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スノーゴーストと白いスープ

宿には今日も人が来る。


冒険者、旅行者、カロルのような人以外もくる。


今日きたのは全身が真っ白な女性だ。


髪も目も白く、特に目を引くのはその白い肌であった。


雪のような肌と言われているくらいに白く、東の大陸でもなかなか雪が降らない地域の生まれであるレレイからしたら、初めて見る肌の色だ。


この女性はだれかを探しているようで、男性に声をかけている。


「ごめんなさい。スープは冷ましたものを持ってきてくれる?」


そして、彼女は熱があるものが苦手らしく、スープも雪の吐息で冷やしているくらいだ。


ここにきた女性はスノーゴーストのユキネだ。


「どうして、東のほうに来たんですか?」


レレイはユキネに聞いた。


スノーゴーストは主に北の大陸にいることが多い。


「そうね。こういう理由よ」


彼女は元々北の大陸にあるスノーゴーストの集落の出身だそうで、主に女性ばかりが生まれる地域だったそうだ。


だが、ある日、ユキネは雪山で遭難した男性を発見する。

その男性の顔はいたって普通の顔でなぜか雪山にいるかわからなかった、


ユキネは男性を助けるために集落へと運ぶ。

女性ばかりの集落では男性が珍しく、集落にいた仲間達には驚かれたが、それでも、ユキネは倒れていた男性の看病をした。


苦手な火をともし、男性を助けようとしたのだ。


やがて、目覚めた男性はヤスマサと名乗る。


流れに身を任せて旅をしていたら、遭難してしまったそうだ。


ユキネは呆れつつも、ヤスマサを看病をする。


そして、集落の仲間に邪魔されつつも心の距離を近づけていく二人。


ユキネがいる集落に強大なモンスターが襲ってくるが、ヤスマサが退治をした。


そのことでユキネとヤスマサはついに恋に落ちるが、それでも、ヤスマサはユキネの集落に留まる事はしなかった。


「君をいつか迎えに行く」


そう告げてヤスマサは去る。


そして、ユキネは待った。


待って待って。


だから、探しに行った。


「‥‥そうだったんですね」


レレイは何とも言えない気持ちになった。


「あなた、ヤスマサは知っているの?」


「はい。この前、ここに泊って旅立ちました」


「どこに!?」


ユキネは椅子から立ち上がり、レレイに聞く。


「えっと、西の方へと旅立ちました」


「‥‥西」


ユキネは再び椅子に座る


「どうして」


「ユキネさん」


「温かい料理をだせたら、ヤスマサはあそこにとどまってくれたの?」


その言葉にレレイはなんだか悲しくなった。


「私には分かりません」


「けれど、あの人はなんだかなにかを求めているようでした」

「なにかてなに?」


「ごめんなさい。分からないです」


「そうよね。あの人が何を求めているなんて言わなかったもの」


ユキネは悲しそうな目をしており、その目を見てレレイも悲しくなった、


しかし、夜になると


「あいつ~!!」


食堂にて良く冷やした果実酒を片手にユキネが騒ぐ。


街には酒屋もあるが、宿屋らしく夜には酒を飲む客らが盛り上がっている事もある。


「迎えに来るって言ったのに、来ないじゃない!!」


ダン!!と器を机に叩きつけるユキネ。


「よせ。割れたら弁償ものだ」


ユキネの対面席にいるのはカルロだった。


また、たまたま来ていたのと情報収集がてらユキネに声をかけられて、西の大陸について聞かれていたせいで、絡まれてしまったのである。


「じゃあ、壊れたら壊れない氷の器を出してあげるわ」


「そういう問題じゃない」


「なんで、男て軽々しく迎えに行くなんて言えるの?」


「恋文なら届けたことがあるが、書くか?西の大陸への連絡線はあるぞ!!」


「届かなかったら意味がないじゃない!!」


ユキネはぐびぐびと果実酒を飲む。


「ぷはぁ、カロル。あんた、いい男よね」


