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第32話 すべてをうばうもの

投稿空いてしまい申し訳ありません……就活でバタバタしてました……

 一つの魔法には一つの魔法効果がある。火の魔法は火が、水の魔法は水が、というように。


 この原則は固有魔法を含む全ての魔法に当てはまる。しかしテミスの固有魔法『大粛清ジャッジメント』は二つの魔法効果を持つ特殊な魔法である。

 

 その効果を一言で表すならば「殲滅」と「反射」。「殲滅」は相手が犯してきた罪(殺しや盗みなど)の数に比例して攻撃の威力が上がる。この威力上昇は時折テミスすら巻き込むほど過剰になる場合もあるが、これによってテミスが傷を負うことは無い。


 「反射」は相手から直接受けた攻撃のダメージを相手に全て反射する。殴打や蹴りは勿論、魔法や弓矢等の攻撃も反射可能。その効果はテミスが持つ武器にも適用されるため、テミスの剣を粉砕した破天荒は粉微塵になった。


 頭も、四肢も、胴体も。破天荒は夥しい量の血と共に爆散した。空の魔方陣も同様に砕け散り、四つの魔法は消滅した。代わりに砕かれたテミスの剣は元に戻っていた。


 「…………ッ!!?」


 予想だにしない展開に、空に放り出された黄昏色の瞳が驚愕に染まる。


「無い物を欲しがり、他者から奪う、強欲と傲慢に塗れた醜い獣。中身が無いのはあなたの方です」


 抑揚のない無感情なテミスの声が響く。小さな瞳がテミスを鋭く睨みつけた次の瞬間、飛び散った血液が凄まじい速度で瞳に引き寄せられ、破天荒が一瞬の内に人の形を取り戻した。


「知った風な口を、聞くなァ!!!」

 

 破天荒は激昂した。


 溢れ出す怒りは拳となってテミスを襲う。テミスは冷静にこれを剣で受け止めれば「反射」が発動する。その効果によって破天荒の左脇腹が抉れた。


「得意げな顔でペラペラ喋りやがって、俺の不意を突けたことがそんなに嬉しかったか!? 久遠を知らんガキの分際で、この俺を測れると思うな!!!」


 破天荒は感情に任せて拳を振るい続ける。一撃一撃がテミスを即死させる威力を持っていたが、怒りに支配された殴打は乱雑極まりないものだった。


 そんな攻撃を防ぐことなどテミスにとっては他愛もない。殴打は剣に防がれ、そのたびに「反射」によって破天荒の身体が欠損する。


「万物は力の代用品に過ぎない!!! 金も名誉も権力も、全ては力無き弱者が創り出した嫉妬の産物だ!!! 中身も無ければ形もあって無いようなガラクタを尊び、崇拝するお前らの方が、無い物ねだりの獣ではないか!!!」


 破天荒の腹に穴が開く。翼が折れ曲がり、足が千切れて肩も抉れるが、肉体は傷付いたそばから再生する。むやみやたらに攻撃するべきではないと頭では理解しながらも、その憤怒の拳は止まらなかった。


 怒りのまま拳を振るうことを、他でもない破天荒の魂が望んでいた。「反射」によってテミスは傷一つ負っていなかったが、あまりにも苛烈な猛攻の前に押される一方だった。


「強き者こそ至高の存在!! 世界を制するのは、何者をも蹂躙する暴力だ!!」


 破天荒が大きく拳を振りかぶった直後、とてつもなく巨大な拳が破天荒に直撃した。


 ゴリアテの『星砕き』だ。破天荒の意識がテミスに集中した隙を突き、ゴリアテが巨人を再び動かしたのだ。奇襲は見事に成功し、破天荒を撃ち落とすことに成功した。


「攻撃態勢!! 団長に続けェ!!!」


 撃ち落とされた破天荒が隕石の如き勢いで地面に激突したとき、ゴリアテの号令が騎士団を突き動かした。


 密集隊形を解いた三百人の波が押し寄せてくる中で、破天荒は土煙の中でゆっくりと立ち上がる。


「うがああああああああ!!!!」


 憤怒の咆哮がバルゼノンに震わせた。大音量は暴風となって土煙を引き裂き、向かってくる騎士たちに荒れ狂う気迫を叩きつける。


 おおおおおおおお!!!


 騎士たちは一歩も怯まず、むしろ雄叫びを上げて対抗した。瞬間、破天荒の足元に蒼白の光を放つ魔方陣が出現した。怒りで視界が狭くなった破天荒は反応が遅れ、魔方陣から飛び出した無数の光の鎖に拘束されてしまう。


「なっ!?」

「手印だけは結ばせねぇぞ……!!」


 『抵抗すんな(サレンダー)!』、光の鎖はシリウスの固有魔法によるものだ。彼女の大楯を依り代として発動した固有魔法が、破天荒の身動きを封じ込めた。


「小癪な真似を……ッ!!」


 拘束された破天荒は歯を食い縛りながらシリウスを睨みつける。


 土壇場で掴んだ好機に騎士団のボルテージは最高潮に達し、二度目の総攻撃が始まった。地水火風を問わない数多の攻撃魔法が撃ち出され、それら全てが破天荒を打ち砕かんと迫る。


「俺の終末の邪魔をするなァァァ!!!!」


 破天荒は怒りに吠える。


 迫ってくる無数の魔法と騎士団の包囲網、その少し後ろで一人立ち尽くすマリーの姿を見た刹那、破天荒の瞳が揺れた。

 

『大丈夫! 貴方は良い人です! 人相は最悪だし凄い捻くれてるけど、それでも子どもを助けられる良い人なんです! もし聖教会に疑われるようなことがあったら、その時は私が弁明してあげますからね!』


 記憶がフラッシュバックする。


 騎士たちが鬼気迫る勢いで押し寄せてくる中で、マリーだけは攻撃に参加していなかった。武器こそ構えてはいるが、その状態のまま動く素振りを見せない。


 その顔に浮かぶのは怒り、失意、悲しみ、或いはその全てが混ざった末の葛藤。


 立ち尽くすマリーを見るグラムの右目は黒かった。


「…………」


 この期に及んで躊躇うな。もう、なるようにしかならないんだから。


 心の中で呟くグラムの左目は黄昏色のままである。覚悟と決意で満たされたその顔は、微かな哀しみの色を含んでいた。


「顔つきが変わって────」


 シリウスが異変に気付いたそのとき、グラムは大きく口を開けた。


 そして皆が目撃する。


 天地を指差す二つの手。グラムの口の中で印を結ぶ二つの黒い影の手を────。


「『すべてをうばうもの(タイラント)』」


 迸る闇が世界を塗り潰した。

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