第三話 王者の麻雀ですわ〜
"本日の配信は、麻雀をやってみます! お時間がありましたら、ぜひ当チャンネルにお越しください!”
動画作成明けの昼過ぎにそんなXのポストが目に入った。新人VTuber鏡月翠恋の配信告知ポストだ。
「麻雀か……意外と撮れ高が高いジャンルなんだよな。でも僕、麻雀ってあまり詳しくないんだよなあ……。どうするか……」
僕は少し考えて、PCでチャットアプリを開いた。
「よし、助っ人を呼ぼう」
僕はお目当ての人物の名前を探し出し、その人にチャットを打った。
『けんGさん、こんにちは。確か麻雀詳しかったですよね? ちょっとお願いしたいことがあるんですけど、いいですか?』
けんGさんは、栗リソさんと同じ僕の動画投稿者仲間だ。正確には動画投稿者兼配信者である。
そんなけんGさんとは、僕がけんGさんの配信の切り抜き動画を作ったことで知り合った。僕の動画を気に入ってくれたけんGさんが、僕のXにDMして交流が始まったのだった。
確か、けんGさんは麻雀配信や麻雀の大会にも出ていたはず。今日の翠恋の配信をけんGさんと同時視聴して解説をしてもらおうという算段だ。
『やあキリハルくん、こんにちは。麻雀はNTRと同じくらい好きだよ。なになに? 誰かにネトラレされたの?』
『すみません、NTRは関係ないです。麻雀配信を見たくて解説をお願いしたいんですけど、構いませんか?』
けんGさんは表では知られていないが、実はドMでNTRの変態なのだ。僕の動画友達には変態しかいないな。
『ああ、構わないよ』
『本当ですか? ありがとうございます! それじゃあ今夜21時前にまたVC繋ぎましょう!』
——数時間後
時間は21時の5分前となった。僕はアプリを立ち上げてけんGさんとVCを繋いだ。
「こんばんは、けんGさん。聞こえますか?」
「こんばんは〜聞こえてるよ〜」
「今日はよろしくお願いします! 麻雀はあまり知らなくて……」
「こちらこそよろしく。麻雀は大まかなルールも知らない感じ?」
「いや、簡単なルールならわかります。役とかセオリーみたいなのとかは分かんないですね。あ、ダイサンゲンとかコクシムソウとかは聞いたことあります」
「なるほど、そのレベルか。了解! 頑張ってねっとりと解説するよ!」
「いえ、普通に解説してください」
「ふふ、キリハルくんは相変わらずつれないなあ。でもそういうところが良いんだよね」
「そろそろ始まりそうですね。配信画面を開いておこう」
「ふふふ、僕、最近は放置プレイでも気持ちよくなれるようになってきたんだよね。いいよ! そういうのもいいよ!」
クソッ、スルーしてもダメとは厄介な変態だな……。でも、こっちがお願いしている立場だし、今日は我慢するか。
そんなことをしているうちに21時になり、翠恋の配信が始まった。
「こんばんは、皆様! 今日も配信を見て頂きありがとうございますね」
今日の同時接続者数を見ると、200人前後と今までで一番多い数字だった。順調に伸びていて推している自分としても嬉しい限りだ。
「本日は麻雀をやりたいと思いますわ。わたくし、麻雀はお父様たちに教えてもらってますの。今日はわたくしがトップを取るところをぜひ見ていってくださいね!」
翠恋がそう言うと、配信画面が麻雀ゲームの画面に切り替わった。
「今日はランクマッチをやるみたいだね。ランクは……意外と高いな」
マッチングが完了したようで、ゲームが開始された。
「わたくしが親ですわね」
四人に麻雀牌が配られていく。全てが配り終わった瞬間だった。
「ツモ〜」
なんだか気の抜けた声がゲームから聞こえてきた。
画面が激しく明滅してバシューッと派手な演出が画面を彩る。
「あら、アガりましたわ〜」
「ファッ!? 天和!!?」
「え? もうアガったんですか?」
「い、いや、これはテンホーと言って、親が配牌の状態でアガっていると成立する役満なんだ。およそ33万分の1の確率で出る激レアの役満なんだよ!」
33万分の1ってめちゃくちゃ凄いな……。コメントも大盛り上がりだった。
“天和とか初めて見た!”
“一発目から天和ってやばくね?”
“すごい運だな”
“勝ったなガハハ!”
ピロピロピロと翠恋に他の人から16000点ずつが入ってきて、既にとんでもない点数差ができていた。
「じゃあ次の局いきますわ〜」
次のゲームが始まり、また新しい牌が配られた。
「ツモ〜」
さっきの再放送かの如くバシューッ! という演出がまた現れた。
「あら、またアガりましたわね」
「ば、ば、バカな!? 二回連続で天和とかありえない!」
「う、嘘でしょ!?」
33万分の1の確率を二回連続って天文学的な確率じゃないのか? っていうか、今ので他の三人の点数がマイナスになったぞ。
“一打も打たずに終わったんだが?”
“俺が知ってる麻雀と違う……”
“いやこれチートだろ?”
