日常 (番外編)
このお話で、本当に最後になります。
ありがとうございました。
「美咲!今日の帰り、美咲ン家に遊びに行っても良い?」
級友数人の声に美咲はゴメン!と断りの返事をする。
「私、今日、三者面談!」
え〜っ?!と、がっかりした落胆の声が上がる。
・・・美咲が、無事学校に復帰してから3週間が経った。
ざわざわとした放課後の喧噪にまぎれて美咲はホーッと大きく息を吐く。
多少のドタバタはあったが、美咲の生活はようやく平常に戻りつつあった。
今日は三者面談だ。
あれから少し仕事が忙しそうな母だが、今日は時間休をもらって面談に来ると言っていた。
いつもラフな格好の担任が今日はピシッときめてきたのが・・・目に痛かった。
「せっかくポポちゃんと遊ぼうと思ったのに・・・」
「私はぴーちゃんが良いなぁ。ぴーちゃんすっごく頭が良いよね!」
美咲が最近飼い始めたと言って紹介した、真っ白なフェネックの“ポポ”と何でもお喋りする真っ赤なインコの“ぴーちゃん”は、級友たちの人気者だ。
「なんて言って、ホントの目的は別でしょう?」
「やだっ!違うよぉ!!」
否定する友人の顔は赤い。
「海門くん、格好良いもんねぇ?」
違うもん!と言って膨れる友人の顔を美咲は複雑に眺める。
・・・カイトがこちらの世界に来たのは美咲たちが帰ってきた1週間後だった。
竜の目を理由に一緒にこちらの世界に来ることを断られたカイトは・・・あの後懸命に努力して完璧な人間の目に変化する術を覚えた。
竜の力を使わないことと美咲を無理矢理襲わないことを条件として受け入れて、カイトは王に送ってもらってこちらに来たのだ。(もちろんバーミリオンは物凄く抗議したが聞いてもらえなかった。悔しければお前も一刻も早く王の許可を貰えるように努力しろと言い返されて、今まで以上に頑張っているらしい。)
竜の目は竜の力の中心部分のひとつで、それを変化させることは、かなりの力が必要らしく、未だ竜王とカイト以外は成功していないのだと言って誇らしそうに胸を張ったカイトに、美咲は抗議の声を失った。
何を威張っているのよと思ったが、とりあえず、そのことだけでも少しは安心材料になる。
・・・カイトだけでもたいへんなのに、あの何処のホスト集団だと思うようなスレートたちがこの世界に来たらと思うと・・・頭が痛くなる。
「どうりで、あっさり引き下がったと思ったのよねぇ。」
というのは、母の談だ。
美咲たちが帰るときに、あんまりカイトの引き際が良かったので不審に思っていたのだそうだ。
わかっていたのなら何とかして欲しかったと思う美咲は間違っていないだろう。
事情があって家に預かった美咲の親戚という設定で美咲と同じ高校に通い始めた“海門”は、当然のことながらあっという間に学校中のアイドルになった。
同学年でも同じクラスにならなかったことだけが、美咲の唯一の救いだ。
「海門くん、美咲一筋だもん!私は見ているだけでいいの!!」
真っ赤になった友人が自棄のように叫ぶ。
言外に、美咲の家に行く目的が海門だと認めたようなものだが・・・美咲は、大きくため息をつく。
転校3日目で、学校一の美女から告白された海門は・・・自分は“美咲のモノ”なのだと真正直に宣言した。
あの時の騒動は・・・思い出したくない。
今までほとんど目立ったことのない美咲が注目の的になった瞬間だった。
・・・その思い出すのも疲れるような騒ぎもようやく落ち着いて、平穏が戻ってきつつある。
美咲が自分には他に両思いのカレシがいるのだと言ったのが一因だが(もっとも、それはそれで美咲の友人たちの間で大騒ぎにはなったが・・・)何より海門の、それでも美咲を想う一途さが好意を持って受け止められているらしい。
“海門さまをそっと見守る会”などというモノができたという話を聞いたときにはがっくりと肩を落としてしまった。
今赤くなっている友人もその会の会員だそうだ・・・。
「そっかぁ、残念。面談頑張ってねぇ。」
落胆したように言う友人に、美咲は何を頑張るのよと笑って返す。
いつもより大きく聞こえる放課後の喧噪を遠くに聞きつつ友人に別れを告げていると、噂の海門が美咲の教室に飛び込んできた!