「なんだ。唐突に」


「顔だけならヤスマサより、いい男よね。なんで、あんたに惚れなかったのかしら」


「私は恋愛は専門外だが」


カロルは逃げたくなったが、逃げたら余計に絡まれそうだし、なによりレレイ一家に被害が及ぶのはやめたかった。


「本当に男なんて‥‥どうして」


「けれど、彼は変わったよ」


カロルは腕を組みながらユキネに告げる。


「えっ?」


「前見たときは人を物語の登場人物のように見ていたが、ここを出るときにはその目が変わっているように見えた。自分も誰かと関わっていると自覚は多少持てたようだな」

「‥‥」


ユキネはうつむく。

「本当はわかっているのよ」


「この旅であの人にたくさんの女がいたことも分かった」


「私を迎えに来ないなんて分かっているの」


「じゃあ、諦めるのか?」


カロルの言葉にユキネが言葉に詰まってしまった。


「‥‥分からない」


「分からないわ」


「そうか」


カロルの言葉はそれだけだった。


翌朝


ユキネは恥ずかしそうに食堂にやってきた。


「ご、ごめんなさい‥昨日はあれだけ騒いじゃって」


「えっと、大丈夫です」


レレイはユキネに言う。


「ご両親のほうは」


「二人はあれくらいなら慣れている態度でした」


「‥それはそれで恥ずかしいわね」


ユキネは額に手を当てる。


「あの」


「なぁに?」


「お父さんが、ユキネさんにいいスープを作ったそうです」


「えっ?」


「持ってくるので、席で待っていてください」


レレイにそう言われ、ユキネは席で待つことにした。


レレイが持ってきたのは冷やしたジャガイモのスープだった。


細かく刻んだハーブことチャイブが浮かんでいる。


真っ白いそれは雪を思わせる。


ユキネはスプーンでスープをすくい、口に入れる。


しかも、あのごつごつとしたジャガイモからできたと思えないくらいにまろやかな舌触りであった。


のせられていたチャイブの香りは雪が解け春が深まった時のような香りがした。


冷たいのにおいしい。あたたかくなくても、このスープは食べられる。


北の大陸を思わせるスープであった。


しかも、これを作るためにかなり工夫したことも分かる。


「レレイちゃん」


少し二日酔いの頭が覚める。


「はい」


「やっぱり、私ね」


「はい」


「西へ行くわ」


ユキネはまっすぐと告げ、レレイは驚く。


「ヤスマサさんを追いかけるんですか?」


「えぇ、やっぱり、待つのは性に合わないから。それに」


「それに?」


「一発ぐらい殴ってやりたいもの。あと、色々と聞きたいことあるから」


「私のことを本当にどう思っているの?て」


その言葉にレレイは少し驚いた顔をした後に笑みを浮かべる。


レレイらしい静かな笑みだ。


「そうなんですね。うまく言えないけれど、頑張ってください」


「えぇ、頑張るわ。でもーー」


「?」


「二日酔いがあるから、もう少しここにいさせてちょうだい」


「お水持ってきます!!」


やがて、二日酔いが治った日に、ユキネは荷物をまとめ宿を出る。


街の入り口にはカロルが運転する馬車があった。


「乗るか?」


御者台にすわるカロルが聞いてきた。


「えぇ」


ユキネはカロルの隣に座る。


「‥‥馬車のほうは空いているが」


「いいじゃない。外の空気を吸えるし、あと、これくらい罰は当たらないわよ。ヤスマサだって、色々な女の子に粉をかけていたんだし」


はぁ、とカロルはため息をついて馬車を走らせる。


「西の大陸に行く港町でいいな?」


「えぇ。お願い」


ユキネが後ろを振り返ったら、街の入り口は遠ざかっていく。


最初は追いかけるための旅だった。


今度はただ、追いかけるためじゃなくて、自分の人生を決める旅となる。


ユキネとヤスマサが再会するかどうかはまた別の話。

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