第四話 現実という闇〜The darkness of reality〜
話はモール残留組の救出へ。
そこで見た光景とは?
また読んで頂きありがとうございます。
それでは第四話です。
第四話の主な登場人物
生田勇樹:本編の主人公
生田ウェン(フィリピン人):勇樹の妻
生田星来:勇樹とウェンの息子
ジーン(フィリピン人):生田家と共に行動する家族的存在
澤田良治:店長
第四話 現実という闇~The darkness of reality~
午前八時五十四分
駅に着いた。
正直、全身の力が抜けたような感覚だ。
地獄絵図のように大量にいたゾンビはもはや数体しかいなかった。
「あれだけのゾンビはどこに?」
4 人で近辺を調べてみる。
以前はなかったスーパーの台車が転がっていたり、少し異変が起きていた。
建物の間には何本か抜け道があった。
その道をゾンビ達が通った形跡がある。
衣服の擦れ落ちたものもあれば、靴も落ちている。
私たちはゾンビの認識を間違っているのではないか?
警報には思考なしとあったが、獲物を狙う為に明らかに、集団行動をとっているように思える。だが譲り合いや相手を気にするようなことはしない。我先にと言わんばかりに噛みつき、喰いついていたからだ。
もうそこら中に散っていったゾンビがいるのだろうと思った。
慶くんの姿も見えない。
星来がある事に気づき聞いてきた。
「パパのバッグに差してた刀は?」
「葵さんにあげてきた。きっと必要になるかもしれないから。」
納得したように頷いた。
いよいよショッピングモールに向かう。
その前に、駅前の数体のゾンビは片付けた。逃げるときには安全な方がいいだろう。
従業員用のドアをノックする。
「店長!生田です!」
暫く待っても返事はなかった。
ドアノブを握ってみたら鍵がかかっていなかった。
開いている。
私はドアを開け、中を覗き込んだ。
もう非常用の電気も落ちて中は真っ暗だった。
中に入るには危険な匂いがした、万が一に備え夜用にマスクを改造していた。
マスクに蛍光塗料を塗って、暗闇でも数時間はマスクが光っていられるようにしたのだ。
懐中電灯でモールの中を照らした。
人影が見えたがフラフラと歩いている。
ゾンビ!なんでだ!?
後ろにいた3人も中に入ってきた。
「パパ!?ナンデ!?」
ウェンは動揺している。
どいうことが起きたのかは理解ができなかった。
暗闇の中にいるゾンビから店長を探してみた。いない。
私たちは、上の階に上がる事にした。
光を照らしながら上がっていくと、上からも懐中電灯の光がさしてきた。
「誰かいますか?助けにきました!」
上から人が降りてきた。
やはり、お決まりのようにマスクにビックリする。
最上階まで案内をされ、そこには10数人しかいなかった。
マスクを外し、
「数日前にここを訪れた者です。一緒に避難していた生田ウェンもいます。」
一同がざわつき
「あぁ!あの時の!?」
ウェンが聞いた
「テンチョイマスカ?」
一同が下を向きその後に何が起きたか話してくれた。
私たち帰宅組が出た後は、店長が取り仕切っていた。争いが起きるのを防ぐ為に、皆に分配した食料だったが、やはり文句を言う人達が現れた。
これは食べれないから、交換しろ。食料が足りないからよこせと。
単純に力がある人間の弱い物イジメなようなものだった。
ストレスや不満が高まり、店長だけでは、抑えていくことが出来なくなってきた。
アルコールを飲む者まで現れた。
会社に行かなくてもいい、家にも帰れなくてもいい。しかも、分配の中にはアルコール類は入っていなかったが、スーパーがある為飲める時間に飲みまくっていた。
そこで、事件が起きた。
酔っぱらった男が寝ていた少女を襲うとしようとした。しかし、それは一人ではない複数の女性に対して数人で行おうとしていた。それに気づいた店長は、許すはずもなく殴りかかり女性陣も加勢した。
相手は男といえど酔っぱらっていたため、安易に倒れていった。
縄で縛り上げ、酔いが覚めるまで隔離していた。
女性陣の不満が渦巻く中、店長が下した決断が追放だった。
本人たちは覚えていない、の一点張り。
もはや秩序が乱れると全員が生き残る事はできない。
最後まで抵抗する者や、命乞いをする者もいた。
だが女性たちの怒りは収まらなかった。
しばりつけたまま台車に乗せ、社員用のドアから一人ずつロータリーに向けて転がしていった。
店長はそれに反対をしたが、多数決で決まったそうだ。
ゾンビにとっては餌を撒かれたようなものだろ。
(なるほど、それで駅前には台車が転がっていたわけか)
話しが詰まった。
「ここからが、この惨事になる。」
話してくれている男性の顔が強張った。
台車を転がしていたのは、一人の 30 代の女性で楽しんでいるようにも見えたという。
女性が調子に乗ってか、ロータリー付近にまで近寄ったらしい。ゾンビ達を手なずけている感覚にでもなっていたのだろう。