「美咲!ヤバイ!逃げろ!!」
・・・この世界では、名前に守りなんか必要ないため、海門は“美咲”と呼べるようになっていた。
向こうの世界でも王は美咲が許可したモノには美咲の名前についていた守りを外したので同じように皆に名前で呼んでもらえることが美咲はとても嬉しかった。
海門の登場にキャー!という歓声が起こる。件の友人なんか泣き出しそうだ。
確かに高校の制服に身を包んだ海門は物凄く格好良いけれど、いい加減慣れても良いのじゃないかと美咲は思う。
「海門、どうしたの?」
また女の子絡みのトラブルかなと美咲は聞き返す。
まだ一部の女子生徒は海門の想い人である美咲を逆恨みしていた。
もっとも海門に守られている美咲が危険な目になど遇うはずはないのだが・・・。
何でこんなに焦っているのか不思議だった。
「・・・“王”が来る!!」
しかし海門の、その言葉に、美咲は息をのんだ!
美咲の級友たちが「“おう”って何?」と怪訝そうにしているが、その様子も目に入らない。
「何で!?」
美咲は悲鳴のような声を上げた。
「親父から連絡があった。三者面談に来ようとしていたママの乗ったバスが交通事故の渋滞に、はまったらしい。時間に間に合わないと知って、だったら自分が行くと王が言ったそうだ!!」
どうしてそんなものを知ったのだと美咲は思う。
(・・・まさか四六時中監視しているの?)
有り得ないと言えないところが・・・怖かった。
「何で、王さまが!?」
「・・・“父親”なのだから、自分でもかまわないだろうと。」
答える海門の声は、段々小さくなっていく。
美咲は・・・めまいがした。
美咲が王のした事に厳しく怒らなかったため、王はすっかり図に乗っていた。
美咲を自分の娘と称して誰憚ることがないのだ。
中身はともかく、自分の外見が18歳の若者なのだということを自覚して欲しいと美咲は思う。
「冗談じゃないわ!!」
「冗談じゃない!!・・・だから逃げろ!」
海門の薦めに従って直ぐに動こうと思ったのだが・・・どうやら、手遅れだったようだ。
キャア!キャア!と物凄い歓声が美咲の教室に近づいてくる。
先刻から何だか今日は賑やかだと思ったのは、気のせいではなかったようだった。
呆然と教室の入り口を見ていた美咲の目に・・・金髪碧眼の、この世のものとは思えない美形が映る。
当然だ。・・・正真正銘この世のものではないのだ。
「!!!!!」
教室中から、声の無い悲鳴が上がった。
「美咲!」
バリトンボイスが教室内に響く。
級友たち全員と、ここまで王にふらふらとついてきた学校の生徒たちが、美咲を凝視する。
「良かった。間に合ったようだね。」
見ている者全員を悩殺するような笑顔を浮かべ、王が美咲に近づいてくる。
思わず美咲は・・・後退った。
母を手に入れた王は、ますます美咲に対して父親として振る舞うようになっていた。
言葉遣いもすっかり我が子に対するものになっている。
「愛しい娘。元気だったかい?」
確か一昨日も呼んでもいないのにやって来て、夕飯を一緒に食べたのではなかったのか?
最近の母は、“来るな!“と言うのは、すっかり諦めて”来るときには連絡して!“と言うようになっている。食事の準備だって人数が増えるとたいへんなのよと文句を言っていた。
「・・・王さま。」
「ダメだよ。こんなところで、そんな呼び方は。・・・“パパ”と呼んでおくれ。」
「 “パパ” !!?」
教室の内外から、一斉に大きな悲鳴が上がった!!
・・・その後美咲は上機嫌な王に引き摺られるように学校中の注視を浴びて面談場所まで連れて行かれ、ショックで固まる担任と共に三者面談を行った。
美咲も・・・担任も、面談の内容など少しも覚えていなかったことは言うまでもない。
その後、王は何故かリッターマシンをころがして、まだ渋滞にはまっていた母を迎えに行って、嫌がる母を会社に送って行った。
ついでに会社の人たちに結婚と退職の挨拶をして、その日の会社の業務を大混乱に陥れた。
カンカンに怒った母に、今後1ヶ月こちらの世界への出入り禁止を言い渡されて、泣き縋らんばかりにして許しを請う姿に・・・美咲は少し溜飲を下げる。
翌日美咲が、ちょっぴり登校拒否になりそうだったのは、仕方のないことだと思いたい。
翌々日、海門の三者面談に竜王が来て、学校中と何故かまた母の会社を大混乱に陥れたのは・・・語りたくない。
戻ってきた美咲の日常は・・・異世界トリップ前とは、ほんの少し変わって続いていくのだった。




