……なんで?
本気で寒いとこだと爆風さえも冷たいんですな。
そんな事知りたくなかったけどさ。
「ケホケホ……えーと無事かぁ?」
「パパあそこ」
「お、おう……なんか倒れてるな」
小柄な影があった。
「よくわからないけど、とりあえず敵対ではないんだよな?」
「たぶん」
「わかった」
俺は近寄ってみた。
近くに寄るとわかったが、その誰かの落ちている周囲の地面がおかしかった。まるで大きなエネルギーをぶつけられた後みたいに陥没してる。
生きてるのかこれ?
実は即死してんじゃねえか?
「──ちょっとまて、凍ってるぞこいつ」
「え!?」
「非常事態だ、森林公園に収容する」
「え、でも」
アイリスが俺をみて、そして倒れている者をみた。
あ、そうか。
何者かわからないのに森林公園に入れるわけにはいかないか。
でもこのままはまずいぞ。
「ムギ、車のエアコンの操作わかるか?」
「わかる」
「すぐ温風全開にしてくれ!
アイリス、今すぐ解析できるありったけのコレの情報つけてマザーに確認!
マザーの許可が出たら森林公園に──」
「待ってパパ、あわてなくていいよ」
「いやまずいだろ、処置遅れたら死ぬぞこいつ!」
「パパ、ドロイドだから!」
「だからまずいだろ……って、ドロイド?」
「うん」
アイリスに言われて納得した。
「あー……そ、そうだったな。
まぁたしかに死なないか、これくらいじゃ」
「うん」
マイナス200度まで耐えるんだよな?
でもちょっと待てよ?
ここは宇宙文明でもなんでもないのに、どうしてこんな頻繁に人造人間がいるんだ?
「お館様が作ったんだと思う」
「マザーが?そうなのか?」
なんでわかるんだ?
その俺の疑問にアイリスは簡潔に答えてくれた。
「同型機っぽい」
「そういうこと?」
「うん」
なるほど。
「ああすまない……いやー死ぬかと思ったよ、ありがとう」
「お茶、熱いから気をつけて」
「いやぁすまない……あぁ染み渡るねえ、フフフ」
さすが人造人間。
ちょっと温めてやると普通に動き出した。
アイリスの見立てによると凍傷などもないらしい。
半分凍ってたってのに……頑丈だなぁ。
さて。
毛布にくるまってケラケラ笑う、その頑丈なドロイドさん。
中身は黒髪黒目の結構な美人さんで、しかも職業は自称魔法使いだった。
……なんだかなぁ。
「さて、遅れてすまないが自己紹介をしよう。
わたしの名はリン。リン・フェイ・マフワンという。
オルガ・マシャナリ・マフワンをオリジナルとする妖精の一体だ。
どうかよろしく頼む」
「リンか、いい名前だな」
あのオルガ博士が元なのか。
けど、元の妖艶な美女とずいぶん違わないか?
さすがに成人女性だろうけど、美少女といっても通じそうな見た目。
まぁ個人的にはこっちが好みではあるけどな。
オルガ博士はさすがにアダルトな美女すぎて、そういう意味の食指までは動かない。
なんか一方的に翻弄されそうだし。
それに比べると、普通に可愛いと思える。
「俺はハチだよろしく……ところで妖精って?」
どういう意味だろう?
「魔族の習慣なんだが、成人の男女でないものを妖精と呼ぶんだよ」
「成人男女でない者?」
「あー、そのあたりの説明をしていると話がややこしくなるな。
とりあえず、人造人間には妖精名をつけるとおぼえといてくれ」
「──よくわからんけど了解」
よく考えてみたら、宇宙人製アンドロイドなのに名前がついてるって奇妙じゃね?
