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ナイト・パレード

「そんなに警戒しなくてもいいじゃない」


 ちょっと目を合わせただけでこのプレッシャー。

 警戒を解く余裕なんてこれっぽっちもないのに、彼女はおどけたように振る舞う。


「……この廊下はあなたの仕業?」


「それに答えてあげる義理はないのだけれど、いいわ。夜はまだまだこれからだし、ちょっとくらいお喋りしてもバチは当たらないわね」


 彼女はそう言うと、次の瞬間姿を消した。


「ひゃうっ」


「あら、かわいい反応。からかうのが楽しいわ」


 突然後ろから首筋を撫でられ、私は変な声を出してしまう。

 振り向くとそこにはさっき目の前から消えた彼女がいて、私の反応を楽しんでいるのかくすくすと笑っている。


「私はロザリア・ルーベライノ。見ての通り吸血鬼よ。あなた達は?」


「ルナ・ノワール……です」


「フラウだよ」


「そう、ルナとフラウね。短い時間になるかもしれないけど覚えておくわ」


 短い時間……やっぱり彼女――――ロザリアにとって私達は障害となり得ないのだろう。

 いつでもやれる。すぐにやれる。

 そんな余裕がロザリアから伝わってくる。


 だからこそ本来なら彼女にとって意味の無いこの問答にも付き合ってくれているのだろう。

 だったら私達はその油断を突くしかない。


(モード・鑑定(ユーリ)、アビリティチェンジ)


 まずはロザリアの力量を探る。

 現状私とフラウの力を合わせても勝機は見えない。

 見えないなら視る。


 能力だけを予知から鑑定に切り替えて、ロザリアを視る。

 その途端に私の視界はぐらりと一転し天井を映した。


「えっ、あっ? 痛っ」


「おねーさん! 大丈夫?」


「そんな目で見つめなくても、ちゃんと教えてあげるから安心しなさい」


 ドサッと尻もちをつく私は、ロザリアを見上げていた。

 フラウは心配そうに私の顔を覗き込んでいる。

 何が起きた?

 今……私、落ちた?


 それに視ていることもバレてる?

 なんで? どうして?


「ふふっ、そんなわかりやすく慌てなくても……。そんな綺麗で不思議な瞳を輝かせてたら嫌でも気付くわよ」


 瞳……?

 そうだ、クラリスの瞳だ。

 模倣後の唯一の違いといっても差し支えない瞳が、教えてしまっていたんだ。

 自分の瞳は自分では見れないからどうなっているのかは分からないけれど、ただ見ているだけでも何かを狙っているのがばれるくらいには何か特徴的なものがあるのだろう。


「この目は生まれつきよ。こういう目なんだから仕方ないじゃない」


「へえ、近くで見るとさらに綺麗ね」


 ふっと掻き消えたロザリアの姿は私の眼前に現れ、鼻がこすれるくらいの近さで私の目を覗き込んでいた。

 急接近されたおかげでロザリアの整った顔立ちと長いまつげがよく見える。

 不覚にもドキッとしてしまったけど、さっきから何度もやられてようやくわかった。


「空間を操れる力……か」


「正解よ、よく分かったわね」


 わざと私の前で力を使って、試していたくせによく言う。

 それに私だってこれだけ目の前ではしゃがれたらさすがに気付く。


 初めは突然現れたり、瞬間移動のようなことしていたりとで転移、テレポート系の能力かとも思ったけど、無限に続く廊下を作り出したり、私の空中から落としたりしていたことも考えると、そう考えるのが妥当だった。


 空間を引き伸ばした上でどこかでループするよう繋ぎ合わせて、ずっと同じ場所を歩かされていた。

 私が落とされたのは、立っていた場所からちょっと上に移動させられたのだろう。


「私の力は空間支配。テレポート、アポート、空間の拡張、座標移動、特定の人物や物体を目印にするマーキング。そうそう、あなたたちが入ってきた玄関扉を閉めて開かなくしたのも私よ。結構色々なことができるでしょ」


「そんなにネタ晴らししちゃって大丈夫なの? 負けたときの言い訳?」


「随分な物言いね。でもそれはあなたも同じでしょう? わざわざ私に合わせて夜に遊びに来てくれた優しさに感謝しているわ」


 そうだ……夜は吸血鬼の時間だ。

 廊下を歩き続けて時間を取られたせいか、窓の外は真っ暗だ。

 あえて今日来ることに決めたのは私だけど、いざ対面した吸血鬼にこう言われてしまうと少しばかり引き返したくなる。

 といっても逃がしてくれるわけないし、逃げる気もないのだけど。


「そういえばさ、私は町のおばあちゃんに占ってもらって、あなたに襲われるっていうのを知ったんだけど、私を狙ったのに何か理由があるの?」


「吸血鬼が人間を襲う理由なんて一つしかないでしょう? 血よ。あなたの血がおいしそうだったから」


「それは光栄だね」


 吸血鬼ってやっぱり血を吸うんだ。

 でもたったそれだけのために私をロックオンして襲うのはちょっとやりすぎなんじゃない……と思ったけど、おいしいものを食べたいと思うのは誰でも一緒か。

 ま、おいしいかどうかは保証しないし、確かめさせるきもないけど。


「さ、そろそろいいでしょう。目の前に御馳走があっていつまでも我慢していられるほど私はなってないの。早く踊りましょう、そして私に血を寄こしなさい」


 ロザリアは臨戦態勢に入って舌なめずりをしている。

 敵のコンディションは最高。純粋な人でないことに加えて携えた能力も一級品。

 そして悲しいことに私はこれが初戦闘。


 でもやってやる。

 私だって強い。私が裏ボスだ。

 向こうが特別な存在でも、この世に唯一無二は存在しないということを私が証明してやろう。


「お祭りの時間よ。一緒に踊りましょう」


「いいよ。私……いや、私達の力、見せてあげる」


「おねーさんは私が守るから」


 フラウは私の手をとってロザリアに宣言する。

 今は小さな彼女の存在がとても心強い。

 そんなフラウに味方されている私は、強がるように笑みを浮かべた。

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