【1−6】 きれいだから良いってもんじゃないでしょ
「何の人混み?」
トモカが寮に向かうと、寮の応接間の出入口が上級生たちで塞がれていた。
「すごい。イケメン」
「私、あの人のこと見たことあるわ」
「え、あのイケメンにあったことがあるの?」
イケメン、イケメンって、そんなにイケメンな人がいるの?
トモカも興味を惹かれ、人混みの隙間から覗いてみる。
「ん?」
顔は見えなかったが、その銀髪だけで誰なのか察した。その傍らには、見覚えのある若い男の姿も見える。すると、カツカツとこっちに向かって歩き出した。
「こっちに来るわ」
「みんな、道を開けて」
「どいて、どいて」
野次馬がどんどん避けていく。そして、トモカも避けようとすると。
「__トモカ」
聞き馴染みのある声で名前を呼ばれた。トモカは、声のする方へ顔を向ける。
「お嬢様、ご機嫌麗しゅう」
若い男まで挨拶してきた。一瞬でトモカにすべての視線が集まる。
なんで、ここにいるのかなー。
深海のように冷ややかな青の瞳。シルクのような銀髪を一つに束ねている。そして、何と言っても眩しいくらいに麗しい顔立ち。見紛うはずもない。
トモカの父、現ミネルヴァの当主代理であるスカルノ・ミネルヴァであった。
その後ろに控えている青年は、スカルノとは、別の見惚れるような顔立ちをしており、線が細い。暗い茶髪に、茶色の瞳。本来、目立つことのない色彩の彼は、最上級の骨格、顔のパーツを持っていた。彼は、以前スカルノに仕えていた側近の後任として、最近新たに就任したバルト・クラーセン。
「ご、ごきげんよう。お父様...」
居心地の悪いトモカ。そこから、さらに拍車がかかる。
「あの黒髪の子、ミネルヴァじゃない?」
「お父様ってことは、あの人、ミネルヴァ家の人?」
「えー! すごい」
周りの声がだんだんと大きくなっていく。
「部屋に案内します! 行きましょう!」
トモカが声を張り上げ、スカルノの袖を引っ張る。が、彼の歩みが早まることはなく、自分のペースで進んでいく。
「すごい美形」
「今、目が合ったわ!」
もう嫌だ。この二人に覆面を被せたい。
そして、ようやく、トモカたちは部屋にたどり着いた。トモカがドアを開け、入室を促す。
「どうぞ」
部屋に入ると、すかさずガチャリと鍵を締める。そして、トモカが防音結界を張ろうとすると、バルトが声をかけてきた。
「私がしますよ」
「ありがとう」
トモカはバルトに任せて、すぐにスカルノのもとへ行く。スカルノの対面にどかっと座る。
「それで、なんでいるの? お父様」
「実は、二週間後にミラナの子の生誕パーティーが開かれることになった。参加するぞ」
ミラナは、スカルノの妹である。彼女は、少し国を挟んだ技術発展国・ウォーラルトに嫁いだ。そして、先日、第二子を出産したらしい。
「はい……」
「……」
「……で?」
「以上だ」
「なんで来たの? 水晶でも手紙でも人でも良かったじゃない」
「その水晶は、どこにあるんだ?」
「……え? あ」
そういえば、少し前に粉砕したんだった。
「壊しました。なので、新しいのください」
「あぁ。今日の夜に送る。それと、最近、ミネルヴァ宛ての手紙が何通か紛失している。だから、直に伝えに来た」
「とっても重要なことをサラリと言うのね」
「大方、犯人の検討はついている。だから、少しの間、手紙でのやり取りは控える」
「鳥は?」
「まだ未然だが、鳥も狙われるようになるかもしれないから、控えろ」
「はい」
「それでは」
スカルノが立ち上がる。
お父様に聞きたいことあるんだった!
「ちょっと……待っ……くれる?」
「なんだ?」
「えーと」
私って婚外子? は終わってる。もうちょっとオブラートに。
「お父様って結婚したことある?」
「……」
スカルノがこちらをじっと見つめてくる。
うーん。なんか違う気がする。
「……」
「お前の母親と結婚したから、お前がいるんだが。何を言っている?」
「あ、ううん。今日、友達とどんな人と結婚したいとか、新婚旅行とかの話になって、そういえばお父様たちはどうだったのかなって。聞き方、おかしかった?」
「……まあいい。では、二週間後に、帰って来い。馬車を用意しておく」
「わかった……」
バルトが結界を解除し、ドアを開ける。
「あ、待って! その前に!」
時すでに遅し。二人は、部屋の外に出た。
「出てきたわ」
「え、すごい」
「神が造ったと言っても過言じゃない」
トモカの部屋の前で待機していた野次馬が、また騒ぎ出す。
「トモカ、見送らないのか?」
スカルノが尋ねてくる。
「もう一人で帰ってよ! さようなら!」
ドアを閉めようとすると、スカルノが足を挟んできた。
「げっ……」
「スカルノ様……」
「客人には礼儀正しくしろと言っているはずだが」
マフィア顔負けの目力でトモカを見てくる。だが、娘に通用するわけもなく、トモカはスカルノの足をゲシゲシと蹴る。高級な服を蹴りつけられる遠慮のなさは、親子ゆえのものだろう。
「お嬢様……スカルノ様のお召し物が……」
バルトの言葉など、トモカの耳には入ってこない。
「そこにいる人たちが出口まで案内してくれるわよー!」
スカルノは、一旦、足を抜いてドアに手を挟み、野次馬の方へ向く。それだけで、野次馬は静まり返った。
「エントランスまで案内してくれるか?」
「「きゃーー!!!」」
野次馬たちは我先にと一斉に名乗りを上げた。トモカの目論見は、見事失敗に終わった。結局、最後まで騒ぎは収まらず、トモカは諦めて、二人を学園の外まで見送ることとなった。




