怪物退治?
『ただ問題もないではないんだけどネ』
「どういうこと?」
『出力さ。
安全面はいいんだが、何しろ旧式で出力が低いんだよ。
こっちの方が出力が上で、しかも動き回ってるから目立つんだろうね。
どう出力をおさえても、この船そのものからは離れてくれやしないんだ』
「マジか」
『仕方ないさ、なんたってオン・ゲストロ時間で1万2千年も前の型だからネ』
「い、一万二千年前の核融合炉?」
『そうさ、しかも稼働中のね……立派なもんだろ?』
そ、そりゃすげえ、すげえけど。
「大丈夫なのかよそれ?」
『技術的に枯れまくってるから問題ないだろ。
だいいち反応炉なんて、虫歯につめるようなもんじゃないか。人体に組み込めるんだから問題ないさ』
「いや、ちょっとまてや」
『?』
「なんで原子炉を虫歯につめるんだよ、なんなんだよそれ?」
なんかサラッと、とんでもない事いいやがったぞ、このばばあ。
『誰がばばあだい、まったく。
結論からいえば、アルカ……おっと失言だ、人間の歯の治療の際、歯垢対策に自動浄化の仕掛けを組み込むところが結構あるんだけどね、その動力源に超小型核電池を歯のひとつに仕込む地域があるのさ。
まぁ動力源はさまざまで、生体の微弱電流を増幅して間欠動作させるとか、工夫しているところも多いけどネ』
「へえ……でも俺はごめんだな」
口の中に原子力発電所いれるようなもんだろ、それ。
さすがに怖すぎるわ。
『けど、なかなかおもしろい流用をしている地域もあるんだよ?
たとえば、口の中に森林ひとつぶんの光合成を行うプラントを仕込むケースがそうだね。
さすがにそのクラスになると、サイボーグ化するか小型原子炉でないと、どうしてもネ』
「ネ、じゃねえと思うけどなぁ……すげえな宇宙文明」
俺はイヤだと思うけど……つまり、口の中に仕込めるほど原子炉の安全性が確保されてるんだろ?
それはたしかに凄いことだろう。
『話を戻そうかね。
それで、あやつは元々あったプラントにはりつき、おこぼれをもらっていたんだろうさ。
ところがある日、強力で、だけど移動力のあるエネルギー源をみつけた』
「で、そいつを追いかけてきたと。
理屈は合うけど、で、それでどうすんだマザー?」
『もちろん、わざと、あそこにとどめてるのさ』
「と、とどめる?」
『水面をよく見てごらんハチ、今の、あんたの目なら少しはわかるはずさ』
「えっと……あ」
言われてみて気づいた。
水中を何か、白い筋みたいなのが伸びていく。
そして水面下でドン、ドンと命中している。
「あれは」
『魚雷だよ』
うお、魚雷の航跡なのかアレ!?
「もう始めてたのか、いつから?」
『少し前からだネ』
「……なんで俺、気づかなかったんだろ?」
『アレが暴れてたからねえ』
なるほど。
音と水柱の中に、あいつでなく魚雷のやつが混じってたわけか。
『何発か命中してんだけど、相手が大きすぎて効果が薄いんだよ』
「それで、船の一部にわざと食いつかせたってわけか」
『正解、まぁホントに厄介なやつだよ』
「え、そこまで強敵なの?」
いくら巨大でも、相手は軟体動物だよね?
マザーなら、核魚雷顔負けの化物だって作れるだろうに。
『ハチ、そんな強力なもん、いきなりぶっ放したら周囲に影響出ちまうんだよ?』
「あ」
それもそうか。
ここ、対岸が見えるくらい陸が近いんだった。
『兵器ってのはね、強力すぎると逆に使えないんだヨ。
それに、言ったけど想定していたのは人造の船だからね、これはさすがに想定外で……おっと、そろそろいいかね』
「?」
『うん、よしいいよ、発射!』
ん?何を発射するんだ?
