商業ギルド
「改めてこんにちは、商業ギルド・タシューナン支部のポワンです」
「はい、どうもすみません。ハチです」
「アイリスです」
ギルドの来賓室に案内された俺たちは、改めて挨拶した。
バラサのルワンさんもそうだけど、なんつーか……動くぬいぐるみだよね羊の人たち。
「あの、ハチさん?」
「あ、はい」
「わたしたち羊人族はにんげんですからね?お持ち帰りはできませんからね?」
「すみません」
むっちゃ読まれてた。
「ひとつ提案したいんですが……」
「等身大ぬいぐるみの話なら却下です!」
え?
「あの、なんでわかるんですか?」
「よく持ちかけられるんですよ……特に異世界の方に」
うわぁ……。
「ああ、その『ものすごく同意』ってお顔!
……ハチさんって本当に異世界人なんですねえ」
「変な納得の仕方、しないでほしいんですが……って、ほんとに異世界人って?」
どういうことだ?
「もしかして、出自を疑われていたんですか?」
「わたしたちは特別な方法で、生体構造などを調べるんですよ。
ハチさん、お体が人間のものではありませんよね?」
「……ああ、違いますね」
俺の身体はつまり、宇宙人製サイボーグだもんな。
たしかに人間じゃないわな、肉体だけ見れば。
「あ、そうか。
肉体が別モノなんだから、会話や反応で判断するしかないのか」
「そうなんですよ。
ちなみに個人情報などお聞きしてもよろしいですか?
あ、本名は言わないでくださいね?」
「名前で縛るとか、そういうのがあるんですよね?」
「はい、そうです」
「わかりました、では本名は言いません。
通称ハチ、日本人です。
向こうでの住所は──」
つらつらと個人情報を並べると、フムフムとポワンさんは納得した。
「確認のすべがありませんけど、お聞きする限りは普通にあちらの方ですね。
ちなみに、ご住所が近い方は過去に何人か記録されていますね」
「そうなんですか?」
「はい、四百年ほど前に『ヨコハマ市ミドリ区』というところからいらした方が……」
「え、四百年前?」
なんだそれ?
「あの、四百年前に『横浜市緑区』はないと思うんですが」
「あら、ルワンから聞いてませんか?
双方の時間は同期していないそうなのです」
「いや、覚えてない……聞いてないかも。
コルテア首長さんの話とか、危険情報が中心だったから」
「ああなるほど、わかりました……では改めてご説明します。
わかりやすい例ですが、聖国の聖女様、シオリ・タカツカサ様についてお話しましょう」
タカツカサ……やっぱり鷹司家なんだろうか?
本物なら、五摂家のひとつなんだが……偽名だよな、な?
「彼女は二百年ほど前に転移してきた方です。
この方が実は最近、ウエストなる男性と婚約が発表されたのです。
ウエスト様は十年ほど前に転移してきて、最近まで他の国に囚われていたようなのですが……。
なんと、実は聖女シオリ様は元の世界では、ウエスト様より90歳ほど下だったとか」
「え、じゃあ90歳差がひっくり返っちゃったってこと?」
「そもそも、シオリ様は元の世界では、ウエスト様の玄孫だったそうですから」
「げ、玄孫!?」
玄孫……たしか、やしゃごの別名だよな?
要するに、曾孫のさらに子供。
「なんでそれが、百年以上年上にすり替わってんだよ……」
「時間が同期してない事を示す、よい実例ですよね?」
「まぁ、そりゃそうだが」
むちゃくちゃだろ。
スケール感がおかしくなりそうだ。
「けどそれ、いいの?遠いとはいえ直系子孫との結婚だよね?」
忌避感とかないんだろうか?
「結婚なさるといっても二番目の妻で、本妻は聖女様の又姪にあたる女性なんですよ」
はぁ?
「ど、どういうこと?」
ハーレムってこと?
「導き婚という風習がありまして、年長者が第二夫人となって若い夫婦のサポートをするんです。
聖女様は本妻となる方をとてもかわいがってらっしゃるそうですから」
「ああ、よくわかんないけど了解」
フタマタで聖女様が次席なのかと驚いたけど、そもそも結婚制度そのものが違うっぽい。
なるほどと納得していたら、なぜかポワンさんがニヤリと笑った。
「でも、こんなお話もあるんですよ?
なんでも、ウエスト様は、聖女様の初恋の人だったんだとか」
「うわぁ……」
くふふ、と楽しげに笑うポワンさん。
なんというか。
彼女にはじめて『女』を感じた瞬間だった。
「そろそろ本題に入りましょう。
実は、ハチさんにお手紙が届いているのです」
「え、俺に手紙?」
誰だ?
「オルガ・マシャナリ・マフワンという魔族の方です」
「魔族……会ったことのない人だと思います」
「そうでしょうね」
クスっとポワンさんは笑った。
「この方は魔導機械や古代魔術を専門とする学者で、エマーンの『サイカ商会』が出資しています」
「サイカ商会ですか?」
「はい」
たしか、接触を勧められていた商会だ。
「サイカ商会は魔族や異世界人と友好的な関係を作り上げてきた歴史があります。
一般には猫人族のみの血縁集団と言われるサイカ商会ですが、実は初代のサイカ・スズキは異世界人であり、彼が最も愛し、共に過ごしたのが猫人族の女性だった事からそうなったとされています」
「あー……それで『サイカ』なんですね」
「やはり、名前が気になっていましたか?」
「はい」
異世界人ってことは、やっぱり意味は雑賀なのか。
雑賀衆ったら、よく知らないけど和歌山あたりだろ。
あっちの方の人だったのかな?
「オルガさんの発明品はいくつかありますが、空間魔法を利用するものが多く、商品化と販売をサイカ商会が受け持っているのです。事実上のお抱え学者兼開発者といった感じですね。
といっても常に商会にいるわけでなく、普段は主に東大陸のあちこちにある古代の施設をまわり、研究や維持管理の仕事をしているのですが」
「ほう」
なんというか、ファンタジー作品やゲームに登場しそうなタイプの人だな。
「そのオルガさんなんですが、あなたへの手紙に、こんなものを添えてきています」
「え?」
俺は、見せられたものを見て驚いた。
「これ、写真じゃないですか!」
まぎれもなく写真、それもカラー写真だった。
「まだいろいろとあって普及していませんが、おっしゃる通り、写真機で写したものです。
しかし重要なのは、写っている『車』の方じゃありませんか?」
「ああ、たしかに」
そこには。
黒髪の妖艶な女性と……かなり古い型の幼稚園バス『トヨタ・コースター』が写っていた。
「それと、これが手紙です」
渡された手紙は、紙質こそ日本のとは違うけど、書かれていたのはちゃんと日本語だった。
──はじめまして、異世界からの旅人ハチどの。
私はオルガ・マシャナリ・マフワン。魔族の学者だ。
君たちと、そして君たちの上司である方に協力を依頼したい。
ひとつは、私の入手したこの車、トヨタ・コースターを走るようにしたい。
もうひとつは、あなた方の時空転移の時の情報があれば、なるべく詳しく。
詳しくは、クリネルのサイカ商会本部で──
「どうなさいますか?オルガ様にお会いしますか?」
「ぜひ」
俺は即答した。
「では、そうお返しします。
オルガさんは一ヶ月ほどエマーンに滞在なさるそうですが、でかけてもサイカ商会に話をすれば通じるはずです。
ですので、エマーンに向かわれたら、とにかくサイカ商会に接触してみてください」
「わかりました」
おお。
なんか楽しみが増えたぜ!




