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チート冒険者とオムレツ

チート冒険者が出てきますが特に無双しているシーンはあまりありません

宿には客が来る。


今日来た客は若い男性だった。


黒髪黒目の男性。


年齢的には若かった。


宿に来ていた冒険者たち曰く、最近東と北の大陸の一部で名をはせるようになった冒険者。


とても強いモンスターも一人で倒せるらしい。


でも、レレイが気になったのはヤスマサという冒険者がパーティーを組んだ相手が女性ばかりだということだ。


冒険者には確かに女性もいるが、主に男性が多いし、男女混合のパーティーが主だ。


しかし、今は一人らしい。


なんで一人なんだ?と聞いた冒険者がいた。


帰ってきた答えは


「モテる男は一人でいたいのさ」



レレイはよくわからなかったが、聞いた冒険者の顔はかなりすっぱそうな顔をしていた。



「ほら、本当に一人でいたい時もあるから」



その言葉にレレイは首を傾げた。



「肉!パイ!スープ!パスタを頼む!」


ヤスマサが食堂の椅子に座り、彼から注文が来たので、レレイは厨房に注文を言う。


豪快な頼み方だが、アルベールのほうがよく食べていたなとレレイは思う。



スープはバターを使った根菜とソーセージのスープ


肉はまるごと焼いたもの


パスタは油とハーブを使ったもの。


パイはカロルがよく食べている肉パイ。



あと、固形のチーズとパンまで頼んでくる。

やがて、ヤスマサは他の冒険者達を巻き込んで、食堂で宴のようなことをし、厨房は大忙しとなり、レレイは今日は夜中まで皿洗いだなぁ‥と考えながら、料理を運ぶのだった。



「お嬢ちゃん、こっちに料理をくれ!!」


「おい!!酒が足りないぞ!!」



「はーい!!」



レレイと家族がようやく休めたのは夜もかなり更けた時間帯であった。





ヤスマサの本名田中泰正


彼は異世界転生者である。


前世の世界というか前の世界というか、地球と呼ばれる場所に住んでいた普通の青年である。


彼の趣味はネット小説を読むことであったため、いつか、異世界転生をしてみたいものだと思っていたのである。


そして、テンプレ小説らしく、トラックにひかれ死に、神から間違えて死なせたお詫びにチート能力を貰い、この世界にやってきたのだ。


そして、ヤスマサは小説で見たように冒険者協会に登録。


「なんだ、お前!!生意気なんだよ!!」



絡んできたガラの悪い冒険者達をチート能力で叩きのめして、周りやギルドマスターから一目置かれたり


「ヤスマサ様!!」


「ご主人様!!」


「べ、別にあんたの事なんて…!!好きじゃないんだから!!」


旅をして各地で美少女や美女のハーレム要員を作ったり、本当に小説のような行動をしていた。


小説のような主人公のように見されていると思ったのに、どこか虚しさがあったのだ。



「‥‥朝か」


ヤスマサはむくりとベッドから起き上がる。


昨日は宴のような真似をしてしまい、酒も大量に飲んだが、幸いチートで二日酔いにはならなかった。


けれど、腹は減るから食堂に向かう。


食堂は朝早いからかまだ誰もいなかった。


「おはようございます」


そこにはレレイと呼ばれる少女がいて、机をふいている。


昨日あれだけ動いていたのに宿の人間達はもう働いていた。


宿屋にいる少女で、もう働いているからハーレム要員かと思ったら、ぞわりと冷たい気配がする。


まるで、そんな目で見るなと言いたげのように。


「どうかしました?」


「い、いや、なんでもない」


せっかく、チートをもらったのに何でビビっているんだよとヤスマサは思う。



「朝ご飯は食べますか?」


「あぁ‥せっかくだし、いただくよ」


「わかりました」


レレイはぺこりと頭を下げて、厨房に向かい、ヤスマサはどかっと椅子に座る。


本当は食べたくなかったが、なんでか頼んでしまったのだ。


しばらくすると


「お待たせしました」


レレイが持ってきたのはオムレツと固形チーズのひとかけらだった。



オムレツはシンプルな形に黄色い色。


そこにそえられている固形チーズ。


ヤスマサはフォークでオムレツを一口サイズにきり、口に入れる。


(あっ)


