変身猫
ドライブを再開しつつ、すぐアイリスに調べさせた。
幸いマザーが情報を持っていた。
「え、普通の機能なのか?」
まじか。
猫がネコミミ娘に変身する『技術』?
なんじゃそれ?
マジで『技術』?
よくわからん謎の『魔法』とやらじゃなくて?
「珍しいのは確からしいよ。もともとは諜報関係の機体だろうって」
「ああなるほど」
たしかに諜報には便利そうな能力だもんな。
「しかし変身能力ねえ……なんつーマニアックな」
顔つきを変えるとかならともかく、全身を変えるかぁ?
これで、どこぞの殺人ロボットみたいに全身液体金属ってわけじゃないんだろ?
意味がわからねえぞマジで。
「あと猫人族じゃなくて、アマルーって宇宙人の姿なんだって」
「あー……たまたま猫人族そっくりってだけなのか」
「うん正解」
マジか。
鳥獣戯画に出てきそうな猫人間の宇宙人がマジでいるんかい。
「それはともかく、だったらなんで猫耳娘に変身する?
人間に猫耳としっぽって、どういう実用性があるんだ?
変身させるんなら完全な人間にしろよ」
「たぶん擬似的にやってるだけなんだと思う」
「擬似的に?」
「アマルー型の場合、アマルー族と猫科の動物ってパターンが一般的なんだって。
たぶんムギちゃんも本来はアマルーと完全な猫の2形態だと思う。
でも基本形態とは別に、一時的な偽装能力もあるんだよ。
このネコミミモードは学習結果みたいだね」
「その言い方やめろ、電波ソングが聞こえそうだから。
って、猫娘の姿を学習?どこで?」
「ネコミミメイドカフェだって」
「……なんだそれ?」
「だから、ネコミミメイドカフェだって」
「……日本の?」
「そう」
あー、うん。
会ったこともない前のオーナーさんよ。
あんたこの子に何やらせてたんだ?
おい。
「とにかく事情はわかった。
でも、だったら常に猫娘でいればいいんじゃないか?
猫がダメとは言わないが発音も今の方が明瞭だし、会話も楽だろ?」
人は声帯だけで声を出しているわけではない。
歯並びが変わるだけでも声質は変わってしまうし、場合によっては発声も不明瞭になる。
つまり、人に近い形態をとるのはヒトの社会では有利なわけで。
だけど。
「イヤ」
即答で拒否られた。
「なんで?」
「ムギはアマルーだから」
「あー……もしかしてアイデンティティの問題?」
「ういっす」
なぜかドヤ顔だった。
いいけど女の子が鼻息フンスはやめとけ、かわいいけど。
「リアでいるのもこの姿も嫌いじゃないど、ずっとそのままはイヤ」
「なるほどな、アイデンティティの問題じゃ仕方ないな。
よしもういいぞ、本来のアマルーとやらに戻っとけ」
「うん!」
ムギはうれしそうに言うと、元の猫人族っぽい容姿に戻った。
より道をしたけど、旅に戻れば俺たちは速い。
ま、そりゃそうだ。
だって中世期の馬車が基準の世界に、俺たちだけ21世紀の自動車なんだぜ?
地球の馬車とは段違いの高性能馬車だし、それを引くのも馬でなく魔獣。
それらの馬車の最高速度は実に60kmを越えるようだけど、それでもさすがにこっちの性能が上。
トロい軽自動車、しかもターボすらついてないNAだけど、それでも時速120km以上は普通に出るわけで。
時速70km以下が基準のこの世界の現在の道路では、この性能ですら完全にオーバースペックだと思う。
だけど。
「けどパパ、ハイウェイはその限りじゃないと思うよ?」
「たしかに」
中央大陸から俺たちが使ってきたハイウェイ……あれは地球のカテゴリだと実は現道でなく『遺跡』に分類されるらしい。
なんでもずっと昔に作られた幹線道路の生き残りで、たぶん本来は日本の高速道路以上に飛ばす事が前提の道だと思う。
ただし。
「この世界には日本道路公団はないからな、幹線道路だって安全にぶっ飛ばせるとは思わない方がいい。
アイリスも、それからムギも気をつけてくれよ。
道におかしいところがあったら、遠慮せず報告してくれ」
「パパ、パパ」
「ん?なに?」
「日本道路公団はもうないよ?」
「……アイリス」
「なあに?」
「てい」
「あいたっ!」
「変なツッコミせんでいいの」
たしかに2021年現在、NEXCOに生まれ変わって日本道路公団は解散済みである。
だけどねアイリス、それは「もののたとえ」だっての。
要するに「道路が安全とは限らないから気をつけよう」って話なんだからさ。
「まったく……ふふふ」
「パパ、さっきから変だよ?いきなりチョップしたり笑ったり」
「悪い悪い、あんまりアイリスが可愛いんでつい」
「つい、でチョップしないで……」
たしかに、ごもっとも。
「わかったわかった、これから気をつけてチョップしよう」
「だからチョップしないで……」
「ところでアイリス、峠まであとどれくらいかな?」
「……てい」
返事のかわりにチョップされた。
「いてーよ……で、どのくらいだ?」
「んー、まだ300km以上」
「結構あるなぁ。
ま、飛ばしても仕方ないし峠は明日かな?」
「飛ばせば日没までにはイケるんじゃない?」
「アイリス、それはダメ」
俺は首をふった。
「アイリス、俺たちは毎日はしる。わかるよな?」
「うん」
「旅の移動スタイルはいくつかあるけど、安全で楽しい旅の最大のコツは疲れを残さない事なんだ。
一日の移動距離は少なめに、そして休養をとる。
まだ明るい宿泊地につくだけでなく、野営準備もすます事も大切だな」
「そんなに厳しくするの?」
「厳しくないぞ、これ」
俺は首をふった。
「毎日移動する以上、疲れをその日のうちにとるのは当たり前の事だ。
ギリギリまで移動していると、宿泊地を見つけるのが不利になるしな。
そして、同じ事をするのに暗いっていうだけでトラブルの元になるものはたくさんある。
さらに暗くなると地元の人も家などに引っ込むから、とれる情報も制限される。
まだまだあるぞ?」
「……わかった」
なんか納得してくれたようだった。
「むろん、最初から予定が決まってる旅ならその限りじゃないけどな。
たとえば宿を予約ずみなら、そこにチェックインするだけでいいわけだろ?
あと翌日を休養日にするなら、ギリギリまで動くのもアリだ。
そうやってケースバイケースで対応するもの……ただし基本は忘れずに」
「……そうなんだ」
「ああ、経験者がいうんだから間違いない」
俺は自分を指差した。
「俺昔、はじめての旅の途中で疲労と睡眠不足から追突事故起こしたんだ。
まぁ昔話だけど、ほんとにひどい目にあったんだぜ」
「……そうなんだ」
「そんなわけで、疲労は残しちゃダメなんだ。わかったか?」
「うん」
「いい子だ」
俺はアイリスの頭をなでた。
そして俺たちは、気づいてなかった。
え?何かって?
「……」
そんな遊んでいる俺とアイリスを、ムギが楽しいおもちゃを見るようにニコニコ見ていたってことに……。




