VS.ロザリア② 目には目を、歯には歯を。吸血鬼には吸血鬼を
痛い。
本当に油断した。
フラウに偉そうに指示を出しておいて自分が実行できないなんて恥ずかしい。
だが頭や心臓を潰されたわけではないため、即死は免れた。
かろうじて意識はつなぎとめている。
フラウが私の身体をゆすりながら何かを叫んでいる。
「おねーさん! おねーさん!」
「やはり、人間の身体は脆い。これを狙うのが手っ取り早かった」
そりゃそうだ。
目の前に移動させて無防備な所にズドン。
シンプルで強いに決まっている。
「酷い! ルナおねーさんにどうしてこんな事するの?」
「酷い? 不思議なことを言うのね? 誰だっておいしいものにありつきたいと思うのは普通のことでしょう? あなたは食べられれば何でもいいの?」
「うっ、そう言われちゃうと言い返せない……」
ちょっと。
何言いくるめられてるの。
とはいえ、ロザリアの言うことも一理あるどころかなんなら真理だしなー。
誰しもまずいものよりおいしいもの、嫌いなものより好きなものを食べたいと思うのは当然の事。
「ルナの血は実に美味だ。こうして放っておいてもやがて死に至る傷だが、私は生き血が好みだから息絶えていない今のうちにもう少し吸っておきたいの。……だからそこをどきなさい」
「嫌! おねーさんは、私の契約者は私が守るんだから!」
「契約者……ってことはあなたは精霊なのね。残念だったわね。契約者を失うことになってしまって。そいつは――――ルナはもう助からないわ。力のないあなたじゃどうすることもできないでしょう?」
私とロザリアの間に立ちふさがるように両腕を広げて通さないと主張しているフラウがぼんやりと見える。
その足は微かに震えている。
ああ、怖い思いをさせてごめんね。
「…………っ…………ぁっ……」
私の身体は動かない。
体勢を変えることもできずに、二人の会話を聞くだけ。
それでもどくどくと流れ出る血は止まらない。
このままではロザリアの言う通り、私の命は尽きてしまう。
何か……助かる方法はないか。
「ルナがただの人間じゃなくて吸血鬼だったら助かるかもしれないけど……そうね。あなたがどうしてもって言うなら生き血をもらった後に吸血鬼にして助けてあげてもいいわ」
「えっ? おねーさんが吸血鬼に? どうしよう? でもそれで助かるなら……?」
「そうよ、迷うことなんて何もない。でも、あなたは要らないから契約は解除してもらうけど、この子が助かるなら諦められるわよね?」
「えっ……それは……っ」
これ以上フラウをいじめられるのはたまったもんじゃない。
でも、突破口は見えた。
ぺちゃくちゃと喋ってくれて本当によかった。
私は力を振り絞って顔をロザリアに向けた。
少し動くだけで意識を飛ばしそうになるほどの激痛が走るがまだ耐えないと。
「……いぃわ……そ、のはな……し、のっ……てあげ、る」
「えっ!? おねーさん!?」
かすれた声で紡がれた言葉。
私の意思。
それを聞いたロザリアは悪魔のような笑みを浮かべる。
けれど、それは、お互い様だ。
「モード・吸血鬼………………オール、チェンジ」
乗ってあげるといってもロザリアによって吸血鬼にしてもらうわけじゃない。
私は、私の模倣能力で、吸血鬼になる。
ドクンと身体が跳ねる。
肉体が吸血鬼――――ロザリアのものに置き換わる。
今が夜で吸血鬼にとって適した時刻だからか、姿を得た途端力がみなぎってくる。
ロザリアの姿の使っても傷は引き継がれていてそのままだ。
だけど、もう血は止まり、傷も徐々にふさがってきている。
やがて痛みも大分引いた。
これならポーションをわざわざ使う必要もなさそう。
吸血鬼は生命力も高く、不死性も強いと予想していたけどここまでなんて。
「その姿……私の……!」
ロザリアの驚いた顔。
余裕綽々な表情を粉々に砕けたのは痛快だ。
今の私のスペックはロザリアそのもの。
彼女の紫色の綺麗な髪、透き通った瞳も私のモノ。
スタイルは非常に良く、羨ましいと思うけど、胸部の膨らみがいささか物足りない身体も私のモノ。ふっ、勝った。
そして――――吸血鬼としての能力と、空間支配の能力も、私のモノだ。
「痛かったー。ちょっと乙女の身体にぽっかり穴を開けるなんてどういうつもり?」
「おねーさん!」
フラウが立ち上がった私に抱き着いてきた。
私がやられて不安な状態でも、私を守ろうと強がってロザリアの前に立ちはだかった姿。
小さいけど大きかった。
とても……かっこよかった。
フラウがいなければ私はそのまますべて血を失って死んでいたかもしれない。
私がロザリアを模倣する一瞬を稼いでくれたのは本当に助かった。
「いったい、どういう手品なのかしら?」
「手品? あなたが言ったんでしょ? 吸血鬼にしてくれるって。お言葉に甘えて吸血鬼にならせてもらっただけだよ」
「でも、あなたは先読みのような力と風の力を使っていたじゃない。風がそっちの精霊と契約しているから使えるものだとしても、ただの人間がそれ以上力を有しているなんてありえないわ!」
ここまで不気味なくらい落ち着き払っていたロザリアが大きな声を出す。
それだけ焦りがあるのだろう。
でも、その発言はちょっといただけない。
「私が……ただの人間? ふふっ、あははははっ」
「何がおかしいのよ」
そんなの笑っちゃうよ。
だって、私ちゃんと言ったよね?
「私は裏ボス。私がいる限りこの世に唯一無二は存在しないんだよ」
あなたは間違えた。
それは強者故の傲慢。
あなたが私の血を手に入れたいなら初めから奇襲して殺せばよかった。
見て、視て、観た私はさっきまでの私とは違う。
目には目を、歯には歯を。そして吸血鬼には吸血鬼を。
第二ラウンド、ロザリアの、私の力を見せてあげる。
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