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静かな蒼月、その瞳の先に  作者: 色炉
学園生活開始
2/3

【1−2】 名前を呼ぶ許可

入学式も終わり、午後からはフリーとなる学生たち。教室で駄弁っても良し、自室で勉強しても良し、食堂でランチをしても良し、学園の外に出るも良し。そんな中、食堂で黒髪の少年はミートパスタを注文している。

結局、入学式で見つけられなかったなー。

賑やかな食堂でひとりぽつんとミートパスタを頬張っている少年。蒼い黒髪を短髪に、瞳の色は黒に__見える。しかし、その目を近くで見るとカラーコンタクトだと分かる。その下には、黄金の色彩を持つ瞳がある。

海のような青の瞳、誰にでも分け隔てなく接する優しい人。やっぱり俺には高嶺の花だよな。

と物思いにふけっているこの少年。彼は、光柱凛こうちゅう りん。今年度、この学園に入学した新入生。ここから遥か東にある島国・龍玉国から、この学園にやってきた理由は彼の憧れの兄の母校であるから。そう、理由はこれだけ。だが、仮にもここは魔法都市の名門校。もちろん魔法だけでなく、一般教養、あらゆる資格のための勉強、そして、世界の大物との伝手づくりなどなど、得られるものが無いなんてことはありえないのである。幼い頃から、優秀な兄を手本として、育ってきた彼は、兄の背を追い、学園に入学することができた。しかし、今、そんな凛の頭の中は、ある少女のことでいっぱいである。

「そういえば、ミネルヴァ家が今年、2人もいるんでしょ?」

「え!あぁ、私見たよ。黒い子と白い子でしょ。どっちも顔面可愛すぎて、めっちゃ可愛かった」

「語彙力、大丈夫?」

どこでも話題に出てくるその人。


トモカ・ミネルヴァ


かの有名な御三家の家の人間だと聞いたときは、自分のような凡人が視界に入るだけで、機嫌が悪くなってしまうのではないかという勝手な負のイメージを抱いていたが、入試の二次試験で出会い、明るくて朗らかでおしゃべりな彼女に一目惚れしてしまった。そして、前回ぶりに会えるかと期待していたが、学園の敷地は大きすぎるし、同じクラスでもないため、見つけることすらできなかった。

「まあ、そのうちすれ違うくらいは...」

艷やかな長い黒髪に青い目。今まで出会ったことのない色彩は、すぐに目に入ってくるだろう。

「ていうか、このパスタすごく美味しい。デザートも食べたくなってきた」

凛は、デザートにプリンとワッフルを注文した。そして、席に帰ってくると、いつのまにか銀髪の女性が目の前でパンケーキを食べていた。そして、こちらに視線を向けて、手を止める。

「...失礼。相席、いいかな?」

「あ、はい...」

急に知らない人と相席なんて気まずい。しかも、生徒じゃない人とだ。そして、この人、大変麗しい容姿をお持ちである。銀髪を肩まで揃え、落ち着いた碧の瞳で熱心にパンケーキを見つめている。当然、周りの視線が集まってくる。

怖い。この人、誰なんだ...。聞いてみる、か?

