模擬試合
いよいよアスワド対アーネストの試合が始まった。先に動いたのはアーネスト、大胆にアスワドに斬り込んでいく。それをスッとかわしたアスワドは反撃に出る、近距離戦になった二人の木剣がぶつかる音が響く。アーネストは瞳孔が開いたかのような顔をして執拗にアスワドに迫り来る。ジリジリと追い詰められるアスワド、アーネストの顔が不敵に笑いを見せる、その時アスワドはアーネストの足を蹴り上がり一回転して後ろに着地した。すぐにアーネストが攻撃を仕掛ける、木剣がぶつかり合う鈍い音が続く二人とも既にお互い傷を負っている。今のところアーネストが優勢に見えるがアスワドも体力を温存させつつ戦っている。甲乙つけ難い中アスワドが動いた、アーネストの足元を狙い足を引っ掛けると転んだアーネストの顔の脇に剣を刺す。
「これで終わりだ。」
「・・・っく!」
アスワド勝利の判定が出た。勝利に湧く魔法騎士団のベンチに戻る。
「お前がっ、なんでお前が勝つんだよ‼︎」
アーネストの言葉に一瞥くれると、アスワドは言った
「ムキになりすぎなんだよ、君は今日勝つチャンスが何度でもあった。瞳孔開いた瞳じゃ誰にも勝てないよ。」
勝利したアスワドを揉みくちゃにしながら先輩騎士の一人が問う。
「な、な、あいつホントに瞳孔開いてたの?」
「開いてましたよ、僕見ましたもん。」
「よっぽど恨まれてんな、お前。」
周りが他人事だと思いゲラゲラ笑う。そんな軽い調子の魔法騎士団だが各々この次に試合が控えている。
「ま、彼奴ら本気でかかってくるから怖えぇよな。俺もせいぜい怪我しない程度にやってくるか。」
魔力持ちでない普通の人間の騎士団にとっては、魔法騎士団などという得体の知れないモノ達には決して負けられないという矜持がある。結局この日は魔法騎士団の負けになった。
「あーあ、お前ら魔法なしだと形無しだな。ま、実戦はさすがに負けるよな。いや、アスワドは勝ったのか。良くやったな。」
「「「団長!!」」」
魔法騎士団長のイアン・マッカランが立っていた。魔法騎士は有事には魔法で対処するのでそもそも普通の騎士ほどに剣や体を鍛える必要などないのだが、騎士の家系であるマッカラン家出身の団長のお陰で近年は頻繁に一般人である騎士らとの模擬試合が組まれるのだ。
「よし、飲みに行くか。」
団長の一言で試合に出ていない魔法騎士まで集まって来る。結局、夜勤組を残し街に繰り出した魔法騎士団だった。行きつけの酒場でほどよく酔ったところに今日対戦した騎士団第二小隊が合流して来た。その中には勿論アーネストがいた。まあまあ、若いもん同士仲良くやってとアスワドとアーネストは同じテーブルに着けられる。二人の前には比較的アルコール少なめの果実酒が置かれていた。だがしかし、ここへ来る前にアーネストは些か酒を飲んでいたらしく既に顔が赤い。そんなアーネストが果実酒をグイッと呷る。
「そんなに飲んで大丈夫か?」
アスワドが心配するとアーネストは
「これくらいなんて事ない、お前も飲め。」
と、果実酒の瓶を向けてくる。
「僕はいいよ、この後は公爵邸に帰るからあまり飲まない。」
「はっ、公爵邸ね。いいよな後ろ盾があって魔法が使えて苦労知らずは羨ましい。」
「苦労知らずなつもりはない。」
ムッとして返す。離れで屋敷預かり扱いを受けていたとはいえ、幼くして親を亡くし学校では平等に扱われ、魔法騎士団に入隊してからは一番の下っ端で雑用などやることも多く、また、魔法の鍛錬や騎士としての体術・剣術などやることはたくさんある、それなりに苦労はしているのだ。
意識が浮上する。滑らかなシーツの肌触りに果て?俺はいつ家に帰ったっけと考えながら伸びをするーーと、同時に襲い来る頭痛。
「いってぇ」
ガンガンと痛む頭を押さえながら目を開けると見覚えのない内装、ここどこだ?取り敢えず上半身を起こし辺りを見回しているとノックがされる。条件反射で返事をするとお仕着せを着た少女が入ってきた。
「失礼します、ラドリック様ご気分は如何ですか?」
は?誰だこの美少女。