たのしいドライブ
「座席ありがとうございます、どうもお世話になりました!」
『礼なら我でなくラシュトルたちに言ってやってくれ。
いずれ、外でも眷属や分身と会う事もあろう。ではな』
「はい!」
翌朝、俺たちはアース・ドラゴンのいる遺跡を後にした。
おみやげに大量の処置済み鹿肉をもらったばかりか、予想外の事もあった。
具体的には。
──外まで迷子のラシュトルを運んでくれたら、後ろの座席を改造するぞ。
「まさかドラゴンに座席の改造をしてもらうなんて」
「ドラゴン違う、眷属」
おっと。
「そうだねムギ、たしかにそうだ。
アース・ドラゴン様の眷属さんに改造してもらったんだね」
「ん」
たしかにアレは驚いた。
眷属さんたちがワラワラと車に群がり、たちまちのうちに座席が外されて。
背もたれ部分が改造され、展開するとお尻のところに空間ができるようになった。
具体的にいうと、展開すると背もたれが上にスライドするようになった。
開閉機構と完全に連動しているため、走行中に落ちて尻尾が挟まれる事もないという。
これだけの改造なのに、所要時間は一時間もない。
……なんて器用な。
ムギといえば。
俺を呼ぶ時の呼称は結局「ご主人」で落ち着いた。
アイリスの「パパ」もだけど、なんで普通に呼んでくれないのかね?
まったくこいつら……まぁ可愛いけどさ。
『クゥ』
そんな会話をしていたら、屋根の上で鳴き声がした。
そうそう問題のラシュトル君だ。
ラシュトル族にはいくつかの系列があり、アース・ドラゴン様の眷属は『洞窟種』という連中らしい。尾が短く手先が器用で、そのかわり高速走行なんかは不向きなんだと。
で、屋根の上に乗ってるやつは『森林種』。
見た目的には地球の恐竜時代再現ビデオなんてに出てくるラプトル族……すなわち尾が長くて走ったり跳ねたりする、比較的小型種のラプトルそのものといっていい。
この個体はアース・ドラゴン様の眷属でなく、土砂災害で流されてきた瀕死の子を保護したんだと。
けど眷属仕事はできないし、そもそも地下生活に向いてないから、だんだん弱ってきたんだと。
そんなわけで、山道まで運んでほしいという依頼になったわけさ。
「お、無事に出たな」
元の街道に無事に出てきた。
長いトンネルを抜けて、気持ちのいい温かい風と青空が広がる。
路肩に車を停めた。
後ろを見ると、あったはずの隧道入り口はきれいに消えている。
ああやっぱり。
あの入り口はやっぱり幻だったんだな。
車の外に出て、上に乗っているラシュトルに声をかけた。
「いけそうかい?」
『クルルル……』
ラシュトルは鳴き声を上げると、俺たちの車の前にスタッと降りた。
体の大きさのわりに足音が小さいのは、長い尾でバランスをとっているためか?
『クルルル』
「おう、気をつけていけよ?」
『クゥ!』
ラシュトルは鼻先を俺に軽く擦り付けると、どこかにタタッと走り去っていった……。
「おー崖も走れるのか、すげえ運動性だな」
まるでカモシカだ。
「カモシカ?」
おっと。
「昔な、四国の落合峠ってとこの祖谷側でニホンカモシカって小型のやつに遭遇したんだが。
そいつはな、ほとんど垂直の崖を普通に走って逃げていきやがったんだ」
「へぇ……ねえパパ」
「ん?」
「もういこう?」
「おう、そうだな。ドライブ再開だ」
俺はアイリスにうなずくと窓をしめ、旅を再開──する前に。
「っておいムギ!」
「ん?」
「おまえ、だから勝手にシートベルト外すなって!」
「?」
そうなのだ。
ちゃんと座れるようになったところで別の問題が発覚したんだよね。
つまり。
ムギがシートベルトを嫌がるのだ。
この車、後部座席のシートベルトは警告の対象外になってるんで最初気づかなかった。
走行中、ミラーごしにおかしいと気づいた。
俺とした事が。
「ムギ、シートベルト!」
「……」
そんな可愛くヨソ向いてもダメだぞオイ。
「こら、知らんぷりすんな!」
「……」
だぁぁ、もう。
尻尾つきでも座れるよう後部座席が改造されたのはいい。
だが肝心のムギはシートベルトをいやがる。
子供か!
まったく!
「だぁぁもう仕方ねえな!」
俺はドアをあけて外に出ると、左側に回って後部ドアを開いた。
そして。
「ニャアん♪」
無理やりベルトしようとすると、急にクネクネと悶えて嫌がる。
しかも、なんか発情期の猫みたいな変な声まで出しやがる。
「ニャあ♪」
「だーかーらー、耳元で変な声出すなバカ!」
ったくガキのくせになんつー声出すんだか!
「バカじゃない、かわいいメス」
「うるせぇ色気出すなら同族相手にって……いぃ!?」
そう言った瞬間、俺の目は点になった。
だってムギの姿が陽炎のように揺らいだかと思ったら。
そこには猫耳猫しっぽつきの人間の美幼女がいやがった。
「ちょ、おま、な……!?」
な、ななな、なんだこれ!?
も、もしかして『変身』ってやつか?
いやいやちょっと待て、これVRでもなんでもねえ現実だぞ?
いくらなんでも目の前で、一瞬で『変身』なんて!
「ん、ドキドキ?えっちする?」
「あほう、俺はロリコンじゃねえ!!」
反射的に頭をどついていた。
「ん、じゃあケモミミ属性?しっぽ?」
「アイリスか、アイリスだな?そんな言葉教えたのは?
勝手に変な萌え属性つけんな!」
いや、ちょっと可愛いけどな。しっぽ。
俺、昔から子猫のしっぽとかモフるのが大好きで……( ゜д゜)ハッ!
「にゃあん♪」
「だ、だから変な声だすなってぇっ!」
無理やりベルトで固定して、ようやく旅を再開することができた……。
あぁぁ、もう。
先が思いやられる。