「パンケーキ美味しそうですね...ブルーベリーですか?」

「んむ...。そう、ブルーベリーパンケーキよ。相変わらず、美味しいの。君のワッフルも私のお気に入りだよ」

「そうなんですね!...相変わらず...。よくここに来るんですか?」

「まぁ、私、卒業生だからね」

「そうなんですね。今日は、誰かの入学式に?」

「それもあるけど、メインは仕事。あと少しで、戻らなくてはいけないの」

「あ、忙しいのに、話しかけてしまってすみません」

「全く構わない。私から、接触を試みたつもりだからね。リンくん」

突然、名前を呼ばれ、身がこわばる。女性は、空になった皿の上にフォークとナイフを置き、口元をテーブルナプキンで拭う。

「え...?」

「君のお兄さん、コウチュウシンとは、知り合いでね。弟を偶にでいいからみてやってと頼まれているの」

「き、聞いてない...」

「私も昨日初めて聞いたよ。そういうところも相変わらず...じゃないの?私の前では、彼はそういう感じなのだが」

「いえ、俺の前でもそういう感じです」

「そうか...では、時間なのでお先に失礼するよ。リンくん」

「あの、お名前は...?」

「あまり声に出したくないの。すぐにわかるよ。じゃあね」

女性はツカツカと立ち去ってしまった。

「えぇー...」

すぐにわかるってなんで?謎すぎるああいうのをミステリアスというのか。

「ねぇねぇ」

すると、誰かに後ろから肩をチョンチョンと突かれた。振り向くと、そこにいたのは、彼の想い人だった。


*    *    *


時は、少し遡り、トモカは学校探索の前に腹ごしらえをしようと食堂へ向かった。

「いい香りー。どうしよう、食べすぎないように、ドルチェにしようかな...」

食堂の手前、廊下からも食欲がそそられる香りが漂ってくる。

「いや、やっぱり、ガッツリオムライス...。ん、あれは...」

食堂の人たちがとある2人に視線をチラチラと送っている。その2人とは。

「エレナと...光柱くんだ!」

銀髪の麗しい女性は、トモカの従姉妹、ユリカの姉であるエレナ・ミネルヴァ。その向かい、私に背を向けている黒髪の学生は、光柱凛。実は、トモカが気になっている男子である。話しかけたい衝動に駆られたが、一旦落ち着くトモカ。

なんでエレナが、光柱くんと一緒にいるの?2人のどこに接点があるの?でも、それがないなら、もしや、エレナの仕事の1つが光柱くん...いやでも、光柱くん、龍玉国の一般人で別にスパイとか怪しいことはやってないし。...護衛?何者かに狙われているの?光柱くーん!?

エレナは、この学園の卒業生であり、在学中はどの分野においても首席となる超エリートな学生だった。今は、とある学院の魔法研究員であるが、ミネルヴァ家では、「裏」。影を担うもの。主に密偵を任されている。その手腕は、完璧と言っても過言ではない。時折、トモカやユリカのお守りもしている。

