第2話 ~復讐の藁人形~
「(今時ハタキて……)」
私は商品の棚をパタパタとはたく。ワイパー的な物はないのだろうかなんて考えながら黙々と掃除をする。
「うんうん、良い仕事っぷりだね」
「あ、ありがとうございます……」
命さんは相変わらずにこにこしていて何を考えているのかよくわからない。働いているうちにわかる日が来るのだろうか。
カランカラン。
「おや、お客様だ」
扉の方を向くと、三十代くらいの女性が立っていた。なんだか自信無さげで暗い印象を受ける。
「あ、掃除って……」
お客さんが来たなら止めておいた方がいいかと命さんに聞く。
「そうだね……君も隣においで」
命さんはちょいちょいと手招きをする。私は掃除を中断して命さんの隣に行く。
「あの……ここって……」
お客さんの女性はおどおどと聞く。
「ようこそ、神様のなんでも屋へ」
「神様の……?」
命さんは私が来た時と同じ様な説明を女性へする。
「……なんでも……あるんですか……?」
「なんでもではないけど、大概の物はあるかもね」
「例えば……人を呪い殺せる様な物なんて……」
「殺っ……!?」
私は女性の言葉に驚愕した。まあ確かに人生、人を殺したいなんて思う事はある。けど本当に殺すなんて……。
「まさか……無いですよね……?」
「あるよ」
私の問いに命さんはあっけらかんと答える。
「あるんですか……?」
女性も少し驚いている様だ。
命さんはカウンターから立ち上がり、とある棚の前に行き何かを取って戻って来た。
「これは……」
「復讐の藁人形」
女性の言葉に命さんは答える。
「呪い殺したい相手の名前をこの紙に書いて怨みつらみを念じる。その後で燃やしてしまえば相手は死ぬよ」
命さんは藁人形と白い紙をカウンターに置く。
「殺すって……! 本当に……!?」
「そうだよ」
命さんはいつもの様ににこにこしていて……何を考えているのかわからない……。
「どうする?」
命さんは女性に問う。
「デメリットとかって……代償みたいなのは……」
「無いよ。僕の仕入れた最強の藁人形だから」
「……」
女性は命さんを見据える。
「買います。おいくらですか」
「五十万円」
「五十……!?」
私が先ほどとはまた違う事に驚愕していると、女性もまた驚いていたが覚悟を決めた様に言う。
「ここ……キャッシュレスって……」
「あるよー。各種揃えてます」
「あるんだ……」
古き良きみたいな趣の店のくせに……。
「今の時代、キャッシュレスやってなきゃね」
時代に乗ってる神様……。
「じゃあキャッシュカードで……」
女性は鞄を探る。
「あ、そうだ。使用後の感想聞かせてくれるなら一万円値引きするよ」
「え……」
女性は目を丸くする。
「今後の成長の為にご協力いただけるなら」
「ああ……そういう……。ならそれでお願いします……」
「まいどありー」
女性は代金を支払って藁人形を持っていった。私はただその後ろ姿を見るしかなかった。
私は命さんに問いかける。
「こういうの、命さん的にありなんですか……?」
「ありだよ。僕は神だ、仏じゃない。人の命だって奪うさ」
残酷だけど……神様はそういう側面がある事は私もなんとなく知っている。
「命さんは……なんでこのお店をやってるんですか……?」
命さんはにっこり笑う。
「お店に来た人の幸せの為」
数日後、いつもの様に店の掃除をしていると、カランカランと音が鳴る。扉の方を見ると、藁人形を買っていった女性がいた。
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
命さんが挨拶したのに続いて私もどぎまぎしながら挨拶をする。私は掃除を止め、カウンターに行く。
女性はどこかすっきりした様で、いくらか明るい雰囲気だ。
「こんにちは。経過はどうです?」
「無事に殺せました」
命さんの挨拶に女性は明るく言う。女性はぺこりとお辞儀する。
「ありがとうございます。これでやっと前に進めます」
女性の様子に私は何も言えなかった。人を殺すなんて……そう思っていたのに……。
「それは良かった。また何か御入り用なら、神様のなんでも屋を御贔屓に」
「そうならない様に願います。これからは自分の力で歩んで行こうと思うので」
命さんは、ふっと笑う。
「良い心がけですね」
「では、私はこれで」
カランカラン。
女性は扉の先へ去っていった。
「……」
「何か言いたげだね、紬」
「……何が正しいんでしょうね……」
命さんは穏やかに言う。幼子を諭すかの様に。
「何が正しいかなんてこの世にありはしない。大切なのはどう生きるかだよ」
「人を殺しても……ですか……?」
「時にはそんな選択も必要だよ」
「私には……わかりません……」
私はハタキを握り締める。
「あの女性を見てどう思った?」
「どう……どうって……」
それは……。
「幸せそうでした……」
「なら僕はそれで満足だ」
「……」
命さんの考えなんてわからない。けど、命さんはお客さんの幸せを考えている。それだけはわかった。




