第6話 ~勇気の香水~
「(あともうちょっとで十万貯まるけど……私はどうしたら良いんだろう……)」
私は上の空で掃除をする。
道具はきっかけ。後は自分の力。なら私は……。それに……。私は命さんをちらりと見た。
「なんだい、紬」
「いっいえっ、なんでも……」
私は命さんの事を……。残酷で、優しくて、冷徹で、人の幸せを願っていて……。私は……。
カランカラン。
ドアベルが鳴る。
「いらっしゃい、神様のなんでも屋へ」
「え、あ、ここって……?」
中学生くらいだろうか。おどおどした女の子が店と私達をキョロキョロと見回す。
命さんはいつもの様に店の説明をする。
「それで、何か御入り用かい?」
「……わ、私……」
女の子は勇気を振り絞る様に言う。
「好きな人に告白したいんです……!」
告白……。縁結びの赤い糸でも用意するのだろうか。
命さんは穏やかに言う。
「告白する勇気が欲しいのかい?」
「はい……私、引っ込み思案で……」
「ならこれはどうだい?」
命さんは立ち上がり、商品棚から小さな瓶に入った物を取ってくる。
「これは……?」
「勇気の出る香水だよ。これを振りかければたちまち勇気が湧いてくる」
女の子はまじまじと瓶を見て言う。
「お、お、おいくらですか……?」
「香水全部なら十万円」
「十……!」
女の子は驚く。それはそうだろう。
「でも、君は一回分だけ欲しいんだろう?」
「は、はい……! 告白できれば、それで満足なので……」
女の子は首を縦に振ってうなずく。
「一回分なら三千円。使用後の感想を聞かせてくれるなら千円引き」
「そ、それでお願いします……!」
命さんはまた立ち上がり、商品棚からさらに小さな瓶を出す。
「はい、一回分」
「ありがとうございます……!」
女の子は代金を支払い店から出ていった。
「上手くいくと良いですね」
私は命さんに言う。
「どっちでもいいんだよ、あの子にとっては」
「? どういう意味ですか?」
「じきにわかるよ」
数日後、香水を買った女の子が店にやって来た。
「こんにちは!」
なんだか晴れ晴れした顔をしている。それと、なんだか自信のある立ち振舞い。
「こんにちは。告白は上手くいったかい?」
「フラれました」
「え……」
フラれちゃったの!? 駄目じゃん!
「君が望むなら商品を売ってあげるよ」
女の子は首を横に振る。
「私、告白できただけでいいんです。ずっと、ずっと言えなかった。でも、言えた。それだけでいいんです」
「ならもう商品はいらないね」
「はい、ありがとうございました」
女の子はお辞儀をして……笑って去っていった。
「……」
告白できただけで……あの子は満足なんだ……。その勇気が持てただけで、あんなに晴れやかに……。
「この経験は、あの子に自信を持たせた。これからも、上手くやっていけるだろうね」
命さんは私を見る。
「告白するという事は、とても尊い事だ。例え結果がどうなろうとも。紬、君も自信を持ちなさい」
「命さん……」
命さんは「ね」と笑いかける。
ああ、そうか。もうわかってしまった。私はこの人に惹かれたんだ。
それを告げる勇気を、私は未だ持てずにいた。




