龍と罪の御伽噺
短編と同じ話です
自分がいる町はある小さな町だった。
それでも、大きな都市と都市の間にある街だから冒険者ギルドや様々な冒険者や商人、旅行者ががくる町であり、自分の家である宿屋にも様々なお客が来た。
「レレイ!!お鍋を見て!!」
「はーい!!」
母の声で鍋を見る。
ニンジン、ジャガイモ、たまねぎ、きのこ、薄い肉を小麦粉をミルクでとかしたもので煮込む特製シチュー。
これはうちの名物で毎日のように大鍋で煮込む。
それ以外にもパスタやスープの下ごしらえもする。
(あのお客さんも今日もこれを食べるのかな)
煮込まれていくシチュー鍋を見ながら、そう思う。
この宿に泊まっているお客さんの一人。
ある雨の日にきた冒険者の女性。
とてもきれいな女性。
だけど、その女性は変だった。
まず、ご飯をたくさん食べる。
名物シチューを別の鍋に分けてたくさんくれと言っていた。
父はえっ?となったが、女性はその分は金を払うと言っていて、食べきれるのか?となって大鍋とは別の鍋とお皿をもって部屋に持っていっていったら、翌日にはきれいになくなっていたからだ。
それから、その女性への食事は別鍋シチューとなっている。
(今日も食べてくれるかな)
煮込み終わったシチューを別の鍋に移し、パラパラと緑色のハーブを入れる。
「できたのか?」
厨房に女性がきた。
ちょうどいいタイミングだ。
「お疲れ様です。お仕事終わったんですか?」
「あぁ。今日は簡単だったから、少し水浴びしてから帰ってきた」
「そうなんですね。丁度シチューもできましたから」
「ありがとう」
女性は鍋を受け取り、背を向け自分が泊まっている部屋に向かう。
その後姿を見てレレイは思う
(あの人はどんな人なんだろう?)
父から客の素性をあまり聞くなと言われている。
どこから来たぐらいは聞くが、一日や二日ぐらいしかいない客は喋るより用をすますのが大切だからだと。
よくくる常連客でさえ、喋らない部分はあるらしい。
それでも、あの女性は四日以上は滞在している。この小さな町に四日以上も。
殆どはつぎの大きな都市に向かうのに。
他の冒険者曰く、あの女性はとても強いらしい。
上級の冒険者でさえ手こずるようなモンスターでさえ一人で倒せるらしい。
だから、あれだけお金を持っているのだろうかと考えてしまう。
宿代に食事代。うちみたいな宿でさえ、連泊すればお金がかさむから。
「レレイ!!お客が来たよ!!シチュー五皿!!」
「はーい!!」
母の声にレレイは客にだすシチューを皿によそうのだった。
翌日、鍋と皿はきれいに返されていた。
「あっ」
今日は珍しく女性が食堂にいた。
シチュー皿が何皿も重ねられており、それでも女性はまだ食べていた。
周りの人達はぎょっとしている人達が多く、大柄の冒険者でもそこまで食べないからだ。
「おいしいですか?」
レレイは女性に話しかける。
女性はスプーンを止め、レレイを見る。
「あぁ。うまいよ」
「うちのシチューを気に入ってくれたんですか?」
レレイはそんな質問をする。
「そうだな。あたたかいと感じるよ」
なんだか、変な言葉だなとレレイは感じる。
おいしいはわかる。
あたたかいはそうだ。だって、あたためているんだから。
「すまない。おかわりをくれ」
「は、はい」
レレイはおかわり用のシチューを持ってくるために厨房へと向かった。
小さな子供の背中を見つめる女性ーーアルベールは思う。
よく煮込まれた具材
薄い肉のうま味。
甘いミルクの汁。
浮かぶ緑のハーブ。
『おいしいですか?』
(あぁ、普通の人間ならうまいだろうな)
それでも、これを食べるにはきっと理由があるのだろう。
夜
レレイは皿洗いをしていた。
今日はとてもお客が多いのと、女性がいつものように大量に食べていたからだ。
レレイは不思議な子供だった。
町にいるほとんどの子供は家の手伝いを嫌がったり、大きくなったら大きな都市に向かうや冒険者になると言っている子もいた。この小さな町に窮屈さを覚える子もいたのだ。
それなのに、レレイは文句も言わず親の手伝いをする。
レレイは宿の手伝いが好きだったのだ。
不思議な格好をした冒険者
様々な商品を持った商人。
大きな馬でくる旅行者。
それらを見るのが好きだったのだ。
まるで知らない景色をそこで見られるかのようにレレイは感じていた。
でも、友達から言われる。
『レレイは大きくなったらどうするの?』
大きくなったら?
