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デュラハンとパイ

レレイがいる東の大陸はかなり発展している。


街道や水道は整理され、大きな都市には冒険者協会の各支部や学術院や大きな商店もある。


だからこそ、人間とそうではないものも普通に暮らしている。


都市が開発されているせいか、冒険者のほかに運び屋という職業にはかなり需要があったのだ。



馬のいななきが宿の前に響く。


「あら。今日はあの人が来たのね」


レレイの母が言う。


からんとドアを開けてはいってきたのは黒い服の男性であった。


整った顔立ちと切れ長な瞳なのに、目の下にどこか疲れたかのようなクマがある。


男性本人曰く健康らしいが、男性を見慣れてない宿屋の受付にいる他の冒険者達はその姿をじろじろと見てしまう。


だが、レレイもレレイの両親も男性には見慣れていた。


まだ、レレイが小さいころからここにきている運び屋である。


「すまない。今日もパイをくれ」


男性は受付に行き、そう告げる。


「カロルさん。今日もパイだけですか?」


受付にいたレレイが答える。


「いや、少し時間があるからシチューも食べられる」


「じゃあ、食堂にどうぞ。空いてる席に座ってくださいね」


そう言われ、カロルは食堂に行こうとする。



「おぉ。カロルじゃねえか」


「ちょっと、聞きたいことがあるんだが、ちょっと来てくれ」


「あぁ。手短にな」



カロルのことを知っている冒険者達が声をかけ、レレイは厨房に向かう。



ニンジン、ジャガイモ、たまねぎ、きのこ、薄い肉を小麦粉をミルクでとかしたもので煮込む特製シチュー。


それらを皿によそい、運ぶ。


「南のほうはどうなんだ?」


「また、争いか?」


「じゃあ、しばらく船はあれか」


そんな声が聞こえてきたが、レレイは別の机にいるカロルの元へいく。


「お待たせしました。シチューです」


「あぁ」


ことんとシチューが入った皿を机に置く。



すると、カロルは首を外し、机に置き首の黒い断面図からシチューを流し込んだのだ。


「ぶぅふ!?」


「ぎゃあぁぁぁ!!」


食堂にいる他の客達がふきだす音や悲鳴の声をあげたりする。


カロルは首が外れるデュラハンだったのだ。


「カロルさん!?ちゃんと嚙んでください!!首から流すて!!」


レレイが思わず、そういう。


「レレイのお嬢ちゃん、そうじゃないよ!?」


食堂にいた冒険者の一人がそう叫ぶ。


「す、すまない。ついやってしまった」


「ついじゃないですよ!!」


「前にやって、君を泣かせてしまったな」


「いつの話をしているんですか!!」


レレイが小さい頃にカロルは同じような事をやってしまい、レレイを泣かせてしまった事があるのだ。


「騒がしいと思ったら、また、カロルさんがやったんだね!!」


パイをもってレレイの母マリーがやってきた。


「他のお客さんがいるんだから、驚かせちゃダメでしょ!!」


「す、すまない」



マリーに怒られ、カロルは少し頭を下げる。


だが、首がないままだから、体は少し前のめりになり、机に置いてある頭部だけは申し分けなさそう顔をしている。


「だったら、今すぐ、首をくっつけて。他のお客さんに謝りな」


「あぁ」


カロルは立ち上がり、頭部をくっつけた。


「驚かせてすまない。今日の食事代は私につけておいてかまわない」



カロルの謝罪にカロルに慣れている客以外は顔を見合わせている。


「おっ!カロルがおごってくれるてよ!!」


「じゃあ、今日は食べ放題飲み放題か!!」



慣れているお客達は好き勝手に言う。



「まったく。はい、カロルさん。パイができたよ」


「ありがとう。パイの代金はここに置いておく」


カロンはパイが入っている包みを受け取ると、早足で去っていく。


「カロルさん、お金。大丈夫かな」


「まぁ、あの人は優秀な運び屋だから、お客は絶えないからね。あと、あの人には世話になっているから、ツケておいても大丈夫だけれど」


また、宿屋の前で馬のいななきが響いた。




カロルは宿屋から大分離れた道でパイの包みを開ける。


包みに入っていたのはブルーベリーとクリームのパイだった。


カロルは口を開け、パイを食べる。


口の中でベリーの酸味とクリームの甘さが広がる。


カロルにとってレレイやレレイの両親がいる宿屋は長年の付き合いであり、また、携帯食になる料理を出してくれる場所でもある。



カロルの金について、レレイの家族達が心配していたが、カロルは優秀な運び屋だ。


