第二話 出発の時~At the time of departure~
優寿です。第二話はじまります。
話はパンデミックの次の日からになります。
一話目は怒涛の1日を書きたくてズラズラと書きましたが、2話目以降はコンパクトに展開していこうかなと思い書き出しました。
ぜひまた読んでいただけると嬉しいです。
第二話の主な登場人物
生田勇樹:本編の主人公
生田ウェン(フィリピン人):勇樹の妻
生田星来:勇樹とウェンの息子
ジーン(フィリピン人):生田家と行動する家族的存在
長谷川:ゾンビ
カップル:大学生カップル
スーツの男:感染者
第二話 出発の時〜At the time departure〜
一月九日午前六時
目を覚ました時は、昨日の事が夢だったのではないかと、疑いたかった。
すぐに長谷川の様子を見に行ったが、やはり現実だった。
起きているのは、私だけだ。
「昨日はいろんな事を頼まれたな。」
カセット形ガスコンロでお湯を沸かし、コーヒーを入れている。
コーヒーを飲みながら、昨日の出来事と今後の事をノートに纏めた。
〇 店長達のモール残留組の救出。
これに関しては、私たち4人では不可能。やはり、あの駅前にいるゾンビの群れをなんとかしない限りは今回と同じ結果になる。自衛隊は現在どうしているのか?それとも、他の生存者達と協力して救出可能か?いずれにせよ、助けが必要なのは必須。
〇 男性の妹にリュックを届ける。
財布を開いてみた。秋元慶。まだ、23歳だったのか。住所を見ても分からなかった。だが、同じ区内だった為まずは、交番に行って地図を確認。
〇 星来たちが発見したゾンビの弱点?
一番の発見はこのことだった。実際に 2 人が見せてくれたが本当に驚くべきことだった。
まだ調べる必要がある。中や外、昼間や夜では環境も違う。発見した事を応用しなければ意味はない。まずは、ゾンビ対策だ。
3 人が起きてきた。
朝食は、昨日のモールで貰ったパンを食べていく。賞味期限が早い物から消費をしていくことにしていた。しかし、4人でこの量は正直言ってきつい。
現在の状況確認の為、役割分担をした。
私が会社の屋上に行き、近隣の近況を確認する。
妻は、昨日分配された食品で最高何日持つのかを把握する。
星来とジーンさんは、更にゾンビに有効なものを見つける。
午前七時
私は、会社の 3 階から屋上に上がった。
商店街は建物が密集している。建物伝いに移動が出来そうなほどだ。
通りは見渡せているが、そこから見る限り人はいない。
商店街の終わり、例の駅方面の十字路にはゾンビらしき人影が見える。
とても静かだった。
青果店や、魚屋、肉屋、商店街の名物店も軒並みシャッターを閉めていたままだった。
電気が通っていない今、連絡の手段が絶たれ、状況も把握できていない。
この会社は、商店街のほぼ端に位置している。駅と逆方向は私たちの家がある、こっち方面もまた、住宅街にも係わらず人気は感じられないほど静かだった。
ひとまずゾンビの群れはまだ駅方面のみと考えていいだろう。
私は、遥か遠くに目を凝らす。
「ヘリだ!」
間違いなく、それはヘリコプターだった。
手を大きく振ってみるが、飛び立っていってしまった。
見えるわけはないが、ヘリが救助活動を行っているに違いないと思い。目指す先は、あの場所だと確信した。
下に降りて、皆と報告をし合う。
まずは、食料を担当したウェンから。
「オヒルナイダッタラ、ミッカ。カイシャノコレイレタラヨッカ。 」
会社には災害時用の非常食と水を常備していた。
最高でも4日以内には、ここを出て食料を調達しなければならない。
次は、ジーンさんと星来。2人はさっきからずっとニコニコしている。
「またまた、僕とジーンが発見しました!」
「コレヲミテクダサイ!」
星来が紙で作った白いお面のようなものを取り出した。長谷川の前で実演するようだ。
先程のお面をつけた。
だが、ゾンビらしい行動しかしない。
ジーンさんが星来に頭から黒い洋服を被せ、お面を付けた顔だけが出ている。
すると、ハセガワは逃げるような行動をとった。
「すごいじゃないか!二人とも!」
これならゾンビの中を歩いて行けると確信した!