しかし、戻って来る時にドアの裏にいたゾンビに噛まれたそうだ。
ゾンビがいて驚いたと嘘を言い、本人は噛まれた事を隠していた。
既に中の電気は消えて暗かった為、その事に気づく人はいなかった。
懐中電灯を向けられると、拒否をしてキレられた。
就寝の時間となり、女性はトイレに行ったが、暫くして戻ってきた時にはもうゾンビとなっていたらしい。100 人近くが床で寝ていたところを襲い続けた。中はパニック状態となり外に逃げる人もいた。
そんな時でも店長は冷静に対処をしていた。上の階に逃がしていき、自分はというと囮になりゾンビ化した人たちを外に連れ出し外からドアを閉めた。
だが、中は暗闇だったため一体何人が襲われたのか、感染者は上の階に逃げてしまったのかさえも分からず、今は最上階にいる十数名だけとなった。
ゾンビは階段を上がれない。それは正しいが、同じフロアでゾンビ化してしまえば関係なくなる。
他の階の人達はもう無理だろう。
「そうですか。ひとまず、外にはもうゾンビはいません。逃げるならお手伝いをします。 」
ロータリーには店長らしき人はいなかった。
結局は大惨事となって、中にいれば安全だったものを自分たちで壊してしまったのか。
一番前に星来を行かせ、両サイドをウェンとジーンが守り最後尾に私で、生存者を囲むように進んだ。
道中なぜゾンビが襲ってこないのか?という質問をされたが、私たちは答えなかった。
全員が無事に外に出る事ができた。
「うわぁ!久しぶりの外だ!太陽がまぶしい!」
皆笑顔になっていた。
ひとまず、私たちが通ってきた道にはゾンビは殆どいない事を伝え、できればそのルートを辿っていけるよう、それぞれが帰路についた。
ジーンがある事に気が付いた。
「アテ、blood アル。」(ate はタガログ語でお姉さん)
ウェンが走りだした。
血痕はドアから、建物の隙間に続いていて、そのまま進むと搬入口の方に繋がっている。
私たちもウェンを追いかけていった。
搬入口を囲むように金網が設置されており、そこには 2 体のゾンビがいた。
ゾンビがこちらを向いたが再び下の方に向きなおした。2 体とも店長ではなかったので私がとどめを刺した。
「え!?ウェン!」
金網の向こう側には店長が倒れていた、先程のゾンビは店長を狙っていた。つまり、店長はゾンビになっていない。
ウェンが搬入口の入り口の方に周り、店長の元に駆けて行った。私たちも続いた。
「テンチョ!ダイジョブ!?」
ウェンが倒れている店長に近づいた。
「生田さん?やっぱり来てくれた。」
既に虫の息のように感じた。
「中の生存者は救出しました、十数名しかいませんでしたが、その人達は無事です。それと、何が起きたかも聞きました。」
店長は少しほっとした表情を見せたのと、体の痛みなのか、全員を助けてあげられなかった事への後悔なのか、苦しむ表情も見せた。
ゾンビから逃げている時に金網をよじ登り、降りる際にかなりの高さがあるが、そこから落下したらしく、足は完全に骨折しているようだった。
とりあえず、傷の手当をしようと搬入口から控室に連れ込もうと担ぎこんだ。
店長は巨漢だったため、ウェンと 2 人で肩を貸し何とか中に入れた。
控室のソファに店長を座らせる。そこには救急箱があり、傷の手当をしようとしたが、店長はそれを拒否した。
「生田さん・・・。 」
店長は痛みをこらえる表情を見せながら、長袖の腕をめくった。ゾンビに噛まれた跡があった。
「そんな。」
ウェンは泣きながら私の肩を叩いてきた。信じられない、自分を犠牲にしてまで人命を守ろうとしたのに。こんな結末はあんまりだ。
ここまで耐え抜いてきたのは、巨漢が禍だろか。
私は、涙を浮かべながら言った。
「最後まで、見届けます。」
店長は笑顔を浮かべた。
「星来くん?大きくなったね。覚えているかい?」
店長は星来を見て言った。まるで自分の子供を生き映すかのように、優しい目をしていた。
星来は首を横に振った。
「そうだよね。まだお母さんに連れられて小さかったからね。」
笑顔は変わらずだった。
ウェンは泣きながら店長に伝えた。
「テンチョ。・・・ムズカシニホンゴワカラナイ。デモ、シゴト、オシエテクレテ、アリガトゴザイマシタ。ワタシ、10 ネン、ハタライテタ。タノシカタ。」
ウェンはハグをした。
ジーンはずっと泣いている。例え他人でも感情を隠さないその性格は、素直で優しい。
私は最後まで店長と語りたいと思っていた。
「少し待ってもらえますか?」
私は裏口から店内に移動した。皆が不思議そうにこっちを見ていたが何かを取りに行ったのだと分かったようだ。
十分後
私は皆がいる控室に戻った。
「店長!飲みますか?」
お酒を持っている。普段は飲めないような高級なお酒がまだ残っていた。
グラスも高級品だ。星来にはジュースを持ってきた。
グラスにお酒を注いでいく。