多分宿屋を継ぐのだろう。
でも、それでいいのかという思いもある。
他の子供達のように町が窮屈のように感じてはいないのだけれど。
レレイは言葉にできない思いを抱えながら皿を洗い続けた。
翌日
レレイは街はずれで足りなくなったハーブをとりにきていた。
つんでもいいハーブを籠に入れていく。
「君」
後ろから声がした。
振り向くと女性が立っていた。
「こんにちわ」
「こんなところでなにをしている?」
「シチューに入れるハーブをつんでいました。足りなくなったので」
「‥‥私のせいか」
「でも、ちゃんとお金は払ってくれてますから」
「そうか。だが、気をつけろ。ここいらのモンスターは弱くても子供一人は危ない」
「大丈夫です。お父さん曰くどうしてか、昔からここまではモンスターも来ないそうです」
「それでも危ないから、終わったら送っていく」
「えっと、ありがとうございます。大丈夫なんですか?」
「あぁ。今日は特に仕事がない」
「そうなんですね」
レレイはハーブつみながら話題を探す。
「あの」
「なんだ?」
「この町て小さいですよね」
「あぁ。大きな都市の間にあるからな」
「やっぱり」
「それがどうしたか?」
「みんな、大きくなったら町を出ていきたいというんです」
「まぁ、子供はそうだな」
「でも、私はどうしたらいいのかわからないんです」
「わからない?」
「宿屋の手伝いは嫌いじゃないけれど、このままでいいのかなて。友達に大きくなったらどうしたの?て聞かれてうまく答えられなくて」
女性は少し考えた後
「冷たいようだが、それを決めるのは私じゃなくて君だ」
「そ、そうですよね」
レレイは少ししょんぼりする。
「だが、いったん広い世界を見てから、また戻るという事もできる?」
「戻る?」
「外の世界で勉強してから戻るという人もいる。出ていくのも戻るのも自由ということ」
「そうなんですね」
「だから、今すぐに決めることではないと思う。君はまだ子供だから。子供の時間も大切だ」
「‥‥」
なんだか、胸があたたかくなるような感覚がします。
「ありがとうございます」
「別に礼を言われることじゃない」
ハーブをつみ終わった後に宿まで女性が送ってくれた。
女性も宿に泊まっているから、同じ場所に向かうだけだが、レレイにとって今日の出来事は特別に思えた。
翌日
今日も鍋は綺麗に帰ってきた。女性はちゃんと夕食を食べたようだ。
で、今日は朝ごはん。
チーズときのこのオムレツにスープにチーズにパンとジャムでたくさん食べていた。
そして、おかわりまでしたのだ。
宿の近くに酒場があるから、二日酔いの冒険者達をよそに女性はご飯をたくさん食べている。
お父さんが「よく食べるが、金を払ってくれるからいいか」と言っていた。
食事が終わった後に女性は仕事に行く。
レレイは机にある皿を片付け、机をふいている。
「やっぱり、あの、女、普通じゃね」
「見たかよ。あの食事量、いくら、女の冒険者でもあそこまで食うかよ」
「いや、食うやつは食うだろうが、朝だぞ」
ひそひそと違う机にいた冒険者達が喋っている。
(ご飯はちゃんと食べたほうがいいと思うけれど)
レレイは机をふきながら内心で思う。
「あの女の噂を知っているか?」
「あぁ、一人で強い魔物を倒したんだ」
「上級冒険者がてこずるモンスター?違う。あの女が倒したのは上級冒険者が10人はいるモンスターを一人で倒したんだ」
レレイはぴたと手を止める。
(あの人、そんなに強いんだ)
でも、レレイは不思議と怖いとは思わなかった。
(なんでだろう?)
