こんな手もありますぜ
「スライムについて基本的な知識が欲しいかねえ?」
「ぜひぜひ」
【スカベンジャースライム】
一般人の多くがスライムと聞いて想像するものといえば、プニプニして植物や虫などを食べて歩く例のグミスライムか、あるいは下水処理などに用いるドロドロしたスカベンジャースライムの2系統だと思われる。
本稿では後者を説明する。
といっても、実はスカベンジャースライムも平素はチョコレート色のグミスライムといった姿をしている。
ドロドロした見た目は捕食中のもの。
そもそもスカベンジャースライムはグミスライムに人や肉食獣の排泄物を食べさせて変異させたものであり、ヒト種に無害なグミスライムの性質をそのまま引き継いでいる。
近縁種に汗やフケなどヒトの老廃物を専門に食べるクリーナースライムがいる。
「グミスライムってなに?」
「柔らかい木の実のような一風変わったスライムだね。
説明してなかったけど、問題の沼沢地にいるスライムがこれなんだ。
普通のスライムのようにドロドロしてなくて、むしろぴょんぴょん跳ねたりもする。
ペット代わりに飼う者がいたりもして、スライムというとコレを思い出す者もいるが、スライム族全体からするとかなり異端な種だよ」
「えーと……?」
いまいち姿が想像できないな。
ソメイヨシノを桜の代表と言うようなもんか?
悩んでいたら、アイリスがコメントしてくれた。
「パパ、『プニプニしてて簡単に倒せる例のスライム』だよ」
「あーなるほど」
つまりドラゴン倒す例の有名ゲームに出てくるアレみたいなやつってことか。
なるほど一発で理解できたわ。
俺は最初、なんでリンがそこまでスライムを推すのか理解できなかった。
だけど聞けば聞くほど、この世界でスライムが便利な道具として使われている事が理解できてきた。
「便利な生き物なんだなぁ」
「だてに大自然の掃除屋と言われてないって事だね。
下手に機械などを利用するより低コストで、しかも環境にやさしい。
それにあの森林公園は、可能な限りこの大地の森羅万象を基本にするのだろう?
ならば、スライム種を欠くのはどうかとも思うのさ」
『なるほど道理だね』
「きいてたのかマザー」
この言い方は本当は正しくない。
俺たちの自主性を尊重して会話に加わらないだけで、マザーはいつも聞いてくれてるはずだ。
だけど彼女が『きいてないフリ』を貫く以上、俺たちもそれに従うだけだ。
『森林公園の環境整備は重要な問題だからね。
それとハチ、言いたい事があったんだがね』
「あ、はい、何です?」
『おまえさん、森林公園の奥の方を全く使っていないようだが、なにか問題でもあるのかい?』
ああ、そういう事か。
「問題があるのでなく、外で楽しいイベントが続いてるから。
特にこの数日、立て続けに旅仲間が2名も増えたでしょ」
『ああ、そっちにかかりきりだったって事かい?』
「ですです」
実際リンが増えた事で俺の小さなエブリイ号は満席になっちまった。
こうなると、いかに軽バン最強レベルの広さをもつエブリイでもちょっと狭いわけで。
だけど。
『森林公園側からも外を見られるようにすべきかねえ?』
「え?森林公園から?」
『今はドアを通らないと外がわからないだろ?
だけど今後を思うと、中から直接外が見られるようにするべきじゃないかい?』
「たしかに」
「ふむ」
「……」
アイリスたちも同じ意見らしい。
「たしかにそうだな……でも何かいい方法あるかな?」
うちの車を改造するのか、うーん……。
たしかにうちの車は日本製の軽バン、つまり純粋な日本仕様だ。
それに現時点で、すでに悪路対応で下回りは大改造されているし、今までの乗り味そのままに内部的にはEVに変更もされているわけで。
だから、この異世界の旅路にあわせて大きくするというのも変な話ではないのだけど……でもなぁ。
できれば、軽自動車という枠は変えてほしくないんだけどなぁ。
そんなことを考えていたら、マザーから提案があった。
『あれを採用すればいいんじゃないかねえ?』
「あれ?」
『ネット実況、というんだったかねえ?ハチ、あんたの世界にあるだろ?』
「……はぁ?ネット実況ぉ?」
想定外な言葉がマザーから飛び出して、俺は思わずあっけにとられてしまった。
夕刻。
俺たちは安全のため街道が外れたところに車を隠すと、さっそく森林公園に移動したのだが。
『ほいさ、こんなんでどうだい?』
「うお……これはまた」
キャンプ場の片隅に、簡単なステージと劇場が追加されていた。
しかも単なる新築でなく廃バスを持ってきて下回りと壁をぶった切って作ったような、妙に凝った代物になっていた。
「渋いなぁ」
「あっちに新設されたコテージも廃車利用のようだねえ」
「これもしかして」
「姉さまの『コースター』が原因だろうねえ」
車両データが増えたのを有効活用しているってわけか。
だが、錆びた車体を背景に自然と融合した設備たちは、なんとも趣味がいい。
ステージの隅っこにはギター用のハンガーもあり、ムギが専有したままのギターもかかっていた。
「演奏用の舞台のようだねえ……あれは何かねえ?」
「マイクか?音を拾って後ろの機械で増幅再生するんだよ」
「ああ、機械式の拡声器なんだねえ」
そして何より。
「これは……」
真正面にスクリーンがあり、外であるはずの車からの車窓風景が映されていた。
しかも映像は複数あり、左右側面や後方、真上に向けた超広角のものまであった。
「実況っていうより、普通に中継映像だろこれ」
なるほど、居ながらにして外が確認できるわけか。
しかも座席も用意されている。
おそらく移動中は車側の乗員と通話もできるんだろう。
「すごい!」
「外がよくみえる」
『来訪などでピンポンってやつを通してたが、あれだと不便だろ?
それにこれなら、運転中に同席しない者はこちらから見られるわけだからね』
「たしかに」
たかが扉一枚と言うなかれ。
この森林公園は車内とはまったく別の空間であり、映像を流すのは大変な事のはずだ。
もしかしたらこの映像も、一度マザーを経由して実現しているのかもしれない。
「空間魔法も使わずに、よくもまぁ」
『ふふふ、わしにしてみればその魔法こそ謎の技術なんだがね』
「むろんわかってるマザー殿、ぜひその情報を」
『わかっておるわ、そして、わかっておろうな?』
「当然」
『うむ』
なんかマザーとリンが、なぞの笑みを浮かべて意気投合してるし。
「これならお料理しながら移動できるねえ」
「それはまた……いかにもロマンだなぁ」
「え、移動しながらお料理がロマンなの?」
「ああそうさ、それはスゴイ事なんだぜ」
いつでもどこでもご飯が作れるっていうのはものすごい事なんだよ。
実はね。




