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静かな蒼月、その瞳の先に  作者: 色炉
学園生活開始
1/3

【1−1】 湧水のミネルヴァ、無事入学

遥か昔、魔法は人の手に触れてよいものではなかった。

それは、空に在り、森に在り、海に在り、世界そのものだった。

しかし、ある時。天を裂き、大地を砕くほどの竜同士の大戦が起こった。

その戦いの果てに、大地は深く傷つき、世界に大いなる亀裂が走った。

そして、その裂け目からひとすじの水が溢れ出した。それは、水の形をなした世界の魔力、世界の血潮だった。

それは、泉となり、川となり、ついに人の目に見える形で世界に現れた。

人はそれを畏れながらも、我が物にしようとした。多くは、魔力に呑まれ、命を落とした。

だが、それを勝ち取った者たちがいた。

湧水を従えし者。

火光を掲げし者。

花樹を統べし者。

彼らこそ、後に語り継がれる魔法士御三家の始祖である。

「お母さん、髪結ってー」

「ほら、おいで」

少女が母親の膝にちょこんと乗る。

「緊張してるの?」

「...してないよ?」

母親の問いに首を傾げる少女。

「大丈夫よ。きっとうまくやっていけるわ」

「ねぇね、どこいくの?」

少女の弟が勢いよく抱きついてきた。

「どこにもいかないよ...」

弟の頬をもちもちとこねていると、少女は思い出す。

___今日は、入学式だ。

そこで、夢は途切れてしまった。


ピピッピピッ


目覚ましの音でパチっと目が覚める。目覚まし時計のアラームを止め、部屋はしんっと静まり返る。カーテンを開け、日差しを浴びる。明るい光が目を刺激する。今日は、学園生活の始まり。新しい出会い。新しい教室。かけがえのない人生のイベントの一つ。

私は、すぐに部屋から出て、一階のリビングへ降りる。メイドたちが用意してくれた朝ごはん、制服。今まで通り変わらない朝の身支度を済ませ、玄関へ向かう。私は、姿見の前に立ち、今日のコンディションを確認。

「緊張...なんてしてないし!」

そう自分に言い聞かせると、メイドの1人からお小言が飛んできた。

「お嬢様、時間に余裕はありませんよ!」

独り言のつもりだったのだが、思ったより大きな声が出ていたようだ。

「わかったー。いってきまーす」

玄関のドアを開けると、ミネルヴァ家お抱えの運転手が待機していた。

「予定通りです。お嬢様」

「今日は、よろしくね」

馬車には、今日付き添うメイドが1人と私だけ。ガタガタと揺られながら、学校へと向かう。そして、途中から景色は変わる。途切れた道の先から空へ飛び立つのだ。

「どうして、式の日は馬車で登校?」

「お嬢様、毎度申しております。これが学園の規則です」

「毎度、答えてくれてありがとう...ねぇ、新しい友達とかできるかなぁ、クラスに馴染めるかなぁ、寮生活、何日続けられるかなぁ...」

「落ち着いてください。いつもの能天気さはどうしましたか?」

「いや、小・中は一貫校だったから、新しい顔ぶれ見るほうが珍しかったじゃん。でも、高校だよ?先輩の顔見知りとかもういないよ...」

「知り合いゼロではないのだから、いいじゃありませんか。ご友人3名とユリカ様もいらっしゃいます。あと、顔見知りが1人」

「...余計なことを思い出させないでよ!せっかく忘れてたのにー!」

「文句が多いことで。...もうそろそろ着くそうです」

「まだ2往復したい」

「私は、お嬢様の荷物を部屋に運ばなければなりません。ので、一旦お別れです」

「え?教室まで来てくれないの?」

「はい。どうせ、馬車から出たら、駄々こねられないんですから、私がいようがいまいが同じです。途中でユリカ様でも見つけることを提案します。ほら、着きましたよ」

馬車の窓からでも存在感を感じる。気高く、厳かで美しい門。それは、とてつもなく大きく両脇に騎士の彫刻を携えている。ハーレースリス学園。魔法都市アルヴィッセンハイト。魔法が日常に溶け込むジェンセンルドール国の首都にある全寮制の名門校である。