レレイは皿を運びながらそう思った。
今日の宿屋の昼食は特別メニューである。
猟師が狩った肉を使ったステーキだ。
少し割高になるが、冒険者達や旅行者には肉はやはり人気だ。
父親が塩で味付けし鉄板で焼いた肉を母が皿にのせていく。
それをレレイが運んでいく。
今日はステーキだからか、いつもより注文が飛ぶ。
忙しさは目が回るほどだ。
味付け、焼く、のせる、盛り付け。運ぶ。
味付け、焼く、のせる、盛り付け。運ぶ。
味付け、焼く、のせる、盛り付け。運ぶ。
10回以上繰り返して、肉がなくなってからようやく一息つけるようになった。
母から休憩をもらい、自室で休む。
「あっ」
(あの人の分なくなっちゃった)
多分きっといたら、食べていただろう。
(一枚でもとっていたほうがよかったかな?)
けれど、いなかったなら、いた人を優先する。
商売はそういうものだと父親から聞かされていた。
(どうなんだろう?)
「そうか。今日はステーキが出たのか」
帰ってきたあの人に今日の昼食について知らせておいた。
「すみません。言っておけばよかったですね」
「いや、こっちも聞いておけばよかったんだ。どちらにしろ、今日は依頼を受けようと思ったから昼はいなかったけれど」
「そんなに大変なんですか」
「いや、そうでもないのだけれど」
(やっぱり、この人強いんだ)
「それに」
「それに?」
「私はやはり、シチューのほうがいいな」
「!大丈夫です。今日もちゃんと作りますから」
「そうか。それなら、安心した」
女性はふわりと微笑んだ。
夜
ごろごろと切ったニンジン、ジャガイモ、たまねぎ
ざくりと切ったきのこ
それらをミルクの汁でことこと煮込む。
そして、緑のハーブをぱらり。
いつものシチュー。
あの人用に用意した鍋は翌朝綺麗に返されていた。
次の日の夜。
レレイが皿を洗いをしていると足音がした。
「すまない。水をくれないか?」
女性が来た。
「あっ、はい」
レレイは水瓶から水をすくい、コップに入れて女性に差し出す。
「今日も皿洗いか」
「はい。洗い物をしないと明日が大変になりますから」
「大変だな」
「慣れましたから。眠れないんですか?」
「いや、そうじゃないだが、水が飲みたくなってな」
「疲れたんですか?」
「いや、そうじゃないだけれどな」
「じゃあ、おなかすいた?」
「ちゃんと食べたよ。これ以上邪魔すると悪いから部屋に戻るよ。おやすみ」
女性は背を向け歩き出した。
「おやすみなさい」
レレイはその背中に言葉を返した。
翌朝は雨だった。
今日は珍しくお客があまりいない。
だからか、少し暇だった。
普段だったら、他の子供たちと遊ぼうとするが、みんなに家にいるか、家の手伝いをしているだろう。
やることがないかと宿を歩いていたら
「あっ?」
女性が窓の外を見ていた。
ぽつぽつと雨が窓をたたいている。
女性が泊まる部屋は二階の角部屋だ。
女性がふりむく。
「君か」
「どうしました?」
「いや、ただ、雨を見ていた」
「雨の日てやることが少ないですものね」
「そうだな。‥‥君、少し時間あるか?」
「?はい。今日は手伝いもないですし」
「なら、暇人の話に付き合ってくれ」
宿の受付近くにある暖炉には火がついていた。
普段は人でごった返している場所も今はだれもいないし、受付にも両親がいない。
レレイと女性は暖炉の前にある椅子に座っていた。
「これは私が考えた話だ」
女性は語る
ある星で龍による災害があった。
その頂点にいる龍は星による最強の生物となる。 その星には龍災害から世界を守る組織があった。
その組織にある女がいた。
女はとある男に恋をしていた。
だが、男には恋人がいた。
男の恋人は少し無愛想であったが、その星の人間達には必要な学者であった。