「ジーンは何歳だったっけ?」
ジーンのグラスにお酒を注ぐ前に聞いた。
「Eighteen」
皆の顔が驚く。私が面接をしたし、パスポートや在留カードも・・・コピーしただけで年齢は見ていなかった。いや、面接の時は 22 歳と言っていたはず。確かに、幼くてかわいい顔をしているが、妻のウェンも 30 代の割にはとても若くみえる。フィリピン人には特に多い童顔だと思っていた。
だが、無邪気な部分や子供っぽさもあったり、時には冷静な判断力も備えていた。
星来は開いた口が塞がらなかった。
ウェンはやっぱりというような表情を見せる。
私は思わず笑ってしまった。
「sorryクヤ、アテ 、セイラ、ワタシジュースデイイ。 」
そこ!?と思わずツッコミを入れたが。年齢に驚いた事なのに皆顔を合わせて笑った。
状況を理解した店長も思わず、痛みを堪えながら笑っていた。
皆で乾杯をした。
そこからは、お酒を飲みながら店長と沢山話をした。
大学時代はラグビーをやっていた事。
奥さんとの馴れ初め。
子供達との思い出話し。
時折、体に激痛が走るようで顔を歪める。
そこで店長から再びお願いをされた。
「もし、私の家族に会ったら、このネームプレートと、免許証を渡していただけますか?これが家族の写真です。スマホは完全に壊れてしまいましたので。 」
ズボンのポケットから取り出した。もう、体が耐えきれなくなってきているのだろう。
澤田良治 36 歳
ラグビーは怪我で引退。その後は現在の大手スーパーに就職をした。
ウェンが務めたころはまだ店長ではなかったが、業績が認められ、副店長から店長へと昇格をしていった。人柄が良く、お客さんからも愛される、誰もが誇れるような人物だった。
「澤田さん。私も同級生です。 」
再び私たちは飲み交わし語り尽くした。
午後十時二分
「あの時の、バンドの曲とか最高でしたよね!・・・
。 」
澤田さんからの返事はない。まるで寝ているかのような安らかな顔をしていた。
「テンチョ!」
ウェンが声をかけながら体を揺する。反応はない。
私は刀を握った。だが、ウェンがその手を抑えた。
「ヤメテ 。オネガイ!コノママダメ!?」
ウェンは涙で顔がボロボロだった。
私は下を向きながら首を横に振った。
「こんないい人が・・・ゾンビになって、人を、襲ってもいいの?」
声が震えて、大粒の涙は床に落ちた。悔しい!
もっと早く助けに来れれば、私にもっと技術があって、マスクの完成が一日でも早くできていれば、こんなことにはならなかったかもしれないのに。あと半日早ければ。
悔やみきれない!
私は刀を抜いた。3 人とも目を背けてしまった。
転換する前に頭に突き刺した。
「私が、死んだときにまた会えたら、話の続きをしましょう。 」
頭に突き刺さった刀を抜く手が震えている。
この何日かで、いったいどれほどの数のゾンビを切ってきただろうか。
澤田さんだけではない、それぞれの人生もあったに違いない。
急激な罪悪感に襲われてしまい。私はその場でうずくまってしまった。
両手が震えている。
お酒のせいなのか、考えが纏まらなくなってきている。自分たちの都合がいいように、他人を犠牲にしているのではないか。
私の考えは間違っているのだろうか。
「助けて・・・。 」
私は泣きながら 3 人を見た。3 人とも私を抱きしめた。
気がついたら寝ていた。
時間は日付が変わって夜中の 2 時を過ぎていた。
やはり酒に酔っていたかもしれない。私が迷えば 3 人を守れなくなる。
再びモールの中に入っていった。
戻った時には皆起きていて、とても心配をしていた。
私はもう大丈夫と伝えた。そして、
「澤田さんを火葬しようと思う。 」
そのことに賛成をしてくれた。
一月十三日午前五時
まだ日は登っていないが、近くの公園に澤田さんを運んだ。
遺体に油をかけ火を点けた。
クリスチャンの 2 人は両掌を握り、手を胸の前に置いて祈るように目を瞑っている。
私と星来は掌を合わせ、炎を見つめていた。
何体かゾンビが炎に寄ってきた。澤田さんに覆いかぶさるように倒れていく。
小宮!?その内の一体に小宮がいた。
まるで、俺も一緒に逝きますと言わんばかりに、炎の中に倒れ込んだ。
どうか、この方たちに安らぎを。
私たちは荷物を背負いその場から離れた。
いよいよ都庁に向かう。
現実からは目を背けない。
「The darkness of reality」
第四話 終わり
都庁の話の入り口あたりまで書きたかったのですが、書いている内にどんどん話が長くなってしまって、結局は店長の話で終わってしまった。
話の中に日付を入れているのですが、まだ1週間経ってない事に驚きです笑笑
次回予告
第一章最終話
都庁救助活動の真実とは?
第五話 何の為の正義
ぜひまた読んでくれると嬉しいです。宜しかったらブックマークと高評価をお願いします。




