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吸血の姫は嗤う

「来たね……フラウは大丈夫?」

「うん! おねーさんのことは私が守ってあげるからね」


 私はフラウを連れて、未来視で見た吸血鬼の住処へとやってきた。

 日は傾いて夕暮れが私達をうっすら赤く染める。

 時刻的にはもうすぐ夜に差し掛かるところ。


 吸血鬼は太陽に弱く夜には力が強くなるという通説もあるが実際のところどうなんだろう。

 だけど、たとえ夜に強くなるとしても今日ここで仕掛ける。


 本当はもっと準備をしたい。

 町中をぶらりと歩いて、役に立ちそうな能力があれば模倣して、それを使いこなす特訓もして万全な状態で臨みたい。

 でも、そんな悠長なことをしていたら、私の望まない未来を引き当ててしまうかもしれない。


 おばあちゃんも言っていたけど未来の内容は分かっても、その未来がいつなのかまでははっきりと分からない。

 近い未来は濃く、遠い未来はぼんやりと、といったような不確定で不明瞭なものだ。


 確定した私が吸血鬼に襲われる未来は今晩かもしれないし、明日かもしれない。

 もしかしたらまだまだ先のことで一年、二年先のことかもしれない。


 もっと私がこの未来視を使いこなせたら、近い予測も立てられたかもしれないけど、そんな時間はない。

 だったら、ここで未来を動かして確定させる。

 いつか吸血鬼に襲われる未来を、私の行動で今晩吸血鬼に襲われる未来に上書きして確定させる。


「おじゃましまーす」


 本当はこんなこと言わずに入ればいいだろうが、こんな廃墟でも今や人……うん、人の住んでいる場所だ。

 私は恐る恐る扉を開きフラウと中に入り、様子を見ていると後ろからバタンと大きな音が聞こえて振り向いた。

 そこには当然のように触ってもいないのに閉じた扉。


「フラウが風で閉じてくれたの?」


「ううん、私何にもしてないよ。あっ、開かない」


 そんなことは分かりきった上でフラウに尋ねるとやはり否定され、彼女はガチャガチャと開かない扉を弄っている。


「念の為に未来を視ながら進もう。フラウも逸れないでね」


「うん、だいじょーぶだよ」


 好奇心旺盛なフラウだが、気になるものを見つけて私と逸れ、迷子になるなんてことはさすがにないだろう。

 しかし……なんだか嫌な予感がする。


「フラウ、この建物の内部、どう思う?」


「あ、おねーさんも気付いた? なんか変だよね」


 開かなくなってしまった正面玄関から真っすぐに歩いている。

 薄暗い廊下はどこまでも続いているんじゃないかって思えるほどに長い……いや、長すぎる。


 私の歩幅はそんなに広くないけど、これだけ歩き続けているのに未だに壁にあたらないどころか、先の見えない廊下が続くのはおかしい。

 ゲームでのこの廃墟自体は特にギミックがあるなんて情報は見たこともないし、これは住み着いた吸血鬼の仕業……?


 ちらりと視たミライで嗤う人影。

 影がかかって顔はよく見えないけど、吸血鬼らしい羽がはためいている。


「これは幻影とか光の操作とかで私達の目を騙している……? でも、それだったらフラウが正しく空間を認識できるはずだし……。何か阻害系の能力も同時に使われてたらそれもあるかもだけど」


「おねーさん、どうするの?」


 うん、決めた。

 どんな仕掛けがあるかはまだ分からないけど、この一本道を歩き続けてるわけにもいかないし、行動を変えないと。


「モード・フラウ、オールチェンジ」


 私は未来視の力を切り、フラウの力を宿す。

 この掛け声はなくてもいいのだが、声に出すことで誰の、何の力を使うのか想起しやすくなるからわざわざ口にしている。

 ちなみに能力だけの場合はアビリティチェンジ、姿も一緒にの場合は全部ということでオールチェンジと言っている。

 オールチェンジの時はその姿の持ち主が持っている力と、私の模倣しか使えない。

 例えば、フラウの姿をしている時は予知はできず、風の力しか使えないといった感じだ。

 これから能力のストックも増えていくだろうし、使い分けは意識しなければいけない。


 さて、フラウの姿を借りたんだけど、いけるかな?


「ルナおねーさん。私になって何するの?」


「この廊下の壁、ぶっ壊すよ」


 多分、このまま歩き続けても、引き返してもこの景色は変わらない。

 だったら、一か八かどこかを破壊して、強引にでも道を作り出した方がいい。

 私はそう思い、現時点でできる模倣の内、最も火力を出すことができるフラウの姿を借りた。


 ここは屋内で風はないけど、私とフラウが風を作り、お互いの力を合わせればいける。


「私に合わせて」

「うん! 分かった!」


 私達は風を作り出して、互いに流れを作るようにして風の勢いを増幅させていく。

 そして、出来上がった風の塊を壁にぶつけて破壊する。


「せーの!」


「ちょっと。少し意地悪したくらいで人の家を堂々と壊すのはやめてくれないかしら」


 その時、第三者の声が聞こえて、私は警戒度を一気に引き上げた。

 このまま壁に向かえば、その部分は瓦礫へと変わったのだろうが、撃ち放たれた風は揺らいだ空間へと吸い込まれて消えた。


「モード・未来視(プレディクション)、アビリティチェンジ」


 状況を動かすことができたなら、この先を視なければいけない。

 そう思い、私は即座に能力を切り替えて、次の事態に備えた。


「っフラウ! こっち!」


 私は咄嗟にフラウを引き寄せ、抱えて転がり込む。

 その瞬間ボッと鈍い音を残して、風の塊が私の真横を通過した。


「あら、完全に不意を突いたと思ったのだけど、今のを躱すなんて中々やるじゃない。どんな手品をつかったのかしら?」


 咄嗟に能力を切り替えた事で私は『私とフラウが何かに吹き飛ばされる』未来を視ることができた。

 タイミングは分からなかったけど、風景はこの場と変わらなかったおかげで反応することができた。


 そして、聞こえた声。

 その声を発した者がすぐそこに来ていた。


「あなたみたいなかわいいのが吸血鬼なんて、思ってもみなかったよ」


「あら、ありがとう。容姿を褒められるのは悪くない気分ね」


 私の目の前にいる少女。

 想像していた吸血鬼とはだいぶ違ったけれど、予知した姿と相違ない佇まい。

 背中から見える蝙蝠の羽のようなものが、ゆったりと動いている。


「あなたの方から来てくれるなんて……今日は素敵な夜になりそうね」


 私はぞくりと背筋を凍らせる。

 眼前に立つ吸血の姫は、不穏な笑みを浮かべて私を見つめていた。

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