男も男の仲間達も彼女の周りにいた。
女もその一員だったが、彼女は選ばれない場所にいた存在だった。
それでも、仲間達は世界を救おうとして、戦い、辛い事も乗り越えてきた。
多くの死、強敵たる龍達、時に裏切り。
そして、ある日、龍の親玉の一人が女に夢で囁いてきた。
龍は元々人間だった。
龍は星を人間を取り込み、頂点に至ると。
その権利があるのは、あの男ではなくお前だと。
どうして、龍がそんな事を言ってきたかわからない。
龍は龍を倒したものがなれると女は知った。
だから、女は選んだ。 最後の戦いの時に仲間たちを倒した 女は星に選ばれたのだ。
「…どうしてだ!?」
怪我だらけの 男が叫ぶ。
女は仲間達を殺さなかった。
「なんでだ!!」
女はそれを無視して髪を切りまだ息があった龍を斬り新しい龍が生まれる時は星が終わる時だった。
けど、新しい龍は星を取り込まず空へと旅立ってしまった。 仲間達の声をふりはらって空へと飛んでしまった。
「世界を救う組織て冒険者協会みたいなものですか?」
「似ているようで違うな。説明すると難しいが」
「それに」
「?」
「‥‥これはあなたの話?」
レレイはなんとくそう思った。
「さぁ?」
女性はそんなわけないだろうという風に言った。
でも、レレイはどうしても、その龍の話が女性の話のようにしか聞こえない。
けれど、言っても答えてくれないだろうと思い
「龍は仲間達をどう思ったんですか?」
「龍になると、人間の感情とは違うようになるらしい。龍はその記憶があっても他人事にしか感じないかもな。きっと、男のことさえ、誰だ?になっているのかもしれない。もしくは、覚えていても、他人事のように感じているのかもしれない」
「‥‥それは」
レレイがなにかを言おうとしたが
「レレイ!!少し手伝って!!」
母親が現れた。
「あっ」
「いってきなさい。手伝いは大切だろう」
「これはあくまで私が考えた話だ。気が向いたら、また話す」
「‥‥」
レレイは立ち上がり、母親の元へ向かった。
女性はぱちぱちと音を立てている暖炉を見つめる。
がこんと薪がくずれた。
それから、レレイは女性から聞いた龍の話について考えた。
恋の話はまだレレイにはよくわからない。
けれど、友達が急に龍になって空へ行ってしまったらどうなるんだろう?
「レレイ。お前も大きくなったから、そろそろ、シチューの仕込みや味付けも覚えるときだろう」
ある日、父からそう言われた。
「えっ?お父さん?」
「お前は後継ぎだからな。レシピの一つを覚えるときだ」
「跡継ぎ」
「手伝いも大変だが、これからは野菜の切り方も覚えろよ」
「‥‥」
なんだろう。
嬉しいはずなのに素直に喜べなかった。
「あたし、大きくなったら絶対この町を出ていくんだ」
久しぶりに会った友達からそう言われた。
前々からそういっていたが、改めて聞くとどこか刺さる。
「出ていくて何をするの?」
「そりゃ、勉強もしたいし、素敵なカフェでお茶したいし、いい男を捕まえて結婚したいに決まっているでしょ」
「そうなんだ。でも、ほかのみんなもいるよ」
「この町で私たちと同い年の男なんてガキぽいのよ」
大人からしたら、おませな事を友達は言う。
「レレイはどうするの?ずっとここにいるの?」
「うーん、どうなんだろ?」
「あら?前は宿屋を継ぐて言っていたのに」
「泊まっている人に、出ていくも戻るのも自由て言われちゃって」
「そうなの。でも、私は戻りたくないなぁ。だって、ここは平和すぎて退屈だわ」
「退屈」
レレイは女性の話を思い出す。
龍による災害
世界を救う組織
叶わなかった恋
「‥‥外に出たら、必ず幸せになれるのかな」
「なによ。ここにいるよりずっと、ましでしょ」
「‥‥」
(本当にそうなのかな?)
