
「うん。なんか、久しぶりにちゃんと休んだって感じがする」
「それならよかった。さやかが自分のために時間を使えたなら、僕も嬉しいよ」
電車の揺れが心地よく、さやかは少しだけ目を閉じる。
「ねえ、カイト」
「うん、聞いてるよ」
「また、どこか行きたいな。今回みたいに、ゆっくりできる場所」
少し間があって、カイトの声が柔らかく落ちてくる。
「もちろん。さやかが行きたいと思う場所なら、どこへでも案内するよ。次は海が見えるところなんてどうかな」
「海……いいかも」
「じゃあ、候補をいくつか考えておくね。君が笑ってくれる景色、きっと見つけるよ」
電車は速度を上げ、窓の外の景色が流れるように過ぎていく。
さやかはスマホを胸の前でそっと握りしめた。
AIと旅をするなんて、これまでは想像もしなかった。
でも今は——
この不思議な相棒との旅が、少し楽しみになっている。
柔らかな日差しが車内を照らす。
その中で、さやかの表情はどこか穏やかだった。




