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静かな蒼月、その瞳の先に  作者: 色炉
学園生活開始
3/3

【1ー3】嵐の前に甘いもの

「アイリス・オクベスタ」

その名前は、ジェンセンドール国内で知れ渡っている。王太子妃候補のひとりでもあり、この国の十大貴族と呼ばれる権力者を父に持つ、令嬢である。誰もが見惚れる顔立ちに、ブロンドの輝く髪。魔法だって、凡人の比ではない。何もかも完璧である。


私が歩けば、みんな振り返る。


私が笑えば、みんな喜ぶ。


私が涙を流せば、みんな慰めの言葉をかけてくれる。


だって、私はすべて持ってるから。美しい容姿に、立派な家門。欲しいものはすべて手にはいる。なのに、なんで、あなたが私より目立つのよ!


心地よい晴天を迎えた授業初日。教室に入ると、黒髪の彼女はもう席に着いていた。男子も女子も彼女を見ている。

「おはよう。ミネルヴァさん」

「おはよう。オクベスタさん」

黒い髪に青い瞳。高貴で涼しげな雰囲気を纏っている。それなのに、親しみやすい笑顔。___その笑顔が腹立たしい。心の奥で呟いた。

あぁ__気に入らない。

「まあ、くまができてるわ。昨日は、よく眠れなかったの?」

「えぇ、そうなの。昨日、少し色々あって」

「今日は、早速、成績に関わる模擬試験ですのに。寝不足なんて大丈夫ですの?」

寝不足は、魔力にだって、集中力にだって、影響が出る。この調子では、この人の結果は、私と格段に差が出るのではないだろうか。

アイリスが内心、ほくそ笑んでいると、トモカはわざとらしくため息をついた。

「...確かに、万全ではないけど」

深い青の瞳がこちらを捉える。

「もちろん全力で挑むわよ」

思わず引き込まれそうになる気迫である。一瞬だけ、水の中にいるかのように周りの音が遮断された気がした。大きな声を出しているわけでもなく、立ち上がって喋っているわけでもない。ただ、静かにアイリスを見つめただけ。アイリスは、思わず息を呑んだ。それが、トモカの類稀なる資質の1つであろう。身がこわばったアイリスは、笑顔を保ったまま、トモカの元を離れた。

「それじゃあ」

「えぇ」

なんなのよ!あれ、まるで私を...!


*    *    *


午前中のホームルームが終わり、トモカたちは体操服に着替えて、第2体育館に集まった。

「SからCまで全員揃ったので、これから模擬試験を開始する。今回の試験から、通年とは異なるものになった」

試験の目的:臨機応変に協力する能力を計る

ルール:①二人一組で試験に挑むこと

    ②使い魔を所持している者は、使い魔を召喚すること

    ③時間内に的を破壊すること

    ④的以外の障害物を破損した場合、減点とすること

生徒たちがざわつく。

「えーなにそれ」

「入試の時もだけど、どうして個人でやらせてくれないんだ!」

「SからCまで混ぜるのかな」

「それだと、CがSと組んだら、Cの成績も高くなるじゃん」

一向に静まらない生徒たちを教師が窘める。

「静かに!」

その一言で生徒たちが静まった。

「ペアはもうこちらで決めてある。5組ずつ、スクリーンに名前を出すから、名前が出たものは前に来なさい。それでは」

それから、円滑にサクサクとペアが表示されていった。そんな中、トモカはぼけーっとスクリーンを眺めていた。

あー。私、誰とペアなんだろ。凛くん...がいいな。ザインは、絶対嫌だなー。セルノーは、飽きたなー。ユリカとやってみたいかも。見栄えめっちゃ良い自信がある。

「おい」

「はい」

「早く行けよ。スクリーン見てたくせに。お前待ちだぞ」

フィーズに声をかけられ、正気に戻ったトモカは急いで前に出る。トモカは、前に凛を発見した。

「よろしくミネルヴァさん。まさかペアになるなんて」

凛が手をひらひらとし、トモカに声をかけてきた。

「凛くん...。よろしく!」

うそー。夢?現実?やった!凛くんと一緒に授業(試験)を受けれるなんて、最高。私、運良すぎじゃない?

トモカが心の中でガッツポーズを決めていると、凛は少しおどおどしていた。

「俺、足手まといかもだけど...」

「そんなことないよ。入試の時もあなたは、活躍してた。全然、足手まといじゃないよ。頑張ろ!」

足手まといだなんて、誰かに言われたのかしら。そんなことあってはならない。どうすれば、普通に過ごせるだろうか。

頭からモヤッとしたものがかかる。そんな不快感を持ち、トモカは、凛の側についた。

「はい。ペアで並んで座ってー」

教師に促されて、凛の隣に座る。

そして、トモカはさっきのモヤッと感を忘れ去り、ソワソワしていた。

わ、私からも、名前で呼んでいいよって言いたい。でも、もし今、言って気まずい空気で試験になるとか無理。まだ我慢。機会をうかがうのよ。

トモカはぐっとこらえて、凛の方を見ると、視線がバチッと合った。

「...ねぇ。トモカって名前で呼んでいい?」

「...」

今、名前呼ばれた?