「む...無理」

「ほら、お手をどうぞ、お嬢様」

「うぅ...」

先に降りたメイドの手を取り、馬車から片足を出すだけで、空気が変わった。そこには、先程まで駄々をこねていた少女はいない。いるのは、涼やかで高貴な雰囲気をまとった令嬢だ。背筋を伸ばし、スカートを整える。人々の目を引くような可憐な容姿。赤みがかる長い黒髪と深い青の目。みなの視線がただその1人に集まる。ミネルヴァ__湧水の名を冠する魔法士御三家のひとつ。トモカ・ミネルヴァ。私の名前である。

「では、後ほど」

メイドはお辞儀をし、馬車に乗って寮の方へ向かっていった。


そして優雅に歩き出したが、内心焦りまくりな私は、即魔力探知をかける。

四分の一の範囲で!ここらへんでいいから誰かいないの__!

と、心の中で大騒ぎな私が見つけたのは、ユリカだった。しかも叔母様までいる。

「いた...!ユ」

「奇遇だな。トモカ」

見上げると、そこにいる。私の行く手を遮る大きな影その正体は...。

「ザ、ザイン...ごきげんよう...」

ザイン・ステルランド。同じく御三家のひとつ、ステルランド__火光の名を冠する。深い赤茶の髪を整え、濁りのない琥珀の瞳を持つ。筋肉質な体に彫刻みたいに整ってる顔。いわゆる正統派イケメンである。

「...入試の時に見かけたが、挨拶できなくて」

私はこいつが苦手である。いや、もう嫌いのほうが良いかもしれない。振る舞いにしろ、魔法にしろ、何かしら私の感性に爪を立ててくるような。彼は何もしていないが、私の癪に触る。これが一生、合わない人種なのだろう。

「あら、そうなの。私、急いでるの。さようなら」

「クラス同じだったぞ。Sクラス。一緒に行かね?」

「あいにく友人と待ち合わせてるの」

は・や・く退いてよ!

沸点へと上がっていく私のイライラ度。せっかくの晴れ舞台の初日からヘマはできない。

「おや、トモカにザインじゃないか。入試ぶりだね」

私のもとへ現れた救世主は、フィーズ・セルノー。ミルクティーブロンドの髪を少し伸ばし、グレーがかった青の瞳。その容姿は、まるで王子様を連想させるほどの美丈夫。帝国貴族の出身で、私の憎き愛しきライバルである。

「フィーズ!久しぶり」

「セルノー、久しぶり!」

彼は、私の顔色をうかがうなり、何かを感じ取り、ガシッとザインの肩に腕を回した。

「そういえば、君と話したいことがあるんだった」

「え?」

「男同士の話さ。トモカはご遠慮だ」

「あら、それはそれは、大切なことだわ。私に構わず、どうぞ」

私は、手をひらひらと振る。

「あぁ。あっちで話そう、ザイン」

「え?じゃあな、トモカ。話ってなんだよ、フィーズ」

戸惑うザイン。

「...令嬢様が嫌がってんのがわかんないのか」

「は?」

「些細なことに気付けないと、嫌われるぞ。お前」

「トモカのこと、わかったような口振りだな」

「そんなことないさ。ただ女性は丁重に扱うのが、貴族の嗜みさ」

「...」

「ほら、行こうぜ。Sクラス」

そのまま、2人は教室へ向かった。


*    *    *


助かった。初めてセルノーに心から感謝したかもしれない。

「これで貸しひとつとかいわれたらどうしよう...。まぁ、いいや。ユリカー!」

「トモカ!」

長い銀髪を腰まで伸ばし、クリスタルの髪飾りをつけている。その中で輝く碧の瞳。愛らしい顔立ち。彼女は、トモカの従姉妹であるユリカ・ミネルヴァ。

「トモカは、Sクラスよね?私はAクラスー」

「そうなんだ。同じクラスがよかったなー。叔母様もこんにちはー」

「トモカちゃんは、Sなのね。相変わらずすごいわ。でも、Sクラスってピリピリしてるわよね?」

「いや...まだクラス全員の名前知らないし、顔も見れてないから、そんな重い空気なクラスかはわからないよ」

ユリカの母、つまりトモカの叔母に当たるこの人は、マリー・ミネルヴァ。彼女は、ハーレースリス学園の卒業生であり、在学中ずっとSクラスであった。そんな彼女の在学中のクラスの雰囲気は、常にピリピリと殺気立っており、みな、自分を磨き上げ他人を蹴落とすのに必死な向上心に長けたクラスだったという。

