【3−7】 まさかの男二人ですって!?
トモカと付き添いのレナが、馬車から降りる。外は、もうすぐで日が暮れてしまいそうだった。
「じゃあ、行ってきます。帰りは、ユリカたちと同じ馬車に乗るから、迎えに来なくていいよ」
「はい。わかりました」
御者は、深く一礼した。
「では、参りましょうか。トモカお嬢様」
「えぇ、行きましょう」
* * *
「タウノ兄ちゃん、俺、飴が欲しい」
茶髪の少年が足をプラプラさせて、タウノを見る。
「飴か……クッキーならあるかもしれないが……」
「にいに、私、魔法の杖がほしい」
そして、淡い色の髪を二つにくくっている少女は、タウノの袖を引っ張る。
「それは、もう少し大きくなってからだ」
タウノの弟妹は双子であり、タウノと歳が離れている。そのため、双子のかまってモードに突入すると、タウノは、体を二つに分けたくなるらしい。
「でも、丁度良かったわ。本邸に行く日とお祭りの日が被って。ねぇ、リンくん」
「はい。わざわざ馬車に乗せてくださって、ありがとうございます」
マキネン一家は、花火大会に行くのではなく、街の中心部にある本邸に用事があるそうだ。そして、そのついでに、凛を街まで連れて行ってくれている。
「彼女さんとデートでしょう? 楽しみね」
「は、はい」
「いいわねぇ。でも、はぐれないようにしっかり手をつなぐのよ。人混みに揉まれたら、あっという間に見失っちゃうんだから」
「は、はい」
そんな事になったら、トモカがすぐに魔力探知をかけそうだな。
「ジェーンさんたちは、お祭りに行かないんですか?」
「えぇ。私たちは、本邸から花火を眺めるわ。賑やかさは足りないけど、みんなで見れるから、十分よ」
「それもいいですね。家族だけの時間で」
「そうね。でも、タウノは少し寂しいかしら」
ジェーンは、頬に手を当てる。
「何が?」
タウノは、ジェーンの方を向いた。
「今日は、同年代の男の子がいないから、またルニーちゃんたちに遊ばれちゃうんじゃない?」
タウノの顔は、またたく間に真っ青になった。
「……うっわ、じゃあ、ずっと鬼ごっこかよ」
「そんなに嫌なの? まだ慣れないの?」
「な・ん・で・男の俺が、女みたいな化粧したり、ひらひらのドレス着させられるんだよ!」
「お、おぉ……」
凛には、事情がよくわからない。ただとりあえず、タウノが、一族の女の子たちに着せ替え人形にされるのだということだけは理解した。
「チッ」
タウノが舌打ちをした。
「ちっ」
「ちっ」
すると、双子も真似をした。
「あ、コラ。舌打ちなんてしちゃ駄目よ。もう、タウノ」
「ちっちっ」
「ちっ」
ジェーンが注意するが、双子はケラケラと笑い出した。
「……」
タウノは、なんとも言えない顔をしていた。すると、凛がふと思いついたように口を開く。
「君たち、こんな話知ってるかな?」
「なに?」
「とあるクモの話だ。そのクモは、とても大きな体をしていて、鳥を食べるんだ」
「へぇー」
双子は、すっかり凛の話に食いついている。
「ある日、森で狩りをしている男がいたんだ。そして、彼は猟銃の先をウサギに向けた。完璧に狙いを定めたーー」
凛は、少しだけ声を落とした。
「しかし、男はウサギを逃してしまった」
「えー」
「もう日が暮れるので、男は渋々、森の出口に向かっていた。だけど、男は、ウサギを獲れなかったことに腹を立てていた」
そして、凛はタウノを見る。
「そして……」
「……?」
「『チッ』と舌打ちをした」
「……!」
双子がピタリと動きを止める。
「すると、後ろから突然、大きな影が男に覆いかぶさった」
「えっ」
「男は、驚いてそれに銃口を向けて、引き金を弾いた。乾いた銃声とともに、その影は、男から剥がれた」
双子が固唾を飲んで凛の話を聞いている。
「その影の正体はーー大きな、大きなクモだった」
「ひっ……」
「そのクモは、普段、鳥を捕まえて食べている。しかし、男の舌打ちが鳥の鳴き声に似ていたのだろう。クモは、大きな獲物を捕まえようとしていたんだ」
凛はニコリと笑う。
「それから、男は、もう二度と舌打ちをしないと心に決めたのだった。おしまい」
「……」
タウノとジェーンは、感心したように凛を見る。対して、双子はタウノにしがみついていた。
「じゃあ、俺もいつかはそのクモに襲われるのか。恐ろしいなぁ」
タウノがわざとらしく震える。
「え? 兄ちゃん、倒せないの?」
「俺は、銃なんて持ってないしなぁ」
「にいに、守ってくれないの?」
「お前たちのために、クモのご飯になったら、守れるかもなぁ」
「……」
双子は、両手で口を塞いだ。
「もうしない」
「魔法の杖もらって、にいにより強くなるまでしない」
「なんでそんなに、魔法の杖にこだわるんだ……」
タウノは、心底不思議そうな顔をした。
すると、ジェーンがひっそりと凛に囁く。
「お話上手ね」
「まぁ、俺の地域に伝わる伝承ですけど」
「お兄ちゃんとして、満点な対応よ」
「ありがとうございます」
すると、馬車が止まった。
「あら、もう着いちゃった。凛くん、帰る時は」
「赤の屋敷ですよね」
「そうそう。彼女さん、この国の人なら、知ってると思うから」
「わかりました。ありがとうございました」
「楽しんでねー」
「「リンくん、ばいばーい」」
「また、後でな」
そして、凛は馬車を降りた。
「よし、行くか」
凛は、トモカとの待ち合わせ場所へ向かった。
* * *
「ねぇ、レナ」
「はい」
「私、浮かれすぎ? まだ時間までかなりあるよね」
「遅刻するよりいいですよ」
「だんだん人も増えてきたし、凛くん、迷子になってないといいけど」
「時間を過ぎてもこなかったら、魔力探知をかければいいのです」
「も、もし、凛くんナンパされてたら」
「お嬢様?」
「……」
もう魔力探知かけようかな。
トモカがそんなことを考えていると、レナが何かを見つけたようだ。
「お嬢様、あちらを」
「え? 何?」
レナが指差す方には、背の高い男二人。そして、それに挟まれた凛がいた。
「り、凛くん……」
トモカは、愕然とした。