急ぎならカロルが今馬車を引いた馬を駆り、荷物が多いなら彼が持つスキルによって出される馬車で人ごと荷物を運べる。


デュラハンの運び屋はかなり需要があるのだ。


だが、今は急ぎの便ではないが、相変わらず配達量は多いから、馬車を使っている。



それに、彼は本来働かなくてもいい家柄の生まれなのだ。



人間社会で言えば名家といってもいいし、身体も人間とは違う。


だが、彼の家族には特殊な事情があるのだ。


今言えることは彼の両親は血が近い。


とても近い。


外に血が出ることを好まない家であった。


いや、もしかしたら、彼らの両親が特殊な可能性もあるかもしれない。


そして、彼には他の兄弟がいる。


カロルは自身の首が外れることは罰か祝福かわからないと思っている。


でも、彼は家族に愛され、家族も彼を愛している。


カロルが金に困るなら、金を送る家族だ。



でも、カロルは家族に頼りたくなかったのだ。

カロルは家族が嫌いじゃない。ただ、頼りたくない。



それだけだ。



カロルはまたがぶりとパイを嚙んだ。





また、後日カロルが宿屋にやってきた、


今日はゆっくりできる時間があるから、ちゃんと食べられそうだ。


だが、受付の扉越し父とカロルの会話でこんな言葉が聞こえてきた。


「今後、東の大陸からは傭兵が行き南の大陸からは難民が流れるだろうな」


「じゃあ、お客の様子も見ないとな。何日か滞在する客も出てきそうだし」


そんな会話が聞こえてきた。



カロンは食堂の机に座っている。


今日はちゃんと頭部をくっつけて椅子に座り、窓の向こうを見ている。


「カロルさん」


レレイがカロルに話しかける。


「なんだ?」


カロルはレレイのほうを見向いた。



「南の大陸は戦争なんですか?」


「‥‥どうして、それを?」


「お父さんとお客様が言っていて、南について色々と言っていたので‥」


「そうだな。南からの荷物は遺品と手紙が多い」



その言葉にレレイは口をつぐんだ。


戦争


レレイからしたら、その言葉はあまりに遠い言葉だった。


レレイがいる場所は同年代の友達たちが退屈だと言うくらいに平和だったから。



「東もかつては戦争をしていた」


「えっ?」


「それでも、終わったんだ。南もいつかは終わるだろう」


「‥そうなんですね」


「あぁ、東も色々とあったんだ」



沈黙が落ちる。


レレイはなにか言葉を探そうとしてあることを思い浮かべる。


カロルさん、いつもパイを食べているよな。


カロルはパイをよく食べる。


きのこのパイ


魚と野菜のパイ


ひき肉を使ったパイ


この前のベリーや木の実を使ったパイ


クリームのパイ


など色々と食べている。



母曰く「あの人は忙しいから、楽に食べるのが好きなのよ」との事だ。



「カロルさんてパイが好きなんですか?いつも頼んでますけれど」


「あぁ。好きというより、食べるのが楽だからな」


「えっ?ちゃんと食べてくださいよ!」


「食べている。パイの包みもちゃんとマリーに返しているよ」


「いや、そういう事じゃなくて」


「?」


カロルさんはよくわかってなさそうな顔をした。


「もう‥今日は首を外さないで食べてくださいね」


「わかっているさ。何度も怒られるのはごめんだ」



「レレイー!!料理ができたわよー!!運んで!!」


「はーい!!」


母の声がし、レレイは厨房へと向かう、



カルロはその背中を見送る。



レレイに言ったことは確かだ。


東の大陸もかつては大きな戦争があった。


多くの人間や人ならざるものが巻き込まれた大戦争があったのだ。


今の発展ぶりからしたら想像もできないくらいの街が焼かれ、野が焼かれ、廃墟があちこちにできていたらしい。


カロルの両親もその大戦争に巻き込まれた。


だから、両親はーーーー。



「お待たせしました」


レレイが料理を持ってきた。


その声によりカロルは思考の海から戻ってきたのだった。



レレイが持ってきたのはミートパイだった。




カロルはナイフとフォークでパイを切り料理を口に運んだ。


肉のパイは相変わらず塩っけとうま味でおいしかった。


外のパイ生地はパリパリとしておいしく、マリーの腕の良さがわかる。



「食べ終わったら、またお仕事に戻るんですか?」


「あぁ、そうだよ」


「‥‥」


「レレイ?」


「なんでもないです」



(また、なにか怒らせるような事をしただろうか?)







