占い・未来・話聞かない
私の一大事になりそうな話を聞いてゆっくり商品に鑑定をかけている場合じゃなくなったので、ひとまず占いのおばあちゃんに話を聞きに行く。
吸血鬼って控えめに言っても強そうなんだけど、仮に襲われたとして今の私はどれくらい抗えるんだろうか。
今の私はフラウの風の力、ユーリの鑑定、そして私自身の模倣の力……武器となるのはこの辺か。
これに加えて今日手に入れた短剣――――ダガーナイフと言った方がいいのかな。
扱い方も分からない武器を戦力に換算するのはいささか無謀すぎるので、これはあってもなくても変わらないだろう。
うん、心もとないね。
というか実戦経験もないのになんで吸血鬼に襲われるんだ。
よりにもよってめちゃくちゃ強そうな種族なのに……。
とにかくその未来視――――いわゆる予知の内容をもっと詳しく聞かないことには始まらない。
だけど――――。
「え、ここに入るの?」
「何だか不気味だね……。風も淀んでる気がするよ」
占いのおばあちゃんがいるだろうここ、小さな館のような建物は、なんというか……ボロい。
だけならよかったのだが、町の外れということもあって人気もないのがより一層おどろおどろしさを際立てている。
確かに占いって暗くて怪しい雰囲気のところでやってもらう偏見があるけど、ここまで忠実に再現しなくてもいいじゃん……。
「ここに入るくらいなら、吸血鬼に無策で立ち向かう方がまだマシかな……?」
「えっ、ダメだよ! ちゃんと話を聞いておいた方がゼッタイいいよ!」
そうは言ってもなぁ……どうしても気が引けてしまう。
遊園地のお化け屋敷とかに入る方がまだ怖くないと思ってしまう目の前の建物は、下手な心霊スポットよりも不気味な状態で、ふっと息を吹きかければ飛んで行ってしまいそうだ。
「うーん、仕方ないか。ストーリーを進行されるのに必要なイベント。そしてこのイベントをすっぽかせばバッドエンド……ね」
ゲームでもあるある。
ストーリー進行を間違ったり、必要なイベントを回収しなかったりしたら、クリアに到達できない。
またやり直し。
こんなのばっかりだ。
今私は選択肢を突きつけられている状況。
この選択で何がどうなるのかまったく分からない。
けど、このワクワクとスリルが醍醐味でしょ。
「フラウ、行こう」
「うん! 分かった!」
そうして引いた扉は妙に立て付けが悪くガタガタしていたし、風化しているのか軽く感じた。
◇
◇
◇
◇
入ってみたはいいけれど、暗い。
確かに雰囲気としてはこれ以上ないほどにマッチしているけど、せめてうっすらとした灯りでいいからつけて欲しい。
それか光が入るような設計にリフォームするのが好ましい。
「フラウ、分かる?」
「うん、あっちの方に大きめの部屋があって、そこに人がいるよ」
こういう時フラウの風の力は便利だ。
私達はフラウのいう方へ暗さに慣れていない目を凝らして進んだ。
近づくにつれて薄ぼんやりとした光が漏れ出ているのか、せっかく慣らした目が刺激を受けてちょっと疲れる。
そして垂れ幕のようなものがかかった部屋が見えた。
中からは声が聞こえる。
「あの、すみません」
おそるおそる幕を潜り声をかけると、おばあちゃんが何かをブツブツと呟いている。
私に気付いてこちらを見たかと思うと、線のように細い目を見開いてすぐに目を細めた。
「お主か……そうか今日だったか」
「あの……?」
「レティシアのやつから話を聞いて来たんじゃろ? いつか来るのは確定した予知で分かっておったがいつ来るかまでは分からなかった」
「えっと…………」
「そして悪い知らせじゃ。お主が吸血鬼と邂逅する未来は確定した」
このおばあちゃん、人の話聞かないな。
それになんか聞き捨てならないことを言ったぞ。
「未来は分岐しているが、お主がどんな行動を取ろうと吸血鬼はお主の元へ辿り着く。町にいようが家に引きこもろうが、それこそどこか遠い場所に行こうがお主はもう奴に捕捉されている」
えっ、何それ。
ストーカーじゃん。
遠くに行っても追いかけてくるって怖すぎなんだけど。
「じゃあ、私はどうすれば?」
「ふむ……お主が吸血鬼と出会う未来は確定してしまったが、そのあとはまだ見えぬ。それに、新しい未来が見えるということはお主になにか変化があったな」
「変化?」
「それが何かは私には分からない。しかし、前までは奴に打ち勝てる未来は見えなかったが……今は五分五分といったところじゃの」
私が勝てる未来が生まれた。
その要因が鍵だ。
といっても分かりきっているんだけど。
(よし、パクれた)
模倣した未来視の力。
これが未来を動かした要因だろう。
「あとはお主次第じゃな。私から話すことはもうないから帰りなさい」
「えっ、なんかもう少しないんですか?」
「……帰れ」
これ以上何か聞いても教えてくれそうにないのでひとまず退却しよう。
収穫はなかったわけじゃないし、確定した未来を教えてもらったことで私の気持ちもだいぶ固まった。
「あの、お邪魔しましたー」
「…………」
そう言って私はフラウの手を引いて、部屋を後にし、占いの館を出た。
「そういえばフラウはずっと静かにしてたけど、調子でも悪かった?」
「……ううん、あのおばあちゃんがちょっと怖かっただけだよ。なんでも見透かしてますって感じの目が怖かった」
「そっか、よく頑張ったね」
フラウは心無しか泣き出しそうな表情な気がする。
なんだ、誰にでも懐っこいフラウでも怖いと思う人がいるのか。
でも、正直私もちょっと怖かったから人のことは言えない。
実際未来視って見透かす力だしね。
その力のことについてとか私に起こり得る事象の内容とか、吸血鬼の対策とか色々聞きたかったけど……あのおばあちゃん、私の話を何一つ聞かずに一方的に喋り散らかして挙句の果てに帰れは本当に驚いた。
「よしよし、大丈夫だよ」
「うー、くすぐったいよ」
しょんぼりとしたフラウのわしゃわしゃと頭を撫でてあげると、こそばゆいのか顔をほころばせた。
とりあえず今は悲しんだり腹を立てたりしている場合ではない。
あの人の話をまったく聞かないおばあちゃんが教えてくれたことについて考えて対策しないとね。




