ごく平凡なキャンプの夜?
「ねえパパ」
「ん?」
「パパは寒いキャンプって好き?」
「好きだぞ」
俺は断言した。
「虫が出ないし、寝苦しい事もない。汗もかかない。
けど、氷点下のキャンプはナメてかかると眠れないだけでなく、マジで命が危ないぞ」
「そうなの?」
「日本でマイナス14度くらいまで経験したけど、厳冬期用フル装備だったからなぁ。
まぁ、今の体で寒さで死ねるかは知らないけど……死ぬのかな?」
「んー、氷点下200度くらいまでなら大丈夫だって」
「……大丈夫って言われても、そもそもそんな寒いとこでキャンプしたくねーよ」
「そうだねえ」
俺とアイリスは苦笑しあった。
「ん、お肉」
「ああそうだな、悪い」
ムギに急かされて、俺たちはバーベキューに戻った。
食べやすく切った鹿肉と、管理棟から持ってきた野菜、それと長ネギとニンニク。
さらに鹿肉を使い、管理棟からもってきた圧力鍋で作った豚汁ならぬ鹿汁っぽいやつ。
大型テントの窓の外は、気持ち悪いほどキラキラの星空。
ただでさえ標高が高い上に空気が澄み切ってるんだろうな……。
おそらく今までの人生でも、見たこともないくらいに凄まじい星空。
それを見ながらの晩餐。
「それにしても……ムギはなかなかに多才だなぁ」
「んゆ?」
「なんでもねえよ」
そういって肉をろうとしたらムギにとめられた。
「それ早い、こっち」
「おう」
まさかバーベキューをムギが仕切るとは想定外だった。
アイリスの話だと料理はしないそうだけど、屋外で肉を焼く時だけは別らしい。
肉と野菜を適切なサイズに切って串にさす動作も全く迷いがない。
これは……相当にバーベキュー慣れしてるな。
「ムギ」
「?」
「前のオーナーとバーベキューしてたのか?」
「違う、こっちで覚えた」
「こっちで?」
「こっちで」
となると……放浪中に出会った人と野営したのか?
なるほど。
管理人の爺さんといい野営といい……何もせず過ごしていたってわけじゃないんだな。
それはよかった。
ほんとうによかった。
引き離された主人の元に戻ろうと百年さまよい続けていた、なんて事だったら悲しすぎるもんな。
「その串もイケる」
「おう」
そう言いつつも新しい串に肉と野菜をプスプスと。
猫がバーベキューを仕切る……ある意味不思議な光景だよなぁ。
ふと酒が飲みたくなった。
バーボンのボトルと愛用の『ぐい呑み』を取り出した。
本来このぐい呑みは洋酒用じゃないけど、ショットで飲むにはちょうどよくて愛用してるんだ。
そして、バーボンの栓をあけようとした、まさにその瞬間だった。
「パパ、緊急事態」
え?
突然のアイリスの豹変に驚いていたら、ムギまで動いた。
「なんかくる、魔力帯びし何か」
「魔力!?」
「クリネル方面から飛翔物体、毎秒100m以上の速度でこちらに向かってる、識別不明」
「毎秒100m!?」
それ時速300km以上出てるよな、なんだそれ!?
「ムギ、火を落として戦闘準備!
アイリス、マザーに通報!」
「了解!」
「わかった」
俺たちはテントの外に出た。
夜になり、外の寒さはいよいよ強烈なものになっていた。
俺は高度計を持ってないので推測だけど、少なくとも標高4000、もしかしたら5000mにも達してるかもしれない場所だ。
俺たちが焼き物はともかく、煮物に圧力鍋を使ったのはそのせいだ。
こんな高所で煮炊きした事なんてないからね。
地球の本物の圧力鍋がちゃんと高所で使えるかはわからないけど、このマザー謹製っぽい圧力鍋は、しっかりと仕事をしてくれたようだ。
って、それはどうでもいいか。
「問題の飛行物体は……アレか!」
いよいよ俺のセンサーにも感じられた。
感じられたのだが。
「なぁ、アイリス」
「なにパパ?」
「……飛んでるの、もしかして人間?」
「ううんドロイド」
「なんでわかる?」
「パパ、冷凍庫より寒いところを時速300kmで飛んでるんだよ?」
「あー了解」
生身の人間なら死にそうだもんな。
「目的地はここかな?」
「パパ」
「ん?」
「こんな非常識な相手が普通のとこにいくかな?」
「その、まるで俺のとこに来るのが類友みたいな言い方はどうかと思うが?」
「……」
「おい、アイリスさぁん?」
「ゆるい放物線を描いて、まっすぐここに向かってるよ?」
おい無視すんなよ。
けど。
「時速300kmで放物線で、ここに向かってる?」
「うん」
「あぶなくね?」
何者かわからんけど、ちょっとやばくね?
「パパ」
「お?」
「ちょっと後ろにさがって」
「お、おう……!?」
そうして俺が一歩さがった次の瞬間、
──世界が、いきなり爆発した。