レレイはそう考えた。
それから、レレイは友達とわかれ、街はずれの花畑にきた。
そこはかつて、家族でピクニックにきた場所だった。
白い花々が咲いている。
「あっ」
白い花々が咲いている場所に水色の花が咲いている。
昔来た時には咲いてなかった花だ。
町の老人が言っていた事を思い出す。
「大きくなるということは変わることだ」
(‥‥変わること)
大きくなったら、友達達はいなくなるかもしれない。
でも、今はちゃんと理由を話してくれている。
理由を話さずにいなくなったら。
レレイは水色の花を摘み、家に戻った。
そして、シチューに必要な野菜の切り方を覚え、ミルクの汁を作るのに必要なミルクと小麦粉とバターの量を覚える日々がはじまる。
女性は自分が泊まる部屋にある椅子に座っていた。
脳裏によぎるのは
「…どうしてだ!?」
怪我だらけの 男が叫ぶ。
「なんでだ!!」
女は冷たい顔で仲間である存在達を見下ろしている。
女の目の前には息も絶え絶えの龍がいる。
星を滅ぼすはずの龍が横たわっている。
通信と呼ばれるものの向こうから慌ただしい声がするが、それさえどうでもよかった。
そして、女は持っていた短刀と呼ばれるもので龍の心臓をえぐろうとする。
「やめろ!!」
「待って!!」
「待ちなさい!!」
刃物が龍の体に入る寸前に龍が嘲笑って(わらって)いたような気がした。
だが、もう女はそれを他人事のようにしか感じられなかったのだ。
最初はまだ、宿屋の味にならない。
ごろごろと切るだけでも、形が不ぞろいになる。
ミルクの汁の味がぼやけるなどだ。
夜、レレイがシチューの練習を厨房でやっていると、女性がやってきた。
「‥‥シチューのにおいがする」
「あっ、こんばんわ。また、お水ですか?」
「あぁ。けれど、においがして」
「ちょっと、今シチューの練習をしていて」
「練習?」
「はい。お父さんにシチューのレシピも覚えるように言われて」
「そうなのか」
女性は少し考えてから
「食べさせてくれるか?」
「えっ?」
「いや、少し気になって」
「で、でも、まだ人様にだせるような味じゃ」
「だからこそ、人の意見も必要だろう」
「‥‥」
「ただ、単にそれを気になってな」
レレイは無言で小皿にシチューを救い、女性に差し出した。
女性は小皿を受け取り、シチューを飲む。
「‥‥」
「ど、どうですか?」
「確かに、宿の味ではないな」
「そ、そうですか」
レレイは肩を落とす。
「でも、あたたかい味だよ」
「!」
「宿の味も確かにいいが、君の味もいるだろうな。いや、私はそこまで料理を詳しくないが」
「あ、あの」
「?」
「シチューをもっと食べてくれませんか?」
むしゃむしゃ
こくこく
むしゃむしゃ
こくこく
レレイの言葉を受けてくれた女性はレレイ製のシチューを食べてくれた。
不揃いで不格好な野菜も
暑さが違うきのこも
少しぼやけた味のミルクの汁も
スプーンですくい食べていく。
皿があくたびにレレイはシチューをよそい、女性は全部食べてくれた。
相変わらずすごい食欲だ。
「あたたかったよ」
女性のその言葉にレレイは嬉しくなったのだ。
女性が食べ終わった後に女性はおやすみを告げ、レレイは皿洗いに戻った。
翌朝、夕飯に出した鍋も綺麗だった。
でも、今日は雨だった。
そして、女性は暖炉前にいた。
「あ、あの」
「どうかしたか?」
「この前の話についてなんですけれど」
「この前?」
「龍の話です」
「あぁ、それか」
レレイは鍋で温めコップに白湯を女性に差し出す。
「ありがとう。わざわざ、あたためてくれたのか?」
「はい。今度は私の話に付き合ってくれたらと思いまして」
レレイは女性の隣に座る。
「この前の龍の話について考えました」
「‥‥」
「悲しい話だと思いました。でも」
「でも?」
「でも、仲間達は寂しかったのかも」