「たぶん、ジーンの考えだと、ゾンビはお化けが怖いのかな?」
2人は仲良くなったのか、星来はジーンさんを呼ぶときはさん付ではなくなっていた。
「シャッチョーモ、ジーンダケデイイデス。」
「私ももう社長ではないから。」
「クヤッテヨビマス。」
Kuya とはタガログ語でお兄さんという意味だ。
「わかった。」
なんとなく皆の絆が深まったように感じた。
最後に皆の意見を纏めて私の報告をする。
「まずは、商店街にはまだゾンビは流れて来ていない。3 日以内に、星来とジーンが発見したお面の作成と黒い洋服を調達する。次に、パパとママを助けてくれた、秋元さんの妹さんに物資を届ける。その後、モールにいる店長達を救出する。そして、パパは見たんだ、ヘリコプターを!きっと、救援活動をしているに違いない!」
皆に期待を持たせたくて間を開ける。
「最終目標は、都庁だ!」
外国人 2 人と子供 1 人に、都庁だ!と言ったものの、3 人ともパッとしていなかった。
「助けてくれるかもしれない所があるから、そこに行こう!っていう事です。」
「おぉぉ!」
ひとまず、やる事の目標が決まった。
星来とジーンが見つけてくれた事も、まだ100%有効かは分からない。まずは、私が外に出て試してくるしかない。
午前九時
会社内に白いプラスチックの板があった。私は、ヤスリでお面の形に削っていく。
午前十時
まだ削っている。
午前十一時
「ダメだ!手で削っていても全く完成しない!」
輪郭を作るまでにまだ10分の1も進んでいなかった。そもそもこの四角い板を楕円に削る工程を人の手で作成するのが難しかった。軽量で丈夫なプラスチックだが、加工するのは大変だった。
電気さえあればと、長谷川の前に置かれていた工具箱を探していたら、リューターがあった。充電式のバッテリーでスイッチを入れてみたら動いた。
「これなら、時間短縮できるぞ!」
午後二時
1 つ目のお面が完成した。
お面よりもマスクの方がしっくりくるだろうか。
しかし、次の作成にはプラスチックの板はもうなかった。
失敗をして何枚か割ってしまったからだ。
ウェンとジーンが下に降りてきた。
どうやら、着る服が完成したようだった。黒い服といっても、Tシャツぐらいしかなく、全て縫い合わせてズボンも手縫いで完成させた。とても不格好だ。
「ひとまず、これで外にいってみる。日没までは時間がない。」
優先すべきは、後 3 人分のマスクと、黒い洋服の調達だった。ここから、歩いて十五分程の所に、ホームセンターがある。隣接して、ファストファッションもある。
私は空のリュックを背負い、鉄パイプを握りしめて裏口から出る事にした。
星来が屋上から降りてきた。
「パパ。ゾンビがもう商店街に入ってきてるよ。」
私は頷き「いってきます。」
とだけ伝えた。三人からは、「いってらっしゃい。」と言われ、会社を出た。
午後二時三十五分
裏口は、路地裏へとつながっている。
路地裏を抜けると大通りになっていて、そこには数体のゾンビがいた。
私は、心臓が破裂しそうな程だった。ゆっくりと歩く。
だが、ゾンビはこちらを見ようともせず、逃げていった。
「星来!ジーン!凄いぞ!やったぞ!」
私は、思わずガッツポーズをした。
すぐにホームセンターの方に向かう。
自転車で行こうと考えたが、襲われてしまうのでは、と思い勇気がなかった。
速足で駆ける。
道路には、事故を起こした車がそのままの状態だった。
人は歩いていない。
ホームセンターには何も起きる事なく着いた。
店の前の駐車場は、数台の車が止まっていた。
店のシャッターは閉まっておらず、入り口のガラスは割られている。
既に誰かが侵入していたのであろう。私も、割られた入口から入った。
プラ板があるコーナーに行く途中に、どこからか話し声が聞こえてきた。
「誰かいますか!?」
陳列棚の影から若い男女が顔を覗かせた。
私のマスクにビックリしたようで、すぐに外し安全だと伝えた。
二人と話をしてみる。
「すいません。他の方に会ったりしたとか、何か情報はありませんか?」
男性が答えた。
「俺たちは、誰にも会っていません。昨日は、 デート中だったので2 人で車の中で過ごしていました。」
女性が聞いてきた。
「おじさんは、どこか安全な場所を知っていますか。」
私は、少し考えたのち、都庁で救助活動を行っているかもしれない事を伝えた。
怯えていた 2 人にほんの僅かな笑顔が見えた。
「私は、昨日だけでも沢山の人に会いました。沢山の死も。生きる希望は捨てないで。」