俺は元人間だから自称した。
アイリスとムギは俺が名付けた。
だったら──。
「なぁリン」
「なんだ?」
「リンにリンの名をつけたのは誰だ?」
「もちろんオリジナルのオルガだ。
小さい頃、つけたかった妹の名を元にしているときいた」
「妹の名?」
「オーリンと名付けたかったそうだ」
「なるほど……事情はよくわからないが、かなわなかった願いを託したんだな」
「うむ……わたしは拒否しようとしたが、逆に怒られてしまった」
「怒られた?」
「わたしはもちろんその妹ではないし魔族の生まれでもないが、それでも妹には違いないそうだ。
そして自分の事は姉と呼べと。
道具に名付けなんてといったら、ココロあるものは人だ馬鹿者とゲンコツ食らわされた」
「……そりゃご愁傷さま」
「うん」
なんだ。
なかなかいいやつじゃないか、オルガ博士。
「それで、どうしてこんな寒いところに飛んできたんだい?」
「君だよ」
「俺?」
「ああ」
ビシッと指さされた。
「わたしは、ひとりの知的生命の遺伝形質や記憶を元に作られた人造の存在。
ぶっちゃけると、そちらのアイリス殿と同様の存在だろう?」
「だな」
「だったらわたしの作られた理由もわかるだろう?」
「……まさか俺たちの一員にするために?」
「正解だ」
ニッとリンは笑った。
俺やアイリスの本来の立場は、マザーの端末であり戦士だ。
リンは新しいご同輩ってわけだ。
「リン、君の製造ってオルガ博士ご当人の許可を得てるんだよね?」
「もちろん。
クリネルで顔合わせもすませたぞ。
そして、わたしは任務を得てここに来たんだ」
「任務?」
「オリジナル──姉さまの側からすれば、わたしは調査員なのさ。
主に空間操作の技術や、魔法利用の状態を調べてオリジナルに送るんだよ。
姉さまは空間魔法の研究をしていて、そのためのデータがほしいんだ」
「なるほど……で、自分自身のデータ提供と引き換えに調査させてくれと?」
「うむ」
研究のためなら自分自身すら交渉カードにする事を辞さない、か。
まさに絵に描いたようなマッドな面もあるんだな。
なるほど、おぼえておこう。
「そういうわけなので、これからよろしく頼む」
「ああよろしく……だけどもうひとつ質問があるぞ」
「む、なにかな?」
俺は……たぶん自分が苦笑いしてるだろうなと思った。
「リン……おまえさん勝手に出てきただろ?」
「!?」
ははぁ、やっぱりか。
「どうせクリネルで落ち合う手はずになってたんじゃないか?
なんでまた、わざわざ前倒しして、こんな寒い空を飛んで来たんだ?」
そういったら、なぜかリンは赤くなった。
む、なんだ?
「そりゃあ……旦那様に興味があったからだな」
「は?だん……なんだって?」
「なんだって……まさか理解してないのか?」
今度はリンが首をかしげた。
「現在、マザー殿の持たれている遺伝子プールで、男のデータは君だけだ。
そして女のデータばかり次々と増やしてるって事は、子作りしろという事なのでは?」
「短絡すぎる!」
さすがに頭をかいた。
「マザー殿はそうおっしゃってたぞ?」
「言いたい事はわかるが、犬や猫のペアリングじゃねーんだ。
上が了解したからって、はいそうですかとできるわけないだろ?」
「ふむ、マザー殿は君たちの統括をしているとおっしゃっていたが?」
「現場の事は俺たちに任せる、そうもいってただろ?」
「む、たしかに」
リンは納得げに大きくうなずいた。
「アイリス嬢すまない。
わたしの勇み足であったようだ。
このあたりの調整をお願いしてかまわないか?」
「……わかりました、では、受け入れの方向ですりあわせをいたしましょう」
「よろしく頼む」
「はい」
「え?え?」
なんか俺の頭上で、なぞの同意がかわされてますが?
困っていたら、誰かがポンと俺の肩に手を置いた。
見たらムギが苦笑していた。
そして。
「男と子供は『おんなども』には勝てない」
「あー……とりあえず任せておけって?」
「うん」
たしかに。
ま、アイリスなら悪いようにはしないだろ。




