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SF!?異世界ドライブ旅行記  作者: hachikun
温泉
82/100

リンの心

 入浴タイムやら色々過ぎて深夜。

 ひとり起きた俺はリンがいないのに気づいた。

 この部屋にベッドは4つだが、使われているベッドは3つ。

 アイリスはムギにかまったまま、まるで妹の世話を焼く姉のように同じベッドで寝ている。

 ムギも平和そうに熟睡中。

 だがリンの寝ていたらしいベッドは、寝ていた痕跡があるだけで誰もいない。

 起きて触れてみると、まだ充分に暖かい。

 トイレにでも立ったか?

 音をたてないよう廊下に出た。

 

 

 廊下を歩いていると、警備員らしいカジヤン族がやってきた。

 こんばんわと挨拶すると、無言で挨拶された後、眠れないのかいと警備員らしい朴訥さで尋ねられた。

 そして心配してくれているらしいのもわかった。

 連れの所在を確認するんですというと、納得したようにアアとうなずいた。

「あの子ならあっちの奥のスタンドコーナーにいたよ」

「スタンド?」

「魔道具で、深夜でも軽い飲み物程度なら飲めるようにしてあるんだ」

「へえ……」

 ドリンクバーみたいなもんかな?

 ありがとうと立ち去ろうとして、ふと気づいた事を質問してみた。

「もしかしてここ、毎晩徹夜で警備してます?」

「お客様がいる時だけだね。

 特に貴賓室が使われている時は増員もされるよ。

 そのかわり普段は、設備テストや訓練の時に徹夜するだけだよ」

 つまり俺たちのせいで無用な徹夜仕事が入ったと?

「すみません」

「何を謝るかな、これが仕事だからいいんだよ」

「でも」

「それに僕らカジヤンの集落はずっと下の方でね、遠いんだよ。

 だから就労中はここに泊まり込みなんだ、仕事があろうとなかろうとね」

「あ」

 なるほど、徹夜だから帰れないってわけではないのか。

「ここは快適で設備も充実しているけど、ひとつだけ問題がある。

 なんだかわかるかい?」

「なんでしょう……物資かな、それとも家族に会えないこと?」

「物資の問題は特に無いかな、そりゃ贅沢するほど潤沢ではないけどね。

 あと、そもそも家にいたい特別な理由がある者はローテーションから外されるよ。

 ここで働いてるのは気楽な独り者か、家族と死に別れた者が主体だね。

 ああそうそう、名物爺さんがひとりいるよ」

 名物じいさん?

「里じゃ問題ばかり起こしてた乱暴者なんだけど、ここの環境はいいらしくてね。

 彼だけローテーション無視して勝手に居候してるんだけど、そのまま置いてるよ」

「……それって経営としてはどうなのさ?」

「まぁ飲み食いできて生活できればそれでいいって爺様だからね。

 それに実は早朝の警備とか助かってるんだよ。

 やばい寝坊だっていったら爺さんがしっかり回ってくれてたりね。

 なんだかんだで助かるから、僕らも爺さんってつい頼っちまうんだ」

「ほほう」

 まぁ俺にはカピバラのじいさんの区別はできないけどな。

「……もしかして、わりとゆるい運営?」

 大丈夫なんだろうかそれで?

「ここは町からとても遠いだろ?

 だから、がつがつ稼ごうとしても限界があるんだと思うよ。

 僕らカジヤンはのんびり屋で、あくせく働く仕事には向かない。

 けど、あせらずのんびりと、だけど長くそこで仕事するのはそんなに苦手じゃないんだ。

 サイカ側もたぶん、それを織り込み済みで僕らをここに置いてるんじゃないかな?」

「なるほど」

 そういうことか。

 と、そんな話をしていたら、なんか薄汚れた『じいさま』って感じのカピバラが仏頂面で現れたぞ。

「デンよ、いつまでお客様をお引き止めしてる?」

「あ、そうだった!す、すみませんっ!」

 ああ、これが噂のじいさまか。

「あららすみません、お仕事中に長々と」

「いやいやとんでもない、では楽しんでください」

「どうもー」

 警備員さんは自分の帽子をチョイと直し、片手をあげて警備に戻っていった……。

 問題の爺様は何もいわず、にっこり笑顔でふかぶかとおじぎして、そして静かに立ち去った。

 へぇ~……堂に入ってんなぁ、ただの居候にはとても見えん。

 なんかカッコいいな。

 カピバラなのに。

 

 

 教えられたドリンクコーナーに行くと、リンが窓の外の風景を見ていた。

「やぁ、起きたのかね?」

「それはこっちのセリフ……それにしても」

「む、なんだい?」

「いや……」

 透明な板ガラス。

 よくわからないけど、見た目からたぶんドリンクサーバーっぽい装置?