そう言い終え、私は目的の物を再び探しにいった。
周りを見渡すと、既に沢山の物が無くなっていた。
昨日の夜のうちに荒らされていたんだろう。
目当てのプラ板を発見した。そのまま引き返そうとしたが、あるものが目に留まった。
ソーラーパネル付きのポータブル電源だ!とても高価なものだが頂くことにした。
次に隣のファストファッション店に移動した。
こちらは、荒らされてはいなかった。ガラス扉を鉄パイプで割り中に侵入した。
ホームセンターの倉庫の作りとは違い、建物がしっかりとしていた為、中はとても暗かった。懐中電灯で周りを照らした。
レディースコーナーとメンズコーナーで黒い洋服を探す。
ひとまず、数着をバックに詰め込んだ。
淡々と進めて行く中で私は、その場で立ち止まってしまった。
休日には、買い物にきていたいつもの店。
子供の成長に合わせて、買い替えていた洋服。
沢山の話し声や笑顔に溢れていた店内。
楽しかった思い出がぐっと込み上げていき、また泣いてしまった。
店を出ようと顔を上げると、先程割ったガラス扉の前に人が立っているのが見えた。
自然とこんな質問を投げかけた。
「人間ですか?ゾンビですか?」
反応はない。
間を空け、ゾンビだと思いそのまま扉の方まで歩いていった。
人間だった。
その場で崩れて倒れてしまった。私は、大慌てでその人を介護した。中年の男性でスーツ姿だったが、ジャケットからは血が流れていた。ジャケットを脱がす。
やっぱり。
顔面は蒼白で呼吸は薄い。腕には、明かに噛まれた跡があり、そこからは血が溢れている。男性が意識もうろうの中、何かを伝えようとしてきた。口が微かに動いているが、声は聞こえなかった。脈をとろうと指を当ててみる。
もう息絶えていた。
この男性はここからゾンビになるのだろうか?男性を地面に寝かせ観察をしていた。
数分経った頃に
体がビクンと動き、呼吸する音が聞こえ始める。
声を掛け、体を揺すってみた。反応はない。
次第に呼吸の音は大きくなり始める。突然目が開いた。
私はマスクをしていた為、彼はすぐに目を逸らしてしまった。
ゆっくりと体を起こし立ち上がる。フラフラと歩きながら、彷徨って行った。完全にゾンビになったのだと分かった。
長谷川の事が頭をよぎる。
長谷川の旅行先はアメリカだった。移動を考えると、感染してから14時間以上立っていることになる。死に直結するようなダメージを受けなければ、即座にゾンビとなるわけではない。つまりこの先は、生者とゾンビの区分けだけではなく、潜伏している感染者も存在していく事になる。見極めていくのは難しい。
私は心に決めた、4人だけで生きのびる、そしてゾンビ攻略は誰にも教えない。困難や助けには手を伸ばそう。だが、こちらに危険が及ぶような事はしない。
先程のゾンビになった彼にとどめをさした。
午後四時五十八分
会社に着いた。
「ただいま。」3 人がほっとした表情で出迎えてくれた。
早速取ってきたものを広げて見せた。
「星来!これを見てみろ!ソーラーパネル付きのポータブル電源だ!」
「おぉ!」星来の目が輝いていた。
しかし、食い付いてきたのは女性 2 人だった。
「dryer デキル!ケイタイ charge デキル!」
「rice cooker デキマスカ?チンデキマスカ?」
2 人同時に話していた。やっぱり電力は必要だ、いずれ増やしていければ。疑問が生まれた、ソーラーパネル付きの家はどうなっているのだろうか。自宅の近所には居た気がするが、無事にここから離れられた時に寄ってみよう。
ひとまず食事をとる事にした。
ウェンが準備を始める、缶詰とパンと炭酸ジュースだけだ。2 日目にして既に米が恋しくなってきた。食事をとりながら、今日見た事と、マスクと黒い服の安全性を伝え、更に自分の決意を皆に伝えた。
賛同してくれたことと、星来は友達がいれば助けてあげたいと言ってきた。
私は、星来の頭を撫で
「あぁ、助けるさ、頑張ろうな。」と言った。
外はもう真っ暗で懐中電灯を使用していたが、エネルギーの消費を抑える為に、早めに就寝をすることにした。
一月十日午前三時
早めに寝すぎた為、目が覚めてしまった。
起きたついでに屋上に上がった。真冬の午前三時はとても寒く、体が一瞬で凍りそうだった。真下の商店街を見てみる。明かりは無いが、ゾンビ達が闊歩しているのが分かる。
しかし、一部だけ光が煌々としていた。都庁だ。
夜通し救助活動を行っているのだろうか?それともあの場所に行けば、避難場所に連れていってくれるのだろか?
