国境をめざそう
商業ギルドでそのまま、ポワンさんに詳しいところをあれこれ質問した。
そうしてわかった事を必要に応じてメモをとり、整理していく。
「しかし便利だ」
「でしょ?」
俺とアイリスは基本、同じ体なんだけど俺は元人間のせいか、能力の使い方がわからない。
ちょうどアイリスにメモやリンクの使い方を習ったところなんだよね。
「いや、これまじで便利だわ」
ハイパーリンクなんて古い言い方があるけど、これはネットでデータを扱う時の考え方みたいなもんだ。
今、パソコンやスマホでどこかにアクセスしている人は、もれなくお世話になっている技術だね。
「便利でしょ?」
「おう便利便利」
おもしろいのは、いろんな機能があるのに地図機能はないことだ。
どうやら地図関係は、マザーとリンクするかスマホを使えってことらしい。
まぁ、いっか。
「では、お世話になりました!」
「ええ、またいつでも来てくださいね。
あなた方は商業ギルドの会員ではありませんので常に、とは申し上げられませんが、できる限りの便宜は図らせていただきますので。
サイカ商会の方々と、それからオルガ博士にもよろしくお伝え下さい」
「はい、お世話になりました!」
こうして俺たちは、再び旅の空に戻った。
窓を開き、町の喧騒を見聞きしながら、ゆっくり町を出る。
そして王都を出て、ハイウェイに戻ったところで窓をしめた。
「よし、打ち合わせしながらゆっくりいくぞ」
「うん」
俺たちは車中で打ち合わせを開始した。
「まずルートについてだけど。
これから俺たちが向かうのは、国境の町ガゾだ。わかるか?」
「うん、わかってる」
タシューナンの王都近郊から東に向かうと、トンネル市って町がある。
これはクリューゲル道という海底トンネルの入り口で、本来はこちらから東大陸に渡れるらしいのだけど、事情で五十年ほど前から閉鎖中。コルテアのムラク道と違い、再開の目処はたってないそうだ。
だからトンネル市からさらに街道を通り、ノサク、ザムダ、テランという3つの町を抜ける。
この3つの町はトロメの海という大きな湖を北に迂回するように回っているようだ。
これはちょうど日本でいうと、京都から琵琶湖を迂闊しつつ若狭湾方面に向かう様子を想像すればわかりやすいかもしれない。
ここでちょっと要注意。
このトロメの海の周辺にはいくつかの小さな集落があるけど、そこは危険なので近づくなと言われた。
ちなみに水中にも水棲人って種族のコミュニティがあるらしいけど、そちらとの接触もおすすめできないと。
これらの領域を過ぎて、再び東に進路をとると、先にあるのはエマーンとの国境の町ガゾ。
ここは隊商用の宿舎のみが広がる町で、関税などでお金が動くため、警備も厳重だという。
で、エマーン国内に入ると難所である北クリネル山脈を越えて、長~い峠越え。
標高数千メーターという、日本ではありえない高さの高い高い峠を越えて。
それが終わって、ようやくクリネルに着くのだという。
なお、この北クリネル山脈は、南大陸と東大陸を隔離する役割もあり、ここ以東ではガラッと世界が変わるらしい。
ほうほう、それは楽しみだ。
「閉鎖的な集落の近くを通るあたりが、要注意ポイントかな?」
「気をつけないとね」
「まったくだ」
旅先での交流は旅の醍醐味といっても限度がある。
さすがに、もう一回殺されたいとは俺も思わないからな。
「マザー、ちょっといいか?」
ナビを操作し、通話モードにしてマザーを呼び出した。
『あいよ、どうしたね?』
「なんか退屈そうだな……船の方はどうしたんだ?」
『一度回収して、こっちで改良中だよ?』
「あ、回収したんだ」
『わざわざ、あの海域から東大陸まで航海するのは大変だからね。
それと武装の威力の方も上方修正中だよ』
「そうか……てっきり、宇宙戦艦に改造するつもりかと」
『は……ははははっ!そんなマネ、するはずないじゃないか、はははっ!』
「あれ、改造じゃなくて新造したの?」
『いや、素材として問題なかったからねえ……!?』
ああ、ハメられたと気づいたな。
「改造なのか。
完成したら是非みせてくれよ、乗ってみたいからさぁ」
『ああもう、わかったよ、ほんとにもう!』
「ははっ!たのむな!」
この程度なら怒らないし、ノリもいい。
まったく素敵だよ、この婆さんは。
「それで、これからとるルートなんだけどさ、陸路で国境ぬけて山越えしようと思うんだ。
マザーはどう思う?」
『どう、とは?』
「きいた話じゃ、かなり昔からの歴史ある街道らしいんだよな。
それでだけど、何か俺が調べるような事はある?」
『ほう……』
マザーは少し考え込んだ。
『仕事熱心で結構なことじゃな。
ではなハチ、南大陸側からの山越えの時、街道を調べながら行ってくれるかの?』
「街道を調べる?」
『探査情報によると、その山脈は内部に大きな空洞があるらしいんじゃが。
しかも、昔はそこに入る道があったっていうんじゃな。
でも、それらしい入り口がなくてな。
おまえさんの目線で、入り口探しを手伝ってくれるかの?』
「へえ……」
『どうじゃ、できるかの?』
「ああ、やってみるよ」
『そうかい……じゃあ頼んだよ』
「おう」
船の改造遊びに忙しいのか、マザーの通信はそれで切れてしまった。
しかし、今度はアイリスが首をかしげた。
「どうやって探すの?」
何か特別な技術でもあるのか、とアイリスは言いたいんだろう。
なるほど、俺の記憶をデータとして持っているはずのアイリスでもわかんないのか。
ま、そりゃそうか。
人間の記憶なんてたぶん、ものすごく主観的なもんだろうし。
客観的なデータはとれても、主観的な「気持ちの変化」は難しいのかもしれないな。
「特別な事はしてないよ。
あとで実践してみるから、アイリスも意見をくれると嬉しいね」
「ん、よくわかんないけど、わかった」
俺たちはうなずきあった。
「じゃあとりあえず、今日はトンネル市をめざそう……でもトンネル市ってすごい名だな」
「そう?」
「ああ、すごい名だ」
閉鎖中の大トンネルの入り口があるらしくて、そこからついてるようだけど……。
普通それなら、トンネル西入口市とかにするんじゃないのか?
そんな事を考えつつ、俺たちは走り続けていた。