オムレツはいたって普通の味だった。


前に食べた高級レストランのほうがうまい。


卵はとろりとしていたがべちゃべちゃではなくふんわりとしていて、バターもふんだんに使われていて、ソースも添えられていたからだ。


でも、ヤスマサはこのオムレツをがつがつと食べた。


高級レストランのオムレツと違ってふんわりバターの香りではなく、少し塩っ気があってしっかりと焼いたタイプのオムレツ。


そして


「おかわり!!」


レレイにお代わりを頼んだのだ。


オムレツはいたって普通。


だが、ヤスマサは思い出したことがある。


それは地球にいる家族や友人達のことだった。


母親が作るオムレツはどこかしょぱかったし、たまに玉ねぎなどの野菜まで入っており、この宿のようなシンプルなオムレツは中々でず、むしろ、日本らしく玉子焼きが多くでていた。


砂糖の甘さよりしょっぱさが勝った玉子焼き。


それが母の味だった。



「お待たせしました」


「君」


「はい?」


「昨日は大変だったんだろう?起きていて大丈夫なのか?」


「えーと、眠いですけれど、働かないと生活できませんし」


レレイの顔は少し疲れている色がある。


「‥‥ごめん」


「いえいえ!お客様が悪いわけじゃ」


食堂にぞろぞろと客が入ってくる。



「レレイの嬢ちゃん。水をくれー」


「は、はい。すみません。他にお客様が来たので」


「う、うん」


レレイはパタパタと他の客のもとへ行く。


お代わり分のオムレツも食べ始めるヤスマサ。


食べ続けてわかった、



忘れていた。


忘れていったのだ。


この世界になじむ度に地球の記憶が薄れていく。



この宿屋のオムレツや宿屋の人々で思い出したのだ。


朝、慌ただしく料理をする母親に新聞を広げている父親。


机の上にある朝ごはん。


なにも言ってないのに、いつも通学路の途中で待ち合わせている友人達。



「お前、また、異世界転生を読んでんの?」


そういって笑う友人の姿。


そんなありふれたような光景を忘れていたのだ。



確かに、地球、特に日本は平和だったのだろう。


異世界のようにモンスターもいないし、平凡な人生を歩むしかない。


大体の人は冒険に行くより安定を選ぶのだ。


様々な事情を抱えて。





チートで無双もした。


ハーレム経験もした。


でも、自分が一番欲しかったのは



家族の元へ帰りたかった事なのだろう。


だが、神はヤスマサを地球には戻してくれなかった。


戻すことができないから、チート能力をくれたのだ。



ヤスマサは宿屋の主人から、他の大陸のことを聞く。


「違う大陸については、自分は詳しくないよ。詳しいのなら、あの人だ」


宿屋の主人からカロルという運び屋を紹介される。


カロルという運び屋が今日たまたまここに来ていたのだ。


カロル曰く、西の大陸には、違う世界に通ずる遺跡が存在している噂があるとのことだが、場所まではわからないらしい。


そして、カロルに言われたのが


「君を前に見かけた事がある」


カルロは静かにヤスマサを見つめる。



「君はまるで、こちらを物語の登場人物のように見ていた」



「けれど、今はそうでもないな」



そう言われて、ヤスマサは恥ずかしくなった。



カロルが言うとおりに、自分は心の中でこの世界の人々をゲームのNPCのように思っていたのだろう。


でも、そうだと思わなくなったのは、この宿に来たからだろう。



この世界で食べて、働いて生活をしている人々を見たのだから。




「次はどこに行くんですか?」


宿を出るときにレレイが来てい来る。



「西へ行く」


ヤスマサはそう答えた。


レレイはその背中を見送った。



ここは宿屋。


また来る人もいれば、来ない人もいる。


ここはそういう場所なのだ。





後年に西の大陸ではある高名な冒険者が誕生する。


その冒険者は様々な秘境の謎を解き明かした存在であったが、ある日突然姿を消す。


引退したのかどこかで平和に暮らしたのかは定かではない。

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