いずれにしても、真実を知るにはあの場所に向かうしかないと思っていた。
体が冷えてきた為、中に戻った。
再び寝ようとしたが、眠れなかった。考えていないと落ち着けなかったからだ。
ここから都庁までは約10キロメートル、正常な道順で辿りつけるわけがないが、順当に進めたとしても、朝に出れば昼には着くはず。荷物もなるべく必要な物だけを持ち、後はその場で調達をしていくしかない。きっと自衛隊が救出活動の拠点にしているのだろう、必ず辿り着いて生きている人たちがいる事を伝えなければならない。店長たちや秋元くんの妹さんにも、考えている内に寝てしまった。
午前六時
3 人は既に起きていて、朝食の準備をしていた。
私はコーヒーを口に含み、今日の大体のスケジュールを伝えた。
食事を済ませ、時刻は七時になろうかというところで日が差してきた。
星来とジーンはすぐさま屋上に向かい、ソーラーパネルに電力を貯めに行った。ウェンは洋服の裾を合わせ縫い付けていく。
私は、マスクの作成に入った。
昨日と同様、リューターで削っていく。
数時間が経ち、作っている内に思った。フィリピン人の顔って小さいんだな。
星来も成長していったら、このマスクも合わなくなっていくかもしれない。
私は頭で色々と考えながら、作業を続けていた。
その時、外で大きな音がした!
パァァン!まるで銃声のような音だ。
二階にいた三人がこちらを見る。皆で頷き、屋上に上がった。
屋上からは、音の原因がわからなかったが、商店街の先の十字路にはゾンビの群れが見えた。先程の音で集まってきたのかもしれない。
「警察が逃げるときにでも発砲したのかもしれない。」
ここからでは、見えないので諦めて、下に降り作業を再開した。
午後五時
日が落ちていき、窓からは光が射さなくなってきている。
形は完成したが、後は研磨するだけだった。ひとまず見えなくなってきたので作業を中断した。
食料は残り1日。何としても明日には完成させる必要がある。
今日の夜の食事はカップ麺だった。水はもう残り僅かになってきている。2ℓのペットボトルも初日で使い過ぎた。
食事を終え、ジーンと星来がスマホをいじっていた。ポータブル電源で充電をしてゲームをしていたのだ。ウェンは何とか電波が入らないかと思考錯誤していたが、電気がない今は電波塔さえも機能はしていないだろう。私は、写真フォルダを開いて眺めていた。
「パパ、マタココイキタイ。タノシカッタネ。」
ウェンが覗き込みしみじみと言った。
「そうだね。そうだよ!これからは、写真を沢山撮ろう!今まで行ったこともない所にも沢山行こう!皆で海外にも行こうよ!」
行く手段は何も考えていないが、なんだか勝手に希望が湧いてきた。
「フィリピンモ!?」「行けるさ!」
ウェンやジーンにも笑顔がこぼれた。
再び写真を見ながら、思い出話で笑っていた。
一月十一日午前六時
日頃の習慣で目が覚める。懐中電灯を点けて朝食の準備をした。もう水は使わない為、コーヒーは控えた。
3 人が目覚めて、食事をとり、最後の仕上げに向かった。
午後十二時
全てのマスクが完成した。既に 3 人は、ここから出る準備を済ませていた。
「よし!着替えてここを出発しよう。」
着替えが終わり、マスクを着けた私たちはまるで死神のように見えた。黒いバックを背負い出発をする。
その前に、最後のお別れをする奴がいる。
私はマスクを取り長谷川に告げた。
「長谷川!お前のお陰で私たちは新たな発見が出来た。感謝している。でも悔しんだ!もしお前が話せたら、どこでどうしてこうなったのか、原因が分かるはずなのに。私たちはここを出る、もう戻って来ることはない。」
私はゆっくりと鉄パイプを振り上げた。
涙で滲んだ目で見る長谷川は、まるで感謝しているかのように見えた。
素早く腕を振り下ろす。
ゴッ!
午後十二時二十分
裏口から順番に出て、私が最後に鍵を閉めた。
数体のゾンビがいるが、こっちを見ない事が分かっていた。
「3 人とも、ドキドキしてるよね?マスクさえ外さなければ大丈夫だから。」
「My heart beat bomb シソウデース!」
星来とウェンは手を繋いで無言だった。
私は三人を呼び戻し、肩を組んだ。
スマホを上にかざし自撮りをする。
「新しい世界に出発!チーズ!」
全員マスクで顔は見えないが、笑顔なのは分かった。
「At the time of departure」
第二話 終わり
第二話いかがでしたでしょうか?
1日目から一転して落ち着いた話の流れになってました。
ゾンビの弱点??笑笑
それはまた、、、。
次回予告
日本の心の武器を入手!新たな出会いも。
第三話 光が照らす方へ
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