↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
静かな蒼月、その瞳の先に  作者: 色炉
第1章 学園生活開始
12/38

【1−12】 自分を棚にあげたことって気づかないよね

会場をあとにしたトモカとスカルノは、御者にこれから戦闘になることを告げて、馬車に乗った。馬車は、だんだんと人気のないところへ進んでいく。しかし、いつまで経っても、トモカたちに向けられた殺気は消えない。御者もそれを察したのか、街道から外れ、林道へと馬車を走らせた。その瞬間。

ドォン!

という轟音とともに馬車が宙へ浮いた。爆風で馬車は吹き飛ばされる。だが、防御魔法が発動し、馬車には傷一つついていない。


馬車の中で、額をぶつけたトモカが涙目でそこを抑えている。対して、スカルノは、表情一つ変わらない。

「いたいよー。あんな浮き方、初めてだったんだけど」

「爆弾だな。出るぞ」

スカルノは馬車のドアを乱暴に蹴破る。普段、無作法を嫌う彼がこんなことをするのは、余裕がないからではない。むしろ、こっちこそ彼の本性だからである。誰もいない。ましてや、ただの刺客に礼儀正しくしたところで、ストレスが溜まるだけである。

「大丈夫か」

スカルノは、御者に短く声をかける。

「はい。ただ一頭の足が...」

二頭の馬のうち、一頭は、足から出血してしまっている。

「まだ治せる。そこで待っていろ」

スカルノは、結界を張る。そして、トモカも馬車から出てきた。ただし...優雅なドレスではなく、芋臭い体操服姿になっている。スカルノは、トモカを見て、顔をしかめる。

「...なんでそんな服持っているんだ」

呆れたようにスカルノは尋ねる。

「動きやすいでしょ?」

トモカは、きょとんと首をかしげる。そうかと、一言だけ口にするスカルノ。納得したのか、していないのか。スカルノは、それ以上言及しなかった。

「お父様、私が四人相手する」

「なら、俺は、お前の援護でもしてやろう」

「オッケー。出てきなさい!賊ども!」

もちろんそんな挑発で出てくる刺客などいない。

「じゃあ__」

トモカは、にやりと笑う。

「かくれんぼだ」



やはり、まだ子どもではないか。能天気な少女は、命を狙われている自覚がないのだろうか。父親であろう男は、一歩も動かない。かと言って、殺気を放っているわけでもない。だが、もちろん結界を張っているだろう。ならば、この少女から始末するべきだ。

そして、動こうとしたその時。突然、雨が降り出した。

雨?ちょうどいい。音が紛れる。

たった一瞬、少女から目を離すと、姿はない。そして、最後に聞いた声は。

「見ぃつけた」



トモカは、相手のみぞおちに一発。すかさず、顎にも打撃を加える。

「一人!」

男はその場に崩れ落ちた。他の三人の気配をたどると、ちょうどスカルノから等距離にいる。三人同時にスカルノに攻撃でも仕掛けるつもりだろう。それに気づいたのか、スカルノは、指をすっと空に立てる。そして、指を地面へ下ろすと三本の雷柱が大地を貫いた。トモカはたまらず、耳と目を塞ぐ。

「びっくりした...」

トモカの心臓がバクバクと鳴っている。木の陰からひょこりと出ると、スカルノを睨みつける。

「お父様、こんな近くで雷はやめてよ」

「すまない」

すると、雨が止んだ。この雨は、スカルノが作り出したものである。

「早く帰ろう」

スカルノは、怪我をした馬の治療を始める。馬の傷口は、みるみる塞がった。馬の顔色も良くなったようだ。

トモカとスカルノは、馬車に乗り、帰路へと着いた。


家に着くと、庭に人が二人転がっていた。トモカは、ぎょっと驚いたが、スカルノは、そのまま素通りする。

「え?お父様、あれ見えてる?」

「何がだ」

「人。庭で二人ものびてるよ?」

「マリーが仕留めたんだろ。これから処分するはずだ」

「そ、そう」

トモカとスカルノは、屋敷に入る。

「おかえりなさい。兄さん」

「...」

そこにいたのは、まとめられた銀髪に淡い琥珀色の目を持つ女性。その手には、何事もなかったように短剣が握られていた。

「叔母様!」

「トモカ、おかえりなさい」

表情一つ変えず、短剣を握る彼女は、ミラナ・アルドワン。スカルノとダルクの妹である。現在は、ウォーラルト国のとある医者のもとに嫁ぎ、家庭を築いている。そして、先日、第二子が産まれたばかりだ。

「なんで剣を持っている」

「先ほど、不審者が二人入ってきたので。仕留めたついでに、残りの気配は、何者かと探っていました」

「わざとだろ」

「何がですか?」

「...何でもない。何でここにいる?」

「パーティーの件ですが、ここですることにしました。今日」

「...馬鹿か?」

スカルノは、信じられないアホを見る目でミラナを見る。

「トモカ、そんな格好で王太子妃のお披露目パーティーに行ったの?」

ミラナは、トモカの体操服姿を眺める。

「いやいや、ちゃんとドレスで行ったよ。ていうか今日、ここでパーティーするの?」

トモカは、そわそわし始める。

「じゃあ、赤ちゃんいるの?ルシアもいるの?」

ルシアは、ミラナの長女である。最近、トモカのことを「ねぇね」と呼び始めたので、トモカはルシアにメロメロなのである。

「えぇ。今、お祖母様とマリーに見てもらってます」

それを聞くとトモカは、すぐさま走り去って行った。どこの部屋にいるのかすらわからないのに。そんなトモカの背を見送ると、スカルノはミラナに姿の見えない旦那の所在を尋ねる。

「旦那は?」

「会議だそうです」

スカルノは深いため息をつく。

つまり、置いていかれたのか。自分の子供の生誕パーティーが開かれるというのに。

「今頃、泣いてるんじゃないか」

「私、泣く子は一人ずつしかみれません」

スカルノは、目の前の二児の母親が強かなのか、図太いのか判断がつかない。やはり末娘だった頃のクセの強い性格が変わらないことに心の中で苦笑した。


その夜、帰ってきたダルクたちもパーティーに参加した。家族だけで行われたので、みんな無礼講で楽しんだ。そして、ミラナの第二子。母親と同じ淡い琥珀色の目を持つ男の子の名前が決まった。

マテオ・アルドワン

その名前を後から知った。彼の父親は、その場で泣き崩れたという。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。