大地を守る者
呼ばれるままにトンネルの中を進んできた俺たち。
すぐに異変に気づいた。
「外気温がえらい下がってるな」
「そうなの?」
「マイナスとはいかないけど、おそらく一桁だぞ。
車のあちこち触ってみな、冷たいと思う」
「えっと……わ、冷たくなってる!」
鉄板部分に触れたアイリスが驚きの声をあげた。
だろうな。
アイリスとは砂漠で出会った事もあり、とにかく暑い、いや熱い車内に慣れてたもんな。
クリネルは地球でいえば中東あたりの感じに似ており、気候もそれなりだという。
さすがに標高があがる事で涼しくなってきたとはいえ、まだまだ体感的に日本の幹線国道レベルとそう変わらないはずだ。
そんな場所から入ったトンネルで、しかもゆっくりとした下り勾配だ。
にも関わらず、この寒さ……。
窓をあけて空気を確認してみた。
「こりゃあ洞窟の温度だな」
「洞窟?」
「ああ……年間通してひんやりしてるんだよ。
地域によっては、この涼しさを利用して特殊な作物を作ったりするよ」
「そうなんだ……」
そんな話をしていたら、ムギがピクッと反応した。
「何カニオイスル」
「む?」
続いてアイリスも反応した。
「巨大生物反応多数、前方に感知。詳細不明」
え?
「詳細不明!?」
どういうことだ?
「お館様も分析できてないんです。
あと、このさきに大空洞がありますが、これは先日の隧道跡の穴からつながっているようです。
大都市サイズの空間がこの山脈の下にはあり、そこに巨大な生物が大量にいる事になります」
「なんだそれマジか」
「マジです」
おい。
もしかして俺たち、やばいところに誘導されているのと違うか?
そしてそのうち、その大空洞とやらに出て──。
な、なななな、なんぞこれぇ!?
『やぁ、よくきたね異界の少年たちよ』
「……」
『我はアースドラゴン、すなわち大地を支配する竜の一柱だよ。
皆は色々な名で呼ぶ、君たちも好きに呼ぶがいい』
「……」
『ん?どうしたのかね?調子でも悪いのかな?』
「あの、すみませんがアース・ドラゴンさま」
『何かね?異星の戦略頭脳が産みし娘さん』
「アイリスとお呼びください。
それよりうちのひと、頭の許容量オーバーでフリーズしたみたいです」
『おっと、それはすまない。
まぁ落ち着くまでそこで休ませなさい。
これおまえたち』
「ハイ、アルジサマ」
『お客人たちを丁重にな。
それとその子猫がおなかを空かせている、取り急ぎ彼女用の肉を』
「ハイ、タダイマ」
そこにいたのは。
薄闇の巨大な空洞の中、のんびりと俺たちを迎えてくれたのは。
うちの車がミニカーにしか見えないサイズの、超巨大なドラゴンだった……。
「え、じゃあマザーに近い存在なんですか?」
ようやくフリーズ状態から復活した俺は、食事をもらいなから話を聞いていた。
目の前のファンタジー全開の巨大なドラゴン。
特撮番組の大怪獣と違って、ガチの超巨大生物。
余裕で百メートルオーバーの正真正銘のファンタジー世界の怪物が。
なんとまさかマザーの親戚とは。
『いやいや、そこまで同じではないさ。
我々をこの星に配置したアマルティアの者たちと、マザー殿を作ったオン・ゲストロは同じコミュニティに属する友邦である、ただそれだけの事だよ』
そのセリフに気になる部分があった。
「配置した?
つまり、あなたはつくられたわけではないと?」
まさか自然の生命体なのか?
この巨大なドラゴンが?
『この惑星には動物型の我らドラゴン族、そして植物型の樹精王族、それぞれ数体が配置されている。
我らは元々君同様、別の世界の生き物だったんだ。
故郷は君らが精霊分やエネルギーと呼ぶ存在に満たされた世界だった。
我らの世界が滅びる時、我らも滅びるはずだった。
流出する膨大な精霊分の中で眠りに落ち、そのまま死ぬはずだった。
しかしアマルティアの学者たちによって助けられた。
そして仕事をもらった。
この精霊分の希薄な世界が年月をかけ、ゆっくりと染まっていくのを見守ってくれとね』
「見守る?なんで?」
『精霊分は生命を補完する力があるが、持たない世界の生き物にとっては猛毒なのだよ。
一気に汚染されれば確実に死んでしまう。
だからこそ我らがいるのだよ。
少しずつ少しずつ……ゆっくりとこの星の生き物が精霊分に染まっていくようにしているのさ』
ほほう…・・そんな仕組みだったのか。
ちなみに食事だけど「たくさん作りすぎた」という俺の推測は斜め上の方向に間違っていた。
そもそもアース・ドラゴン様はシカを食べない……人間がアリを一匹食べてもおなかが満たされないのと同じ事らしい。
ちなみに彼は地下空洞に住む巨大なムカデがお好きなんだとか。
彼のスケールで巨大と言い切るムカデのサイズ……考えないようにしよう、うん。
つまりシカの方は、わざわざ俺たちのために作ってくれたものらしい。
しかも、しっかりと保存処置をした大量の鹿肉のおみやげつきで。
『実は我も目覚めたばかりなのだよ。
この鹿肉は配下のラシュトル族のお供え物なのだが、我の食料には少なすぎてもったいない。
大部分は祭りにでも使えと改めて下賜していたのだが。
今回、彼らの申し出でその一部を回させた。
あまり多くなくてすまないな』
「いやいやいやとんでもない、ありがとうございます!」
魚しかないところに大量のしかも処置済み鹿肉、嬉しいよマジで。
きけばマザーの方にも、精霊分制御のための協力をはじめているらしい。
なんて親切なドラゴンなんだ……?
「え、申し出?」
一度下賜されたものを、わざわざラシュトル族たちが俺たちに?
『我々竜族は皆、実に好奇心旺盛なのだよ。
要するに君たちに興味があるのさ。
イヤでなければ、もらってやっておくれ』
「そうですか……それはどうも」
ちなみにラシュトル族というのは地球で言うと、恐竜時代にいた『ラプトル』に似た小型恐竜タイプの連中だった。
いくつかバリエーションがあるがほとんどが小型種。
実際、俺たちの世話をしてくれているのに至っては尻尾も短く姿勢も直立に近く、まさに竜人って感じだった。
『ちなみにトカゲというと不機嫌になるからね、そこは気をつけてあげてほしい。
それだと別の種族になってしまうのだよ』
「え、トカゲの人もいるんですか?」
そもそも竜とトカゲってどう違うんだ?
『たしかに獣人族としてのトカゲはいない、しかしトカゲの人が一体だけいるのだよ』
「え、一体だけ?」
どういうことだろう?
たった一体では事実上の滅亡だろうけど。
『名前はクレーヌ・マドラエル、君らと同じく異世界からの転移者なのさ。
彼はケラナマーで研究生活をしているらしい。
最近はこの近くにも来るらしいので、もしかしたら会えるかもしれないね』
「……そうなんですか?詳しいですね?」
『我々真竜族は配下のラシュトルたちも含め、よく噂話を集めるからね。
今のクレーヌ教授の話も、中央大陸にいる同族から聞かされたのさ。
まぁ、そうでなくとも異世界人というのは話題になりやすいのだけどね』
へえ。
結局この日は、このままアース・ドラゴン様の元でお世話になる事になった。




