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第31話 名も無き勇者

 テミスの固有魔法が発動した刹那、凄まじい爆発が巻き起こった。教会は一瞬の間に木端微塵となり、教会の半径数十メートルに及ぶ範囲が爆風によって壊れるか弾き出された。


 それは破天荒も例外ではない。大爆発の威力を間近で食らった破天荒は腰から上が跡形もなく消し飛び、残された下半身も爆風によって数十メートル先に飛ばされていた。


 地面に鈍い音を立てて着地した下半身は当然だが動かない。もはや確認するまでもなく死んでいると断定できる有様だが、魔族には常識が通用しない。


 聖教会は特にそれを知っている。


「再生する前に消し尽くせ! 肉片の一つも残すな!!」


 各地に潜伏していた聖テレジア騎士団の騎士たちが飛び出し、破天荒の肉体を消し去るべく総攻撃を仕掛けた。


「出し惜しみするなよ、奴は魔力を奪う術を持つ!! 奪われるくらいなら全部使い果たしてやれ!!」

 

 ある者は火の魔法を使って生成した火球を放ち、ある者は爆発で生まれた瓦礫や木片を風の魔法で飛ばし、ある者は水の魔法で生成した水の槍を投げる。


 彼彼女らは徹底して破天荒に接近することを避けていた。破天荒を取り囲みつつも近すぎない距離からの攻撃により、破天荒を削り切ろうとする。


 数にして約三百人、苛烈を極める猛攻はもはや爆発に等しい。三百人から放たれる攻撃魔法は雨の如く降り注ぎ、余波で生じた土煙の中に破天荒が隠れても止まらない。


「『星砕き(ランド・インパクト)』!!」


 熱血な男騎士ゴリアテは、右頬に彫られた六芒星のタトゥーを依り代とする固有魔法を発動させた。バルゼノンを囲む山々の一つがゴリアテと共鳴し、ゴリアテの意のままに動く巨人となって立ち上がった。


「丸ごと全部ぶっ壊せ!!」


 主の叫びに応えた巨人は悠然と拳を振り上げる。主の敵を滅するために、それは戦鎚となって振り下ろされた。


「やかましい」


 間もなくして快晴の空に届くほどの轟音が一帯に鳴り響く。


「五百年後の()()()が、我が物顔で出しゃばってくるんじゃあない」


 その音は大地が砕けた音ではない。一瞬の間に飛び出した破天荒が、その拳で巨人の頭を砕き割った音だった。


 頭を失くした巨人は物を言わぬ巨像と成り果てる。拳を振り抜くその巨像は、今にも動き出しそうだと思わずにはいられない迫力だけを放つばかりである。


「おいおいマジか……!?」


 ゴリアテは自分の目を疑った。たった今目撃した破天荒の膂力に、自らの魔法が一撃で砕き割られたという事実に、ただただ衝撃を受けていた。


「何で再生間に合ってんだよ…………三百人分の魔法を喰らったんだぞ!?」


 ゴリアテの驚愕に続いたのは、大楯を持つ女騎士シリウスである。ゴリアテの魔法を純粋な力で破壊した事実にも衝撃を受けていたが、半身を失くした状態から三百人の魔法をぶつけても届かないその再生能力に戦慄していた。


「だから弱者は嫌いなんだ……魔法も、覚悟も、信念も、何もかもが薄っぺらだ!」

 

 声を荒げる破天荒。大空を羽ばたくその身体はまだ完全には治っておらず、特に上半身は皮膚が殆どなく、どこを見ても骨や筋繊維が剥き出しになっているような状態だった。


「己惚れるなよ人間、本物の魔法とはこういうもののことを言う!」


 破天荒が天に右手を掲げたとき、空に四つの魔方陣が出現した。


 色は緋色で形は円形。それぞれ異なる部分はあるが、円の内側はいずれも幾何学模様で満たされており、また大きさはバルゼノンの国土に匹敵する程巨大である。


 空を埋め尽くす緋色の光に、騎士団はこれから起こるであろう惨劇の有様を垣間見た。

 

「攻撃来るぞ!! 防御態勢!!」

 

 誰よりも早く意識を切り替えたゴリアテが指示を出す。半ば放心状態にあった騎士たちもすぐさま我に返り、近くにいた仲間達と集合することで幾つかの集団を形成する。迅速かつ迷いの無いその動きは、慣れている者だけが発揮できる手際の良さがあった。