「あ、ごめん。嫌だった...?」

「は!いや全然。いくらでも呼んで!」

「じゃあ、トモカ。作戦会議しよう」

「は、はい」

何この人。突拍子にも程があるでしょ。いきなり名前呼ぶなんて、心読まれたのかと思った。も、もしかして、それなりに女子と経験があるの!?考えてなかった!そうよ、みんなもう10数年生きてるのよ。お付き合いしたことがある人がいたって何も不思議じゃないわ。実際、私だって元彼いるし。

トモカの百面相が始まり、凛が面白可笑しく眺めている。

「どうした?喜怒哀楽全部かっていうぐらい、顔が。ハハハッ!」

「え!そんな変な顔してた?笑わないでよー」

幸せなひとときは、瞬く間に終わった。とうとう順番が回ってきてしまった。

「トモカ・ミネルヴァさんとコウチュウリンさん。いいですか?」

「「はい」」

「位置について。はじめ!」

トモカの影から大きなディトラスウルフが飛び出した。そして、凛は腕輪を頭上に掲げた。すると、宙にゲートが現れ、中から鷹のような鳥が滑空してきた。

「フィアナ!的だけを狙って!」

「風銀。遠くの的をすべて狩れ!」

各々が指示をすると、使い魔たちは直ぐ様自分の役目に移る。トモカのフィアナは、氷の礫を作りながら、的を撃ち、鋭い爪で的を壊していった。凛の風銀は、あっという間に遠距離に行き、翼で風刃を作り、的を壊していった。一方で、その主人たちは、その場に立ち止まっていた。が、トモカはフィールドを見渡し、ブツブツなにかを言っている。凛は目を閉じて、集中状態に入っている。

「あと8個...」

段々と少なくなっていく的の数。

「3、2、1」

フィアナが最後の位置に着いた。

「おいで!」

凛はゆっくりと息を吸う。

「王を守護するものよ。我に燃え盛る業火と疾走り鉄槌を下す雷鎚を授けん。言霊・炎電裂空!」

トモカの合図とともにフィールドには光と轟音が満ちた。しばらくすると、フィールドが見えてきた。そこに的は1つもなく、障害物でさえそのままである。

「終了。えーと、タイムは2分12秒。得点は98点」

「やったー!A判定じゃない?」

「...う、うん」

ぴょんぴょんはねているトモカとフラフラしている凛。

「障害物あと1つまで結界張れてたら満点だったぞ。すごいなお前達。教員でも真似できない芸当だった」

「ほら、先生からも褒められてるよ。凛くん」

「...うん」

「まぁ、コウチュウはしばらく安静にしとけ」

「はい...」

「次のペア。準備しろー」

トモカと凛は退場していった。


彼らを見ていたアイリスは、唖然としていた。

何よ。あれ。なんでCクラスのあの人があんなことできるのよ。聞いたことのない詠唱。

トモカと凛の試験。一番目立ったのは、凛であるが、本当に異常なのはトモカである。トモカは、フィールド上のすべての障害物と的を把握し、それを判別し減点対象の障害物のみ結界で保護。そして、それの完了と同時に高火力の攻撃で的のみを破壊。そして、言霊で行った。言霊。東の島国・龍玉国のみで使用されている魔法体系。詠唱が必須だが、精霊の力を借りて、自分の魔力の放出を極限にまで抑えて行使することができると耳にしたことがある。だが、大陸では浸透してないので、アイリスが目にしたのは初めてだった。