“ど、どういうことなんだぜ?”
“同卓した人たちかわいそう”
コメント欄も何が起こっているのか分からず困惑している。
「あら、もう終わっちゃいましたわ。トップ取れましたわ〜」
当の翠恋は左右にぶんぶんと揺れて喜んでいる。そんな様子を見ながら僕とけんGさんはあまりの出来事に愕然としていた。
「前にお父様たちが運量に差があり過ぎるとこんなことが起こるって言ってた気がします。ま、たまにはこう言うこともありますわ〜」
「う、うーん? すみません、けんGさん解説をお願いします」
「いや、解説のしようがないんだけど……」
けんGさんの声が震えていた。それだけとんでもないことが起きてしまったのだろう。やはり鏡月翠恋は只者ではないのか?
「それでは次の半荘を始めますわね」
そういうと、画面が切り替わって次のゲームが始まった。
今度も翠恋が親でスタートだ。またアガるんじゃないのか? という期待と恐怖が入り混じった思いを胸に僕たちは画面に牌が配られるのを見守った。配信が謎の緊迫感に包まれる。
「ん〜、流石に今度はアガれませんでしたわね」
僕とけんGさんは何故かホッと胸を撫で下ろした。今度はちゃんとゲームとして成立しそうだ。翠恋はしばらく牌を引いて捨ててを繰り返した。
「この子、捨て牌に迷いが無いな……。普通は少し考えるものなんだけど、牌を引いたらすぐに捨てている」
「へぇ、頭の回転が早いんですかね?」
「いや、まるで引く牌がなんなのか分かっているような……まさか全てのパターンを予測しているのか!?」
けんGさんがブツブツと独り言を言っている。完全に自分の世界に入り込んでしまっているようだ。何だかよく分からないけど凄いみたいだな。
「あ! ロンですわ〜。タンヤオ、ドラ1ですわ!」
いつの間にか翠恋がアガっていた。今度は2000点をゲットしたようだ。
「相手の立直を軽い手で流した! 凄い攻め麻雀だ……。もう既に彼女はこの場を支配しているのか……!」
ざわ……ざわ……となんか変な音が聞こえてきた気がした。けんGさんはすっかり翠恋の麻雀の虜になってしまっている。解説のために呼んだのに麻雀漫画のモブみたいなことしか言わなくなってしまった。人選間違えたかなあ。
そんな感じでゲームが進み、結局今度も翠恋がトップをとって終了となった。
「やりましたわ〜!」
“つ、強過ぎる”
“君、麻雀うまいね〜”
“おめでとー”
“打ち方しっかりしてんなあ”
“やたらドラが乗ってたけどなんなんだ?”
翠恋の二連続勝利にコメント欄も大盛り上がりだった。
「最後まで迷いのない打ち筋だった……。これは……王者の闘牌だ……!」
けんGさんはまだよく分からないことをブツブツと言っていた。今日はもう使い物にならないかも。
その後もゲームが何戦か行われたが、その全てのゲームで翠恋はトップを取った。
「今日はいっぱいアガれて楽しかったですわ! それではごきげんよう~」
気がつけば、翠恋の配信が終了していた。詳しいところは分からなかったけど、トップを取り続ける翠恋の麻雀は爽快で楽しかった。この気持ちをうまく切り抜き動画で表せたらいいな。
「キリハルくん、今日は誘ってくれてありがとう。いいものを見させてもらったよ!」
「それは良かったです。途中から放置プレイされてましたけど」
「気持ちよかっただろう?」
「いえ全く」
そう言って僕はけんGさんとの通話を切り、すぐに動画作成ソフトを立ち上げた。この気持ちが熱いうちに動画を作ってしまいたかった。
今回はやっぱり天和のとこが見せ場だろう。ここはテロップを大きくして、演出も派手に……コメント欄をアップにして……何度見てもここは凄すぎてワケが分からないな。ここのところはショートにしちゃおう。
そんな感じで僕は朝までかけて一気に動画を作成し、YouTubeへとアップした。
今日もいい仕事をした! 全てを終えた僕はベッドに寝転んで深い眠りへとついた。
その日、僕が起きたのは夕方過ぎだった。寝ぼけ眼を擦りながらアップした動画の様子を見ると、とんでもなく再生数が伸びていて一気に目が覚めた。
「なんだ? 何があった?」
コメントを見てみると、どうやら二連続で天和をアガったことがバズっているようだった。作戦通り……と僕はニヤリとほくそ笑んだ。
そんな動画の再生数に気分が良くなった僕は、次にスマホでXを開いた。僕の予想が正しければきっと……うむ、やはり僕の予想通り、今回の僕の動画告知ポストにも翠恋から引用リポストが付けられていた。
「何だか褒められているみたいで嬉しいですわ! ちなみに、わたくしのお父様たちはもっと麻雀が強いですわ〜」
す、翠恋より強いとか、どんだけ豪運なんだ……? やっぱり翠恋の家はどこかの富豪で王者の家系なのだろうか? 謎は深まるばかりだ……。




