VS.ロザリア① 油断大敵
ピリピリとした空気、緊張感。
ゲームで例えるならボス戦前でセーブをして、道具やスキル、仲間の状態を確認しているような感覚。
いよいよ、私の初陣だ。
敵はこの世界ではどうか知らないが、私の知る限りではかなりレアな存在。
しかも空間支配という超強力な能力まで兼ね備えている。
ロザリアの気まぐれである程度その力を知ることができたのは大きい。
しかし、空間に作用する力といっても私はその一端を見せられただけにすぎない。
使い手が有能ならほかにも様々な使い方があるだろうし、どんな風に私達に牙を剥くのか分からない。
(モード・未来視、アビリティチェンジ)
より多くの情報を取得する。
それもただ取得するだけじゃなくて、私達が進まなければならない未来を正しく選択しなければいけない。
私はミライを視ながら考える。
おばあちゃんが教えてくれた、私が勝てる半分の確率の未来を絶対に引き寄せる。
「フラウ! とにかく動いて! おんなじ場所に留まっていると転移させられる!」
「うん! 分かったよ!」
私は見えたミライと推測を元にフラウに指示を出す。
そして私自身もフラウとは逆方向に走り出した。
私がさっきやられた空中から落とされる攻撃。
あれは私達の位置……座標というべきかな、それが正しく分かってなおかつ対象が静止している状態じゃないと使えないと見た。
もしかしたら多少動いていても使えるのかもしれないが、それもこれだけ動いていれば常に座標もずれていてできないでしょう。
フラウは風の精霊で飛べるから問題ないかもしれないけど、ただの人間である私は高所から落とされて当たり所が悪ければそれだけで致命傷なのだ。
咄嗟の能力の切り替えで対応はできるかもしれないけど、何かのトラブルでフラウの力を引き出せなかったときにあっけなくやられてしまう。
この指示はそれを避けるためのものだ。
「へえ、中々頭も回るのね。あなたの言う通り私は動いているものには干渉できない。けど、そんなまどろっこしいことをしなくてもやりようはあるのよ」
うん、知ってる。
ちゃんと視えてるよ。
未来視で観測したロザリアの行動パターンは主に三つ。
一つは私達を転移させての攻撃。
二つ目は自分が転移しての攻撃。
そして三つめは何かを動かしての攻撃。
一つ目が一番厄介だと感じた私はそれを封じた。
じゃあ、次はどうする?
二択に絞られたロザリアはどう動くのか。正直確信はできなかったけど、私はこっちを信じた。
数ある未来の一つ。ロザリアはその吸血鬼の人間離れした力で廊下の壁を砕いて瓦礫を高速で射出する攻撃法を用いていたが、私はその線を切った。
ロザリアは私とフラウが壁を破壊しようとするのを邪魔したくらいだし、自分の家を進んで壊すような吸血鬼ではないと信じたのだ。
それに当てが外れたとしても、ものを動かしての攻撃ならまだ対処はできる。
そう考えたとき私の視界から掻き消えたロザリアの姿。
その行く先も私にはちゃんと視えている。
「フラウ! 私の後ろ! モード・フラウ、アビリティチェンジ!」
「いっけー!」
私の背後に現れたロザリアに私とフラウは風の弾を挟み込むように叩き込んだ。
決まった、十字砲火。
廊下の壁にぶちかまそうとした最大火力、さすがにロザリアもひとたまりもないのではないか。
そう思っていた私だったが、どうやら過信していたようだ。
「今のは効いたわ。私の転移のタイミングも場所も分かっているなんてやるじゃない。でも……私を倒すには少し威力が足りないわね」
私達の合わせ技の最大火力をその身で受けてなおロザリアはぴんぴんしている。
体力ゲージがあるならほんの数ミリ削れたくらいのしょうもないダメージ。
吸血鬼というだけあって人間と体のつくりも単純な身体能力も違う。
普通の人間なら吹き飛ばされるような勢いの風でもその場で受けきることができるそのスペックの高さ。
そんなつもりはなかったけど、舐めていたのは私の方だったかもしれない。
けど、まだまだ。
これはどこでもエンカウントするような普通のモンスターを相手にしているわけじゃない。
小さな攻撃でも積み重ねれば、勝機は見える。
「フラウ、好きに動いていいよ。私のことは気にしないで」
「うん! 任せて!」
今の私はフラウの力を宿さないと攻撃する手段がない。
未来視を使っていないとどう転ぶか分からない状況では、私もうかつに能力の切り替えができない。
私は再び力を切り替えて、ロザリアを視る。
やはり、自身が転移して私やフラウに攻撃を仕掛ける未来が多く視える。
「大丈夫、知ってるよ」
「くっ、これは通用しないと思った方がよさそうね」
また、私の背後に現れる。
そのタイミングで振り返り後ろに下がって距離を取りながら、能力を切り替え風をぶつける。
うん、こうやってちまちま削っていくのが最適解だ。
ロザリアもちょっと嫌そうな顔をしているし、このままいこう。
「油断大敵よ」
「えっ? ……がふっ」
しまった、思ったよりもうまく立ち回れていることに安心して気を緩めてしまった。
その隙をロザリアにつかれ、私は転移させられた。
動きを止めてしまった私は無防備な状態でロザリアの前に姿を現す。
そして、彼女の腕が容赦なく私を貫いた。
ぽたぽたと零れゆく血液、じわじわと熱を帯びていく傷口。
襲い掛かる痛みに私は悶え苦しむ。
「おねーさん!?」
「う……あ……」
声がうまく出せない。
フラウの心配そうな声に返事をしてあげないといけないのに。
そんな思いとは裏腹にどんどん息は荒くなり、うまく体を支えられなくなった私は不本意ながらもロザリアの肩を掴む。
その途端、引き抜かれた腕。
その反動で私は身体をビクンとのけぞらせた。
私の体内に侵入していたその腕は真っ赤に染まっている。
ぐらりと倒れゆく体。
ロザリアは私の血液が大量に付着した自身の指を口に含みながら、私を妖艶の笑みで見下ろしていた。