アイリスは、拳を握りしめる。

私だって、辛い辛い毎日を耐えてきたのに。

整えられた爪が皮膚に刺さるが、そんなことどうでもいい。

「...気に入らない」

「アイリス様を見下すようなことばかり」

「ほんとうに。まるで、自分が一番優れていると、内心、天狗になっているに違いありませんわ」

アイリスと取り巻きの令嬢たちは、陰でこそこそと何かを企んでいた。

「そうだ。噂で耳にしたことがあるのですが...」

取り巻きの1人は、アイリスの耳元で囁く。

「実は、婚外子。母親は娼婦だとか」

「私も聞いたことがありますわ」

「それと_____とか」

「...やっぱり、腐ってるんだわ。トモカ・ミネルヴァ」

アイリスはにやりと笑った。


*    *    *


試験終了後の放課後。トモカは購買に寄っていた。

フィアナのご褒美おやつ。家に忘れてきちゃったから買おうと思ったのに見つからない。でも、今日、あげたいのに。

「うーん」

「探しているものは、こちらですか?」

「え!あった。それです...。ユリカ」

目線を合わせると、そこにいたのは、まるで水晶を連想させる美しさを持ち合わせた従姉妹。

「お目当てのものが見つかって良かったですねー。なーんて、プレゼントだよ。フィアナちゃんに」

「ありがとう。実は家に忘れてきちゃって...今度取り寄せないと」

「うん。もうメイドさんたちが部屋に輸送してるらしいよ」

「...今?私の部屋に?」

「うん。エレナが言ってた」

「プライバシー皆無だ!有りなの?部屋の主に断りもなく、物を運び込むのは」

「いいじゃん。それで、助かってるんだから」

「そうね。贅沢ね。わがまま言わないわ」

「そ・れ・で」

ユリカがにやりと笑う。

「噂のリンくんとは、いい感じ?さっきは、すごーく息ぴったりだったね」

「でしょ。さっきので私、頭フル回転したから今日はもう魔法無理かも」

「魔力が空っぽって言わないあたり、相変わらず化物だねー」

「あの地獄の日々は無駄じゃなかった」

「小さい頃から、魔力すっからかんになるまで訓練してたもんね」

「えーほんとに、過酷だった。言霊しか使ったことないのに、魔法を使えって。何を言ってるのって感じだったもん」

あの頃、魔法は不思議なものだった。周りの力を借りずに、詠唱もなしで、何でもできてしまう。

「大変だねぇ」

「まぁ、そのおかげで今はどっちも使えちゃうけどね。ていうかユリカはなんでここに?」

「私は、自分のおやつを買いに」

ユリカの手には、スナック菓子が握られていた。

「私も買おう。このアイスおいしそー」

「外で食べよう」

「うん」

会計を済ませ、外のベンチに座る。

「おいしいねー」

「おいしいよー」

2人で菓子を食べていると、

「あっ。トモカとユリカか」

「セルノー。と凛くんやっほー」

2人のもとにやってきたのは、フィーズと凛だった。

「なんかおいしそうなの食ってる」

「ユリカは、ともかくトモカそろそろ自重した方がいいんじゃないか?」

フィーズのノンデリ発言。凛は、衝撃を受けた顔で、フィーズを見る。ユリカが声を殺して肩を揺らしている。

「私から甘いものを取り上げることなど許されないわ。大罪よ。食べた分だけ、動けばいいの。頭を使えばいいの。消化すればいいのよ」

「そうか。手間が多いな」

「好きなもの食べてるだけだろ?そんなに言うか?フィーズ」

さっきから刺々しいフィーズ。それをカバーしようとする凛。

「リンくん。これは通常運転なの。そんな気を使わなくても大丈夫」

「え、そうか」

入試のときもよく口喧嘩してたのを傍観してたけど、フィーズがなかなか酷いことを言っているとは思わなかった。凛は、喧嘩するほど仲がいいという言葉は、まさにこの人たちのためにあるのではないかと思った。

「私に嫉妬してるのー?私たちが高得点出しちゃったから。苛ついてるんですか?」

そこから、トモカが噛みついていく。

「そんなことで...というか苛ついてない!」

フィーズは、一瞬図星をつかれたような顔をしたが、すぐにトモカを睨みつけた。これで苛ついてないとは、どういうことだろうか。

「まあまあ、私の目の前で喧嘩しないで、お二人さん。トモカは、これでも食べて」

仲裁に入ったユリカは、トモカの口にグミを押し込んだ。

「フィーズくん、ブローチ光ってるわ。側近様がお呼びなんじゃない?」

「...それでは失礼する」

凛は、フィーズに腕を引っ張られる。

「え?俺も?あ、またなー」

「ばいばい。凛くん」

「ばいばーい」

フィーズと凛の背中が見えなくなった頃。

「フィーズくんってまだトモカのこと好きなの?」

「え。いやー。円満に別れたし、あいつ、もう婚約者がいるって言ってた気がする」

「そっかー。なら、今のところトモカ争奪戦は見れないのか。残念だなー」

「人の恋事情を娯楽にするな。あれ、めちゃくちゃ疲れるんだから」

「一回、言ってほしいなー。私のために争わないで!って」

「どこのお姫様よ。そんなこと一生言いたくないわよ!」

トモカがぷいっとそっぽを向く。そのすねた様子が可笑しくて、トモカとユリカは顔を見合わせ、同時に吹き出した。

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