 うーん……。

「ファンタジー世界っぽくないなぁ……なんていったら、住人にとっては失礼な物言いだけどさ」

「ふふ、たしかにそうかもしれないな」

 そういうとリンは苦笑した。

「ところでハチは不思議に思わないか?」

「え?」

 なんの話だ?

「いや、わたしが姉さま、つまりオリジナルの記憶を持っている件についてさ」

「あー……ここの開発に関わってるとか、妙に細かいのは不思議に思っていたよ」

 他人の記憶は読めない。

 正しくは断片的で、きちんと辿れないが正しいのだけど。

 それでアイリスは苦労しているわけだし。

「それは前提が間違っているのさ」

「……どういうこと?」

 想定外の反応に俺は首をかしげた。

「わたしの中には、姉さまが長年やってきた様々な研究の記憶などもあるんだよ。

 そしてソレを普通に読める。

 そう、わたしが持っているのは姉さまの記憶だけじゃない。

 だから、君が君自身の記憶を辿れるように、わたしも辿れるのさ」

「おい、それってまさか」

 俺の言葉にリンはうなずいた。

「そう、わたしは姉さまの『意識』もそのまま継承している。

 そもそも他人じゃないんだから、読めて当たり前なんだよ」

「!」

 なんだって!?

「ちょっとまて。

 じゃあリンの自意識はどうなってるんだ?

 まさかと思うが」

「ああ、姉さま……オルガ博士本人のままさ」

「おいおいおいおいっ!!」

 やばいだろそれ!!

 元の人物が生きてんだぞ?

 SF的かもしれんけど、鬱展開しかないだろそれ!

「おかげさまで大変だったぞ。

 自分はオルガ当人のつもりなのに別人と言われ、当初は頭がおかしくなりそうだった。

 しかもその当人まで現れる始末でな。

 実際に狂乱状態に陥ったぞ」

「……うわぁ」

 なんなんだよそれ。

「だが冷静に自分を調べれば、たしかに何もかもが違うのさ。

 たしかにこの身は魔族ではない。

 魔力には魔紋といって当人を区別するものがあるが、これも異なっている。

 たしかに自分自身のはずなのに、認識できる世界のすべてが『おまえは別人だ』と言うんだ。

 正直、よく発狂しなかったものだよ」

「……ひでえ」

 最悪すぎる。

「まぁ他でもない彼女本人に事情をこんこんと説かれ、別人としての名と妹としての立場をもらったわけだが……」

 なんと。

「じゃあリンは、学習によって自分は別人と納得しただけってこと?

 根っこの自意識は、もしかして今も博士当人なの?」

「その通り、感情面では今も本人だと思ってるよ」

 うわぁ……。

「そもそもどういう経緯で人格コピーをしたかも、全部自分の体験として知ってるからね。

 だけど、なんで自分がって納得できない気持ちもあるわけさ。

 やれやれだよねえ。

 ……今も姉さまを見ると問答無用で攻撃魔法打ち込みたくなるしねえ」

「だめじゃん」

「はははっ!」

 苦笑された。

「まぁアレだ、人は機械ではないっていうのを自ら立証してしまったな。

 同じ意識と記憶をコピーしても、それは同一人物たりえない……っていうのはわかってるつもりだったが、まさか自分で体験する日がくるとはね。

 時間がたつにつれて現実の齟齬は大きくなり、オリジナルの記憶は現実感を失っていく。

 だがその記憶だけはいつまでもしつこく、しつこく、おまえはオルガだと言い続けるんだ。

 理屈ではわかるんだが……まったく頭がいたいね」

「だろうな……なんつーひどい話だ」

「そうだな。まぁ合理的ではあるんだが」

「合理的?」

 どういうことだ?

「まるごと複写を提案したのは姉さまなのさ。

 素人に自分の助手はできない。

 だがゼロから自分の経験や記憶を教え込むなんて、とてもやってられない。

 それより全部いれちゃって、初期の問題を力づくで抑え込む方がいいってね」

「なんて無茶を……」

 マッドにもほどがあるわ。

 しかも自分のコピーでやるかぁ?

 ひとつ間違えたら、コピーに自分を殺されるってダークSF展開じゃねえか!

「おっかねえ人だな、あんたの姉さまってのは」

「フフフ、まったくだな」

 リンはクスクスと楽しげに笑った。


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― 新着の感想 ―
[一言] うーむ、死んで転生とかならともかく 突然、お前はお前自身じゃないなんて言われたら……ねぇ? そりゃーもう、もやっとするだろうなぁ。 (´・Д・)」コレだからマッドは!
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