フラットダート
「♪ダートは続くよどこまでも~とくらぁ」
国境を抜けて山地にさしかかったところで、ハイウェイは途切れた。
しかも、簡易舗装にも似た雑な舗装になっちまった。
さらに時々、唐突にフラットダートまで混じりだした。
「これじゃまるで酷道だな」
「こくどう?」
「酷な道と書いて酷道ね。
国の道、つまり国道とひっかけたシャレなんだけど、要は国道のくせにひどい道ってことだな。
同様の言い方に、険しい県道って意味で険道ってのもある」
「……」
「ははは、くだらないシャレだろ?
けど音は同じの上に、文字を見れば意味も一発でわかる。
表意文字である漢字をうまく使ったシャレだと思うよ」
「うん、そだね」
ん?
何かアイリスの笑顔が、ちょっと大人びてないか?
ま、いっか。
「しかしま、ちょっと予想はついてたけどね」
「何が?」
「道が悪くなるってさ。
アイリス、地図を拡大してごらん」
「あ、はい」
アイリスはナビを操作し、マザーが更新してくれた最新の地図を拡大した。
……あ、一応念の為にいっとくけど、うちのナビはマザーの手が入ってるから、運転中の操作不能装置がついてないんだよ。
だけど、運転中はマザーへの電話以外、俺は操作しないように心がけてる。
皆も安全のために気をつけてくれよ?
さて。
「山道を見てごらん。
このあとの道、曲がりくねってるだろ?」
「うん。
曲がりくねってるから道が悪くなるって?」
「いや、決め手はそれじゃないよ。
アイリス、地図の等高線の見方は覚えてるよな?」
「うん、パパに教わった」
「オーケー、いい返事だ。
じゃあ地図の等高線とよく見比べてごらん。
道が曲がりくねってるのはなんのためだ?
地形にそって走ってる、そうだろ?」
「そうだよ……!!」
うんうんアイリスも理解したな。
「アイリスもわかったみたいだな。
俺たちが走ってきたハイウェイは、ある意味地形を無視してまっすぐのびていた。
だが、この道は細いだけでなく、元の地形に添う形で作られてるわけだ」
「うん。
これはつまり……違う人たちが作った道ってこと?」
「あるいは、作られた時代が違うか、だ。
どちらにしろハイウェイのようにまったりとは走れない。
要注意ってことだ」
「わかった」
アイリスは、ちょっと神妙な顔で大きくうなずいた。
しばらく走ると、つながって走るキャラバンに追いついた。
「国境で前にいた人たちだね」
「そのようだな……速いな、もうこんなに離れてたのか」
小編成で、しかも馬車……じゃないな、引いてるのが馬じゃない。
「あれはなんていう魔物なんだろう?」
「んー……わかんない、お館様のデータにもないよ」
へえ。
「しかし、なかなか速いな……おいおい」
追い越しながらスピードメーターを見た俺は、わが目を疑った。
「ずいぶん速いな、ファンタジーな馬車もどきの速度とは思えないな」
「お館様に報告しとく?」
「おう、アイリスが伝えてくれるか?
これは結構、馬鹿にならない速度出てるって」
「わかった」
とりあえず、あまり驚かせないのが一番だろう。
アイリスに窓をあけさせ、挨拶しながら追い抜いていく。
「や、すみません通ります~」
追い越す時は、ひと声かけて。
最後に最も前の車を追い抜いてから、ウインカーを出して左寄せ。
ついでにハザードをつけて、さらに窓をあけて手をふっておく。
「よしよし、手をふりかえしてくれたな」
少なくとも、好意的なサインとは受け取ってくれたようだ。
魔獣が引っ張る馬車、いや魔獣車のキャラバン。
それを追い抜く俺たちの軽四。
ふふふ、いいねえ。旅って感じだ!
ん。
だけど、だけどさ。
「パパ、どうしたの?」
「いや……魔獣車のキャラバンってのは、やっぱりファンタジーだろ?
魔法のある世界だし、やっぱりな」
「?」
「だけど俺たちの車は日本の軽四ベースの改造車だ。
いや、車だけじゃない。
俺たち自身の体だって、マザーが作った、つまり宇宙文明の作品だ。
これってつまり」
「えすえふってやつ?」
「ああ、それだ。
ファンタジー、なのにSF。
いったいどっちなんだろうね、この状況ってさ」
「パパ……」
「アイリス?」
俺が悩んでいると、アイリスがクスクス笑い出した。
「パパは勘違いをしてるよ」
「勘違い?どこが?」
「SF」
「SFが?どういうこと?」
「SFとはサイエンス・フィクション。
つまり、科学的な考証に基づいたおとぎ話。間違いない?」
「ああ、間違いない……アイリス?」
「だから、それがまちがい」
ふるふると、アイリスは首をふった。
そして。
「お、おい、変なとこ触るなって……アイリス?」
なんだ?
「……」
なんか、アイリスが急に大人になったような気がするんだが?
どういうことだ?
「お、おい」
運転している俺に、横からアイリスが抱きついてきた。
あ……なんか、あたたかい。
そして。
「わたしたちはサイエンスかもしれない。
だけど夢物語ではない」
「……俺たちは作り話でも白昼夢でもない、現実だって言いたいのか?」
「でしょ?パパ?」
「ああ、そうだな」
ああ、まったくだ。
そのとおりだよアイリス。