「向かってくるか……ならば王道にて蹂躙してやる!」


 破天荒はそれに構わず魔法を発動させた。


「"天火イグニス"、"暴風(ヹンタス)"、"万雷トニトルス"、"大氷グラキエース"────真の魔法を思い知れ!」


 詠唱と共に降り注ぐのは灼熱の豪雨、地に落ちる大竜巻、無数の雷の槍、氷の流星。四つの天災が同時に発生したような光景が快晴の空を染め上げた。


「並列四重詠唱だと!? 何だよその神業!! 何喰ったらそんなこと出来んだ!!?」

「そんなの知らないわよ! 白いリンゴでも食べたんじゃない!?」

「言ってる場合かこのスカタン!! 早く構えろ!!」


 ざわめきながらも、陣形を固めていた騎士たちは即座に行動した。地上に落ちてくる災害に対し、魔法をぶつけることで応戦する。


 魔法と魔法、空で鍔迫り合いが始まった。


 浄罪執行者エグゼキューターが聖教会の最高戦力なら、聖テレジア騎士団は主戦力だ。ヨームやテミスのような規格外こそいないが、個々人が突出した戦闘能力を有する精鋭であり、そして五百年に渡る積み重ねによって魔族という存在を熟知している。


 聖教会は五百年という歳月をかけて魔族という種族を知り尽くし、対策し、そして今日、ついに宿敵と対峙したのだ。


「……論外」


 唯一抜きん出て並ぶ者無し。


 人智を逸脱した魔法と魔力量は魔族の本領だが、破天荒はまさに異次元、何者も届かない頂点の世界に君臨する。


「なんだよこれ……! いくらなんでも理不尽だろ……ッ!」


 その暴力を前にして、誰かがぼそりと呟いた。その小さな声は蝕む毒のように伝播し、騎士たちの心に弱気の種を植え付ける。


「────どりゃあああ!!!」


 直後に轟いたのはシリウスの雄叫びが轟いた。


「破天荒がなんぼのもんじゃああ!! これしきの力じゃ、私達には勝てねぇぞ!!!」


 絶望的な力の差を前にしても、シリウスは諦めていなかった。その熱い闘志は叫びを通じて広がり、騎士たちの心を奮い立たせる。


 この機を逃さんと、ゴリアテがシリウスに続いて声を上げた。


「粘れ!! 抗え!! 奴が魔力を使うたびにその命は削れていく!!! ならば抵抗こそ俺達が出来る最大の攻撃だ!!」

 

 おおおおおおおお!!!!


 窮地極まるこの状況、騎士団の士気が上昇した。勢いづいた騎士団の力は凄まじく、ついには圧倒的な破天荒の力を押し返し始める。


「忌々しい……!」

 

 破天荒は舌打ちする。騎士たちからひしひしと伝わってくるその必死さが、頭の片隅にある魔王軍の姿と重なって見えていた。


「身の程を弁えろ! お前ら一人では生きていけないようなクズどもの分際で、俺に抗えると思うな!!」


 内なる怒りは炸裂し、そのエネルギーは魔方陣の出力を一気に押し上げた。やっとのことで掴んだ優勢も束の間、騎士たちはまた窮地に追い込まれた。


「こんの、"魔王"が…………ッ!!」


 勝機の見えない鍔迫り合い、自分たちの限界を超えた本気の力でも届かない破天荒の力。絶望的な力の差を痛感したシリウスは歯を食いしばた。


 それでもまだ、闘志の火はシリウスの青い瞳の中で燃えている。


「舐めんじゃねぇぞ……テメェっていう魔王が居るなら────こっちにゃ()()がいるんだよ!!」


 シリウスが言い放ったその刹那、巨人の巨躯を足場にして飛び上がったテミスが破天荒の背後を強襲した。破天荒が反応するよりも早く、疾風の如き剣の一撃が破天荒の首を落とさんとして迫る。


「うろたえ者め、同じ手はもう食わんぞ」


 読まれていた。


 破天荒のうなじに浮かび上がる緋色の魔方陣、そこから飛び出した無数の影の手がテミスの剣を掴み止めた。


「魔力感知をすり抜けるその体質も結局はただの初見殺しだ。認識阻害で存在の気配を消したところで、お前が移動することで生じる大気の揺らぎは隠せない!」


 無数の手に握り潰されたテミスの剣は砕け散り、持ち手を残して塵となる。


「自分なら俺に勝てるとでも思ったか!? 現実から目を逸らし、正義という中身の無いハリボテに心を砕くような軟弱者が、この俺に勝てると思うな!!!」


 激しい剣幕を浮かべながら破天荒がテミスに振り向いた次の瞬間、その身体に天秤の紋章が浮かび上がった。


「不朽不屈。世界に悪がある限り、正義はただそれを滅するのみです」


 テミスが静かに呟く。


 「『大粛清ジャッジメント』」

 

 天秤の紋章が淡い燐光を放つ。


 次の瞬間、破天荒の全身は粉微塵になって砕け散った。

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