カロルはレレイの宿での食事が終わり、また街道を使って、南の大陸に繋がる港町にやってきた。


港町にはどこか暗い目をした人々と装備を整え、一山当てようとする傭兵などでごった返していた。



各大陸からある連絡局や商業回線による荷物達が港にごった返している。


だから、人手が欲しいから運び屋がくるのだ。


もちろん、荷物を横領せずに届ける事や盗賊やモンスターから自衛できるのが大前提であり、カロルはそういった意味ではちゃんと守る方であり、結構強いほうだ。



カロルはそこで荷物を受け取る。


今は南の大陸からの急用便が多い。


主に手紙や遺品などだ。



この港から旅立ち二度と戻らない人々もいるのだ。


そして、ここに逃げてきた人々が知らせるために書いた手紙もある。


そして、カロルが運ぶのは荷物だけじゃない。



「行くぞ」


小さなガラス瓶に入った火玉のようなものをベルベットのような高級の布があてられた箱に包む。


あるべき場所へあるべきものを返す。


それもカロルの仕事であった。



カロルは馬を駆る。


そこは東大陸にある小さな農村だった。


馬をとめ、そこにある小さな家のドアをたたく。



そこから出てきたのは小さな老婆だった。


「どなた?」


カロルは老婆に手紙を渡す。


そこに書かれていた文字を見て、老婆はカロルの手からひったくるように手紙をとり、乱暴に開けて、手紙を読む。


「あ」


老婆の目が見開く。


「あっ」



「あぁぁぁぁぁっ!!」



老婆は手紙を胸に抱き、ぽろぽろと涙を流した。


そこに書かれているのは戦死報告書と遺書である。


南の大陸で戦争が始まってから、こういう手紙がよく増えた。

冒険者と違い、傭兵は戦争がはじまる場所に向かうことが多いのだ。


だから、死ぬ前にせめてと手紙を残すものもいる。


カロルが届けるものはそういったものも含まれている。



そして、カロルの目には泣き叫ぶ老婆の背をさする半透明の男の姿もうつっていた。





後日カロルは再びレレイの宿にやってきた。


馬を休ませ、時間があるからとレレイのハーブ取りにつきあってくれる事になった。


「カロルさん、今日は元気ないですね」


「そうか?」


カロルは水を飲み、レレイに言葉を返す。


「そうだな、少し泣かれたよ」


「泣かれた?」


「あぁ。こういう仕事をしていると、宛先が欲しくないものを届けることもある」


「それ、カルロさんのせいじゃ‥‥」


「そうだな。私のせいではないが、でも、どうしようもない時もあるんだよ」


「‥‥」


「レレイ」


「はい」


「そのペンダントは誰か貰った?」


レレイの首元には水色と白の鱗のペンダントがあった。


「‥‥前に泊まったお客様からです」


「そうか。見るからにドラゴンの鱗だが」


「はい。本人は言いませんでしたが、多分ドラゴン。龍なんだと思います」


「なにかされたか?」


「なにもされていません。ただ、ご飯をたくさん食べていました」


「無害だったか」



風が吹く。



「私、いつか、この町を出ていこうと思うんです」



カロルが目を少し見開く。


「じゃあ、私がレレイの手紙を宿に届けることになるな」


「怒らないんですか?」


「怒る理由がない。レレイが決めたことだからな」


「でも、それは逃げるじゃなくて、いつか、ここに戻るためなんです」


「なにかの修行か?いいと思うぞ」


「だから、その」


レレイは持ってきたカゴからなにかを出した。



「カロルさん用にパイを作ってみました。食べてみてください」


カロルは包みを受け取り、中身を開ける。


そこには不格好なパイがあった。


「これは」


「い、一応母さんにならったんですよ!でも、うまくいかなくて‥‥」


「ありがとう。すぐに食べたほうが大丈夫か?」


「いえ。カロルさん用に作ったものですから。また、ご飯食べたらすぐにお仕事に戻りますよね?」


「あぁ。そうだな。やっぱり、運び屋の人手が欲しいらしいからな」



「じゃあ、その時に食べてください」


「腹を壊さないか?」


「こ、壊さないですよ!!というか、そういうなら食べなくていいです!!」


「冗談だよ。ありがたく食べさせていただくさ」




そして、レレイと別れ、カロルはまた仕事に戻る。


そして、また、遺品や手紙を届け、時間はすっかり深夜だ。


カロルはレレイからもらったパイを食べる。


レレイが作った不格好のパイの中身はよく煮込んでこぼれやすくしたシチューだった。


だが、いつもの宿屋のシチューの味とは違う。



(そういえば、レレイがシチューの練習をしているといっていたな)



味はとろみを出すためにかなり煮詰めているし、味は少し濃いめだ。



パイの生地はかなり不格好だ。マリーのパイと比べたら生地の上につける網目でさえぐにゃぐにゃしている。




でも、家族で食べた味を思い出させる。



母が作った料理はどこか不格好であったが、おいしくてあたたかった。


父はあまり笑わないが、たまに笑った時の笑みは優しかった。



(これはレレイの味だな)



そのパイを食べながらカロルはたまには家に帰ろうかなと思った。


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