「わからない。近づいても良いのかな...?」

扉の影から少し顔を覗かせると、エレナと一瞬目があった。が、特に何も合図はなかったので、機密事項を話しているわけではないらしい。

「え。余計に気になるじゃん!」

私が食堂に入ると、エレナはそそくさと去ってしまった。そして、私は光柱くんのもとへ向かい、肩をトントンと叩いた。

「ねぇねぇ」


*    *    *


「み、ミネルヴァさん。久しぶり」

振り返った光柱くんは少し驚いたようだ。

「久しぶり、光柱くん。ランチ中?ワッフルだ!美味しそうだね」

率直に聞くのもいいけど、探りを入れてみよう。

トモカは、目をルンルンにしながら、尋ねてみる。

「そういえば、さっき銀髪美女と一緒にいなかった?知り合い?」

「いや、さっき初めて会った。兄さんの知り合いらしい。で、名前を聞こうとしたんだけど、すぐわかるって言って行ってしまって...」

エレナ、なんでもお見通しね。わざわざ彼と話す機会を設けてくるなんて。

「あの人は、この学園の卒業生で、今は魔法研究の仕事をしているエレナ・ミネルヴァ」

トモカが淡々と紹介する。

「エレナ・ミネルヴァ?!え、親戚だったの?!」

凛は、目を見開いて、トモカを見る。

「うん。私の従姉妹だよ。いつ見ても惚れ惚れするほど綺麗だよねー」

「そうだね...いや、ちょっと!」

「何?」

「あまりにもあの人誰?みたいな雰囲気で話しかけてくるから」

「あの人誰?なんて一言も言ってないもの」

「騙されたー。声のトーンがそれだったのに...」

「あはは!ごめんごめん」

仲良く喋る2人は、お似合いだと言われそうな雰囲気だが、周りの目は、そんな優しいものではなかった。

「ミネルヴァさんと一緒にいる男子、誰?」

「私のクラスにいないわ」

「じゃあ、下のクラスってこと?」

「ミネルヴァさんも物好きね。顔が良ければ誰でも良いのかしら」

冷ややかな笑いと視線を向けられた凛は、少し身を縮めてしまう。

ミネルヴァさんが誰といようが勝手なことなのに、周りは常に評価してくる。ミネルヴァさんの評判が落ちないように、俺は、離れたほうがいいのだろうか。

凛は、トモカの方を見ると、動揺した。普段の笑顔は、微塵もなく深い青の瞳がただ冷たく虚空を見つめているのだ。

「...もう行きましょう」

「え?」

トモカの氷のような顔は、瞬く間に柔らかな顔になった。

「これから、学校探索するの。一緒にどう?」

俺と一緒に...。

凛は、黙り込んでしまう。

「やっぱり私と一緒は嫌?」

「嫌じゃないよ」

凛は、途端に出た言葉に自分でも驚いている。すると、トモカの笑顔は更に明るく温かくなった。

「じゃあ、行こーう!」

凛は、トモカに手を引っ張られ食堂から出る。廊下を少し進むと、トモカが口を開いた。

「そんなに考えなくてもいいよ。まあ、君が気にするなら、無理して一緒にいなくていいから」

トモカは、どこか寂しさを漂わせながら、そんな悲しいことを言う。

「気にしない。でも、ミネルヴァさんの評判が落ちてしまったら...」

トモカは、足を止める。

「評判?」

「俺みたいな名もない家の出が、ミネルヴァさんと一緒だと...さっきみたいに」

「あの人たちは、自分の身分を誇示して人を蔑むことでしか自分が上位にいれないと思ってるの。愚か者よ。実力に見合わないものを手に入れようと必死なの。でも、全員がそんなわけじゃない。あんなのはほんのごくわずか」

凛の方へ振り返ったトモカは、鼻で笑っていた。

「私は、身分とか全然気にしない。当たり前でしょ、私たち、ただの人だもの。すごいのは、おばあさまやお父様。私何もしてないわ」

トモカの青い目はしっかりと凛を捉える。

「それに___。ミネルヴァは格式高い家なんかじゃない」

トモカは水を作り、扇子を型取り、無数の水滴を空中に漂わせる。

「規則に囚われることなく、自分で決めていくの」

扇子を開いた瞬間、水滴が魚に、海獣に変わり、回り始めた。凛は、息を呑んだ。一瞬で、彼女の世界に引き込まれた。すると、パチンと指を弾く音と共に水は消えていった。

「おばあさまが直々に言ってたんだから」

最後に微笑むトモカを見て、凛は、再びこう思った。

「...かわいい」

「え?」

トモカが固まり、顔が赤く染まっていく。

「ぁ」

「あ...」

そして、凛もハッとして、焦り出す。

「...これは!その!」

いきなり、男からのかわいいなんて、気持ち悪いだろうか?

「かわいい!でしょ!か、海獣!」

私ってば、動揺しちゃったー!顔も真っ赤だし、これは、苦しいか!

「そ、そう!とても精巧で...。俺、アザラシ好きなんだ!」

「それは、ヨカッタ!」

イントネーションがおかしくなったトモカと視線がまとまらない凛の気まずい時間が流れていく。何分経っただろう。そこで、先に口を開いたのは、トモカだった。

「あ!私、部屋でまだすることがあったんだ!じゃあね、光柱くん!」

トモカは体をUターンさせ、逃げ出す姿勢を取る。が、何故か素早く凛に腕を掴まれる。

「え?」

「...な、名前。凛でいいよ」

トモカの頭は、もうパンク寸前。

「あ、はい...さよならー!」

そして、トモカは風のように消えていった。


*    *    *


その夜、トモカの部屋。

「名前呼び許可もらっちゃった...」

凛くん。凛...。

「わあ~」

今日のあの瞬間を思い出し、いくら経っても心臓が鳴り止まず、ベッドの上でジタバタしていると、枕元の水晶玉が落下。そして、バリンッ。

「...やば」

一気に我に返ったトモカは、水晶玉の欠片を集めて、眠ることにした。


一方、同時刻、凛の部屋。

眠れない。俺は、そんななんであんなことを。

「うぅぅ」

布団を被り、悶えている凛。

「うるさい」

同室の苦情とともに向かいのベッドからクッションがとんでくる。

「すんません」

いや、でも、眠れないー!


こうして、夜も明け、初授業の日がやってきた。

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