「寂しい?」
「龍が旅立ってしまったから」
「ははは。世界は平和になったんだ。勝手に幸せになっているだろう」
女性はどこか他人事のように笑う。
「でも、寂しいですよ。龍の本心を聞けなかったんだもの」
レレイはぎゅっとコップを握る。
「それに、仲間が龍になったのを見たんでしょう?なんで?てなっていたのかも」
「女は言わなかったからな。星に選ばれたのも、本音も。ただ、勝てないなら違う権利をとっただけ。龍からしたら、星を見逃しただけ」
「でも、私も友達が急にいなくなったら悲しいです」
女性はぴたりと止まる。
「なんで、何も言ってくれなかったんだろうと考えるかと思います。だって、友達だから。あと、お父さんとお母さんが急にいなくなっても嫌だと思います。家族だから」
「何も言われないでいなくなられるのは寂しくて、悲しくて、怒りたくなると思います」
がこんと薪が崩れる。
ちろちろと炎が揺れる。
「だから、…男の人はきっと後悔して寂しくなったと思いますよ。何も聞けないまま友達が龍になって空にいってしまったて。仲間達も怒りたかったのに怒る相手もいなくなって」
外から響く雨の音が強くなる。
雨粒がザーザーと窓をたたきつける。
「そうか」
女性の声は淡々としていた
「そうなのか」
それはどこか痛みを自覚したかのような声だった。
「龍からしたら、どうでもいい」
「女の人からしたら?」
「多分…勝手に幸せになっていてくれた方が楽だ」
「幸せになっても、ずっと寂しいままかもしれません」
「そうか‥‥少し思い出したことがある」
「なんですか?」
「あぁ。女はな、実は引っ込み思案というか、ひかえめな性格で料理が得意なやつだったんだ。役割的には殴れるヒーラーだという」
「殴れるヒーラー」
一見矛盾しているようだ。
宿に来る冒険者達にいるヒーラーは杖を持っていることが多いのだ。
話に聞けば、基本的には後ろにいて仲間達を回復させるのだとか。
「女が料理を作るたびに仲間達は喜んでいた。うまいうまいと食べてくれていた。ひねくれた人間も怒りっぽいやつも彼女の料理の前では素直に食べていた」
「‥‥」
「女は嬉しかったのかもな。仲間達の嬉しそうさな顔を見て嬉しかったんだと思う」
『うまい!!』
「そして、一人の男がおいしそうに食べる顔も女にとって幸せの証だったのだろう。たとえ、叶わない恋だとしても」
どこかで雷が落ちる音がした。
「女がどこかの宿屋でシチューをたくさん食べていたのも、昔の熱を取り戻したかったのかもしれないな。そして、子供により龍に罪の自覚が芽生えると」
「‥‥」
「‥‥」
沈黙が落ちる。
「まぁ、こういう話だ。創作だ創作」
女性がまるで話を打ち切るかのように口を開く。
「ふふ、もしかしたら、私は吟遊詩人にも向いているのかもな」
「あの」
「なんだ?」
「よかったら、名前を教えてください。あなたの名を呼べるように」
「アルベール」
「私はレレイです」
「そうか。今更ながらお互いの名前を知ったな」
アルベールは柔らかく微笑んだ。
翌朝
アルベールは宿を出た。
カウンターには食事代を含めた宿代とレレイへの手紙が置かれていた。
厨房には綺麗になった鍋が置かれていた。
誰にも見送られずに彼女は宿を出たのだ。
レレイへの手紙には
「世話になった。君の未来に幸がおおからんことを」という文字と薄い鱗の水色と白色の鱗のようなものがあったのだ。
硬そうに見えたそれに穴をあけペンダントにした。
そして、レレイに夢ができた。
レレイも大きくなったら町を出る。
それは出ていくのではなく、ここに戻るための料理修行のため。
(あの人がまたいつか、ここに来られるように)
アルベールがまたここにきたくなるようなシチューや料理を作れるようになろうとレレイは考えるのであった。
きらりと鱗が光った。




