VS.ロザリア④ 能力差
お互いに有効な手がないから均衡が保たれている。
私にあってロザリアにないフラウの力も彼女には効かない。
未来予知はぜひともしたいところだけど、未来が視えたところでロザリアの取る手に対応できなければ意味がない。吸血鬼の肉体を捨ててまで視るのはきっとリスクが高すぎる。
私は、私達は依然変わらず、転移を利用した攻撃を繰り返している。
当たらなくても、ただただ続ける。
お互いにいつか出るだろうボロを待ち続けてひたすらに拳を出し、蹴りを出している。
私のボロはたくさんの可能性があるけれど、その中でもやってはいけないことは二つ。
転移を誤ることと、この模倣――――モード・吸血鬼を解除すること。
この二つさえきちんとしていれば、あとは耐え忍ぶだけ。
所々で攻撃に参加してくれているフラウをほったらかしにしてしまっていることは気がかりだけど、今は自分のことで精一杯だから信じることしかできない。
私にとってのロザリアのボロはあんまりないけど、狙っているのはとにかく一撃を通せる隙ができること。
どんな攻撃でもいいからとにかく一撃。
主導権を常にロザリアに握らせない。防戦一方にならないためにも本気で攻めないといけない。
「何度やっても無駄よ。あなたが転移した瞬間に私も転移すればいい。座標さえずらしてしまえばどうということはないのよ」
「そうかな? あなたが転移に失敗して私の攻撃が成功するかもよ?」
「それはないわ。自分の転移は失敗しない。私にとっては歩くことよりも簡単なことだもの」
確かに積み上げてきた事なら当たり前のようにできる。
私だって箸を使ってご飯を食べるのは当然のようにできるけど、それと似たような感覚なのかな。
うーん、そうなったらやっぱり持久戦になるのかな。
一応考えている手段として夜明けまで粘るという泥臭い方法があるけど、夜が終わってパワーアップタイムが切れても私より弱くなる保証はないし、仮に吸血鬼が弱体化するなら模倣している私もその影響を受けることになるので正直どうなるか分からない。
分からないことは知りたくなるし、視たくなっちゃうこの気持ちを必死に押し込めるのも中々大変なんだよね。
未来が視ることができれば突破口を開けるかもしれないけど、やっぱりそんな余裕はないよね。
「でも、同じことの繰り返しは芸がないからちょっと趣向を変えてみようか」
私はロザリアの力で空間を認識。
座標を読み取り、選択。
転移を実行。
でもそれは私の、ではない。
「やっ!」
「くっ、鬱陶しいわね」
私は空中でふわふわ浮かんでいたフラウをロザリアの後ろに飛ばした。
眼中にないから好きにさせてたんだろうけど、こうやってちょこまかされたら気になるよね。
そして――――一瞬私から意識が逸れたでしょ。
「隙ありっ!」
「ぐっ……」
反応の良さが仇となったね。
おかげで距離を詰めて念願の一撃を入れられた。
でも同レベルの肉体だからか、そんなに大きなダメージはなさそう。
少しだけロザリアが痛みを感じた素振りを見せたから無駄ではないんだろうけど、これは意識が異からの奇襲みたいなものだしそう何度も使えない。
それなら――――これはどう?
「フラウ! 今!」
今の私達の位置関係はロザリアの正面に私、背後にフラウと挟み込んでいる状態。
そんな中フラウは私の声に反応して背後からロザリアに風を放とうと周囲から風を集めた。
そして、放たれる直前、私はフラウと位置を入れ替える。
「やあっ!」
フラウの分かりやすい掛け声に合わせて私もロザリアの背後から風の弾幕を放つ。
ロザリアは……避けてるか。
でも私達のターンはまだ終わらないよ。
「フラウ、拾って!」
私達の間に立っていたロザリアは既に転移済みで、攻撃範囲から外れている。
挟み込むように位置取りをしていたから、フレンドリーファイアのような形になってしまうけど私達なら何も問題ない。
フラウは私の、私はフラウの風を再収集して己の力へと変える。
精霊の力と契約者の扱う精霊術。
同一の力故にコントロールに割り込むのもお手の物だ。
お互いに作り出した風を再利用して、エネルギーを最大活用する。
フラウを動かして常にロザリアを挟むようにして攻撃の隙は与えない。
単発ならばそよかぜ程度の攻撃もここまで膨らめば無視できないでしょう。
「ああもう! 目障りよ!」
ロザリアは風のキャッチボールを成立させているフラウに狙いを定めた。
増幅する風の力を見過ごせない気持ちがぴんぴんと伝わってくる。
確かにフラウをやられてしまえば私も精霊の力を引き出せなくなっちゃうから困る。
今の私はフラウになって力を使っているわけじゃなくて、力を供給してもらっている身だからそれはさせない。
「残念、私だよ」
フラウの背後を取ったんだろうけど、そこにいるのは私。
未来を視なくても次の行動が分かるくらいイラついてるんだね。
風を纏って加速した掌底がロザリアの胸に突き刺さる。
貫くまでとはいかなくても確かに手ごたえがあった。
放出された風に乗せられるように吹き飛んでいく行くロザリアは、痛そうな音を立てて壁にぶち当たった。
「うわあ、いったそー」
「でも丈夫な身体だし致命傷じゃない。まだ気を抜かないで」
警戒をしたままフラウを隣へと呼び寄せる。
ガラガラと崩れる壁と立ち上る煙。
その向こうに立ち上がる影が見える。
やっぱり駄目だったか。
でも、どこかに勝ち筋はある。
視えたミライが嘘でないなら、私にも可能性はある。
「今のはやられたわ。それにしても……模倣という割には随分使いこなすじゃない。私と同じかそれ以上に使えるなんて聞いてないわよ」
まあ、猿真似がオリジナルを超えることはないとはよく言うけれど、私の模倣はただ真似ているだけじゃない。でもそんなに使いこなしているつもりはないけど……もしかして能力の方に何か差があるのかな。
私もまだ自分の力を正しく認識している訳じゃない。
ゲームでの情報とこの身体で体験したことを合わせて推測を立てているだけ。
そもそも転生してまだ片手で数えられるくらいなのに、確信できるほどの材料を集めきれている訳がない。
私は模倣対象が視認できる、もしくは一定距離内にいる時に弱体化せずに模倣が可能だと推測した。
それが正しいなら今の私はロザリアの能力も差異はないはず。
それなのに私がロザリアより能力使用において勝っているというなら、考えられるのはただ一つ。
「使っているのが私だからでしょ。この力をあなたより私の方がうまく使える。シンプルな答えだよ」
ユーリの鑑定だって情報処理の限界で私の方がより能力を引き出せた。
それと似たような感じでこの空間支配の力関係も拮抗しているのではなく私の方が上なのではないか。
「だったら私の勝ちだね」
「少し真似が上手いくらいで調子に乗らないでもらえる? どっちみちお互いに有効打はない。天然の吸血鬼と能力の副産物で生まれた吸血鬼ならどっちが強いか明白でしょう?」
「うん、私の方が強い」
ロザリアは強い。
この力がなければとっくに私は死んでいる。
でも、裏ボスたる私の自信は揺らがない。
おかげでこの戦いを終わらせるビジョンも浮かべることができた。
さあ、夜明けまで踊り続けるのは飽きてきちゃうから、ここらで幕を下ろしましょうか。




