ゲゲゲと猫
トンネル市に向かう道をパスし、街道を進む。
向かう先には、地図によるとトロメの海という大きな湖があり、街道はそれを北に迂回していくようだ。
途中、ノサク、ザムダ、テランという3つの町があるらしいが、これも通過予定。
北に迂回しきると道は東向きに変わり、その向こうにあるのは国境の町ガゾ。
きいた話によると、ガゾの町までいくと眼前には巨大な、万年雪を上にいただく大山脈の風景が広がり、とてもとてもダイナミックな風景なんだという。
うんうん、とても楽しみだ。
山がらみのダイナミックな風景というと、日本アルプス周辺の思い出がたくさん蘇るけど、日本アルプスはあれで最大でも2千メーター級なんだよね。
対して、ガゾの向こうにある町は、エベレスト以上の超ド級の山が連なるという……。
どんな風景になるんだろうか?
うん、とても楽しみだ。
「ん?どうしたアイリス?」
「パパ、とても楽しそう」
「あー……そりゃ楽しいさ」
俺は思わず、頬をかいた。
「砂漠を出てからこっち、サスペンスなお話が多くてドライブって感じじゃなかったろ?
タシューナンに上がってからは平和だったけど、すごいお客様がきたり招かれたり、あまり落ち着かなかったよな?」
「うん」
「それから開放されて、そんで、今から広がる風景に心躍らせてるわけでさ。
俺はやっぱり、お金持ちでも権力者でもない、ただ旅行好きなだけの一般人だからね。
路銀を稼ぐ必要もなく、悠々自適に旅するのが仕事なんて、まさに夢のようだよ」
と、そんな事をアイリスに説明していて、ふと気づいた事がある。
今の俺って、当たり前だけどお気楽生活じゃね?
そもそも、今の仕事は趣味の延長みたいなもんだし。
マザーたちのおかげで、対人環境の苦労もない。
で、路銀の苦労もない。
食事も、寝床にも全く困らないときた。
なにそれ。
めしの不安も路銀も、寝床も無問題の旅ってなにそれ。
それなんの天国?
いやまて、ちょっとまて。
もしかしてこれ、子供の頃大好きだった懐かしい『ゲ○ゲの歌』状態じゃねーの?
え?わからない?
だからホラ、あれだよ。
おばけは学校も会社も、試験も仕事もなんにもないって意味の、あの歌。
キミも知ってるだろ?
あ、俺、もう死んでたわ。
あれ、そしたら本当に、冗談でなく今の俺ってゲゲ○生活?
いやま、ファンタジーじゃなくてSFだけどさ。
あー……やばい、やばいやばいやばい!
ぜったいこれ、続けたらダメ人間なんじゃないの?
もういないけど、親が聞いたら「ハチ、この甲斐性なしが!」って怒られるよ。
いや、実際に甲斐性なしだけどさ。
でも、どうしよう?
うーん……。
今の俺はマザーの庇護下にあるわけだから、マザー抜きに勝手はできないか。
となると、だ。
よし、エマーンに着いて状況変わったら、改めてマザーに相談する事にすっか。
うむ、よし、くよくよ悩むの終了!
つーわけで今は遊ぶぞ、わはははははっ!
「……パパ」
「どうしたアイリス?」
なんか気づいた事でもあったかな?
でも、アイリスはなぜか俺を面白そうに見て、のたまった。
「パパって、ダメな子?」
「っ!?」
思わずハンドルをあやまりそうになった。あぶねーあぶねー。
「な、なんでそう思った?」
「んー……なんか思いつめたみたいな顔してたのに、急にお昼寝するミアみたいな顔になった。
きっと深刻に何か悩んでいて『ま、いっかぁ!』って投げ出したんだろうなって」
するどいな、おい。
「だいたい合ってるけど、少し違うぞ。
問題はあるんだけど、今はどうしようもないって気づいたんだよ。
だから、あとでマザーに相談しようって……ちょっとまて」
「?」
今、よくわからない単語がきこえたぞ。
「ミアってなんだ?」
「ああごめん、猫のこと」
「ああ猫ね……って、こっちの世界にも猫いるのか?」
「いるよ」
「それは地球の猫か?それとも」
「こっちの猫に相当する動物だね……でも実は地球の猫もいるんだよ」
ほほう?
「迷い猫か何かなのか?」
「人間同様に転移してきたんだよ。
でも猫は人間と違って、見つけたら聖国に知らせる事になってるんだって」
「聖国?」
「中央大陸にある宗教国家だよ。
聖女様の話はきいたでしょ?その聖女様のおさめている国だよ」
「あー、きいたきいた。なるほど」
たしか、鷹司家のお嬢様みたいな人が二百年も仕切ってるって国だよな?
「けど、どうして猫をみつけたらその国に知らせるんだ?……おっと!」
話していると、急に路面が悪くなってきた。
「なんだこれ……ああそうか、ハイウェイが途切れてンのか」
俺たちが走ってきた道は、ずっと昔に作られた、いわば遺跡道だ。
そして古い都市なんかは、だいたいその道を利用するようになっている。
だけど地域にとっては遺跡道が壊れていたり、いろんな理由で似たような道をつくり、元の道とつないでる。
しかし昔の遺跡道とは別モノだから、やはり色々ある。
タシューナン王都近郊にあった白い道みたいにね。
ここの道も、どうやらその手の道らしい。
「道幅はあるし、舗装もまぁまぁだけど……よく整備された林道か険道って感じだな」
つまり油断はできないな。
「アイリス、シートベルトはちゃんとしてるか?」
「大丈夫だよー」
「よし、予期せぬ衝撃に注意してくれ。
ここからは速度も落として、安全第一で行く」
「わかった」
そう言いつつ、俺たちは路地裏の旅のようなペースに落としていった。