「あと、セルノーとかいるし...。ザインも...。もう厳しい時代じゃないかもね」

「そうよね。他人を蹴落とすのが趣味とか最低なやつだものね。流石に教育方針の1つや2つ変わってるわよね」

「そうそう」

他愛ない会話をしていると、放送が流れた。

『新入生は、各自教室に向かってください。繰り返します。新入生は、各自教室に向かってください』

「もう行かなきゃ」

「じゃあ、ママは先に式場に行ってるわ。ユリカちゃん」

「うん。後でね」

叔母様は、去っていった。

「トモカ、この後、一緒に外食行く?」

「いや、私は遠慮しとく。部屋の片付けしたいから」

「そう。じゃあ、式でね」

「うん、またねー」

私達は、急ぎ足で教室に向かった。


*    *    *


トモカ、遅いな...。初日から、遅刻は目立ちすぎだろ。と、トモカの席をぼんやり眺めるフィーズ・セルノー。集合時間まで、あと10秒、9、8、7...廊下に足音が響いてきた。明らかに足の回転が早いので、トモカであろう。4、3...トモカが教室のドアの前に姿を表した。そして、ゴール!とともに鳴る予鈴。

「...せ、セーフ」

肩を揺らしながら、ただ1つあいている席へ向かうトモカ。クラス全員の視線を集める。ミネルヴァのお嬢様が入学式から遅刻するとは。なんという失態だろう。フィーズは、近々訪れる未来を想像した。きっと、この件で悪目立ちしたトモカは、なんで新学期早々、目立ってしまったの?!まだ、何もしてないのに!と俺に向かって愚痴るのだ。そして、教壇に立っていた教員は、名簿に印をつけた。

「これで、全員揃いました。では、式場に向かいましょう。席順は、出席番号順です」

みんなは、ガタガタと席から立ち、式場へと校舎を渡っていった。そして、トモカはフィーズの元へやってきて、一言。

「絶対目立ったよー...」

「...そうだな」

ほんとにこいつ、見るだけだと面白いんだよなー。フィーズが秘めた一言。何かを検知したのかフィーズを睨みつけるトモカ。そんな情景が入場するまで続いた。


式が始まると、学園長の式辞。在校生代表、生徒会長の挨拶。そして、新入生代表、ザイン・ステルランドの挨拶。何事もなく淡々と進み、式は終りを迎えた。その後は、解散なので、各自自由に移動していた。そこで、トモカが耳にしたのは、先輩方のこんなお話。

「今年の入学生、御三家が3人も来るらしい」

「まじで?」

「1人は確定。だって、先輩の弟が来るんだから」

「代表挨拶してたしな...。他2人は?」

「噂だと、他の2家が入ってくるとか...」

「三つ巴が始まるのか...!」

「やばすぎ...」

トモカは、思った。絶対この人たち、Cクラスのぼんくらだなと。そして、少し苛立っていた。モヤモヤをしっかり抱えて、周囲のことになど気にせず、まっすぐに寮の自室へと向かう。ドアを閉め、ベッドにダイブ。大きく息を吸って、

「三つ巴って何よ!そんなバチバチしてないし!御三家はそんな仲悪くないし、私がアイツのこと嫌ってるだけだし。あと、ナーゴインドは、同世代誰もいないし!どこ情報よ!変な噂流さないでよ!もう!」

一息で不満を吐き散らかす。

そして、スッキリしたので、ぼーっとベッドの天蓋を眺め始める。すると、自分に時間が有り余っていることを思い出した。

「やっぱりユリカについていけばよかった」

今頃、ビュッフェ。いいなー。おなか空いたなあ。

そんなことをぼやくと、一つ提案を思いついたので学校探索をすることにしたトモカだった。



最後まで目を通していただきありがとうございます。空いた時間に書いてるので不定期更新です。

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