「お?」
どうやら機銃を掃射したらしい。
触手めがけて何かがたくさん撃ち込まれて……お、おぉ?
「なんだ?」
なんか白い煙みたいなのが、ボフッボフッて感じで、何か命中するたびに広がっている。
そして、巨大な触手がゆっくりと、でも明らかに逃げ出すように……捕まえていた砲台も取り落として海に引っ込み始めた。
「えっと、いったい何を撃ってるんだ?」
『実験用の弾丸さネ……ちなみに主成分は塩化ナトリウムだよ』
「塩化ナトリウム……塩の弾丸!?」
『そうさ。
もちろんただの塩じゃなくてネ、相手の周囲を包み込み、こう、塩にまぶしてシェイクするような効果を与えるのさ。
名付けて、「塩もみ弾」ってとこかねえ?』
「……」
「……」
「……あの、お館様?」
『な、なんだい?』
「マザー、名付けのセンスも残念だったのか」
『どういう意味だい?わかりやすくていい名じゃないか?』
「そりゃあ、わかりやすいけどさ……さすがに『塩もみ』はねえだろ」
「お館様……」
『な、なんだいアイリスまで一緒になって』
「マザー、武器に食材みたいな名前は、さすがにやめとこうよ。
俺もそういうセンスは自信ないけど、手伝うからさ。な?」
『うーん……そんなにひどいかい?』
「ダメだな」
「お館様……もうしわけありません、わたしもちょっと」
『はいはい、わかったわかった、あとで考えて決めとくれ』
結局、クラーケンは逃げていってしまった。
「え、逃げられたの?」
『ダメージは通ったんだが、どうもキズなどを高速回復できるようでね。
だったらと飽和攻撃に切り替えようとしたら、あっというまに逃げちまったよ』
「あー……なんかヤバイって気づかれたんじゃね?」
『まさか……いくら巨大でも相手は軟体動物だよ?』
「いやいや、ありうるって。
見えてる魚は釣れないって言うだろ?
俺らにはよくわからなくても、彼らにはわかる何かがあるのかもよ?」
『……なるほど、たしからありえなくもないネ』
ふむ、マザーとしてはタコに高い知能があるとは考えにくいってことか。
「マザー、タコは無脊椎動物でも屈指の高い知能をもつって話を聞いたことがあるぞ。
ボトルの蓋とかも学習で開けちまうんだぜ?」
『ほう……そうなのかい』
「おう」
これは本当らしい。実際にきいたことがある。
『そいつは知らなかったね。
わかった、少し知能ランクを底上げして試してみようかね』
「おう、頼むぜ」
『ふふ、頼まれるまでもないわ』
そういって笑ったマザーだったが、そのうち、ポンと映像の中で手を叩いた。
『そうだ、忘れるところだったよ。
ハチ、タシューナンに着いたら、あんたに会いたいという男がいるヨ』
「え、俺に?」
『そそ、あんたにだ』
「俺にねえ……マザー、そいつ何者?」
『それはねえ……』
そこまで言ったところで、マザーはなぜか、俺とアイリスを見た。
そして、フフッと微笑んだ。
『それは、会ってからのお楽しみかネ』
「え、へんなひと?」
『なんでこの返事で、そういう解釈になるのかネ』
ぽりぽりと映像の中で、マザーは頬をかいた。
『敵意がないのは確認しているが、軽くは扱えない人物なのサ。
そして今回は、アイリスと共に会う事にもなるだろ?
来客対応や人物に関しての読み取りも含め──』
「なるほど、色々と見極めろってわけだ。わかったよマザー」
『そうかい……ま、理解できているなら任せたよ?』
「おう、わかった」
虫歯につめる原子炉:
漫画家、長谷川裕一作品へのオマージュです。
漫画『マップス』の中で、歯の治療時に埋め込んだプラントの動力源として、隣の歯が小型原子炉になっているというものがあります。




