表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

第7話 ~明晰の鉛筆~

「紬、今日は良い品が手に入ったよ」

「なんです?」

 命さんはカウンターにカラン、と新品の鉛筆を置く。

「鉛筆?」

「これは『明晰の鉛筆』。これを持って勉強すると答えがすらすらわかる」

「テストに使ったら百点とか取れるんですか?」

「取れるよ」

 命さんはきっぱり断言する。

「まあ、鉛筆を持っている間しか効果は出ないけどね」

「へぇ~」

「いるかい? 学生からしたら喉から手が出るくらい欲しいだろう?」

「……いくらですか?」

 命さんはにこにこ笑って言う。

「十万円」

「いらないです」

「ざ~んね~ん」

 命さんは鉛筆をカウンターに置いたまま立ち上がる。

「どこに行くんですか? 鉛筆は?」

「ちょっと用事があって出かけるから、店番頼んだよ」

「え」

「鉛筆は帰ったら商品棚に置くよ」

 私は慌てる。

「み、店番って何をしたら……!」

「お客さんの相手してくれたらいいから~。じゃ、行ってくるね~」

「命さ……!」

 私の嘆願虚しく命さんは出ていった。

「どうしよう……」


「……」

 とりあえず命さんがいつもいるカウンターに座ってみる。

「(これが……いつも命さんが見ている景色か……)」

 扉を正面に見据え、商品棚に囲まれたこの席で命さんは何を考えているのだろう。最近、少しだけわかった気がする。命さんが私に伝えたい事。

「(お客さん来ないな~。これなら楽勝……)」

 カランカラン。

「(げ……!)」

 来客を知らせるドアベルが鳴って焦る……が、そこにいたのは……。

「福田くん……?」

「春日? なんでここに?」

 福田 鉄平くん。私がこの店に来た理由の人。つまり、告白してフラれた人。

「あ、えと、私ここでバイトしてて……。福田くんはなんで?」

「井上にこの店の事聞いて」

 井上さん……口紅を買っていった……。

 まあ相手が誰であれ接客をしなければ。とりあえず命さんの真似をしてみる。

「えーっと、何が御入り用で?」

「あー、その」

 福田くんは頭をがりがりと掻く。

「来月テストあるじゃん」

「あるね」

「勉強できる様になる道具とかねぇ?」

 私はカウンターの上の鉛筆を見る。ある。ちょうどある。

「まあ……あるよ」

 私は鉛筆を指差して道具の説明をする。

「! じゃあそれくれ!」

 命さんのいない間に商品を売っていいのか悩んだが、接客してくれと告げたのは命さんなんだから、後から何か言われても私は悪くない。

「じゃあ十万円になるけど」

 私が鉛筆の値段を述べると福田くんは目を丸くした。まあそんな反応になるだろう。

「マジで言ってる??」

「マジだよ」

「今度のテスト良い点取れなきゃ親にゲーム没収されんだけど……」

「って言われてもなぁ……」

 福田くんは食い下がる。

「値下げできねぇ?」

「う、うーん……店主がいないからなんとも言えなくて……」

「店主がいない?」

「今留守中。私が店番してる」

 それを聞くと福田くんは何かを思いついた様だ。

「なあ……その鉛筆、くれよ」

「え、だから十万円……」

 福田くんは顔を寄せる。

「鉛筆一本くらい無くなったって気付きやしねぇだろ?」

 ああ、そういう事か。絶対気付くだろうけど、問題はそれではなくて。

「ここはお店で、これは商品。勝手にあげるなんて泥棒だよ」

「な、な! 頼むよ!」

 福田くんは手を合わせるが私は首を横に振る。

「じゃあさ」

「?」

「付き合ってやるからくれよ」

「……」

 以前の私なら飛びついただろう。なにがなんでも福田くんと付き合いたかった。けど、今は違う。

「このお店はね」

 ここで働いて、いろんな人達を見て、命さんの事を知って、私はわかったんだ。

「みんなの幸せを願ってる。でも幸せって自分で掴むもの。道具はあくまできっかけで。値段にだって理由がある。道具だけに頼った幸せなんて……本当の幸せじゃない」

 私は福田くんを真っ直ぐ見つめる。福田くんは目を反らした。

「わかった……。自分でなんとかしてみる……」

 福田くんは店を出ようとする。その前に。

「春日、変わったな」

「まあね」

「今なら付き合いたいって思うよ」

 私は笑って答える。

「ごめん、好きな人いるから」

「そっか」

 福田くんはそう言って出ていった。

「これで……良かったんだよね、命さん……」

「とても良かったよ」

 いつの間にかすぐそばに命さんが立っていたので私は驚いた。

「みみみみ命さん!?」

「紬、成長したね」

 そんな私に命さんはいつもの様に穏やかに話しかけるものだから、私もなんだか落ち着いて。

「命さん、こうなるってわかってたんでしょう?」

「どうだろうね」

 命さんは相変わらずにこにことしている。

「紬、掃除を頼むよ」

「はーい」

 神様のなんでも屋は今日も通常運転だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