蛸の怪物
マザーの作った船は、とりあえず見た目だけは太平洋戦争期の日本戦艦だ……ハリボテだけどな。
ではその裏側はどうなっているのかというと、むしろ俺の知るいくつかのカーフェリーの中に似ていると思う。
要するにだ。
俺の記憶にあるいろんな『船』のデータをかき集め、古い写真データからまずハリボテを作った。
で、その中を色々なもので埋めていった……この謎の戦艦大和もどきは、どうやらそういう代物らしい。
あまり美しいとは言えないかもだけど、まぁそれは実験船って事だよな。
『いらっしゃい、好きな席につきな』
艦橋に入ると、いきなりマザーのウインドウが出迎えてくれた。
だけど俺はちょっと言いたい。
「これ、どちらかってーと『宇宙』がつく方の戦艦の司令室じゃね?」
外から見ると本家の方なのに、なんで?
初代艦長の遺影が飾られていそうなところに、マザーの大きな映像があった。
しかもご丁寧に、初代艦長のコスプレまでしている……ノリノリじゃん。
『オリジナルは細部の資料がないけど、こっちは映像資料があるからネ』
「なるほど」
言われるままに席についた。
『装置類は触るんじゃないよ』
「ういっす」
なんか作業員やレーダー員らしい黒子ロボットたちが、せっせと働いていた。
そして時々、なんか船体全体がグラグラと揺れる。
「で、外はどうなって……おおぉ!?」
窓の外を見た俺は絶句した。
「ちょ、クラーケンて、この船よりでかいの!?」
なんか、とんでもないシーンになっていた。
まず戦艦のサイズだけど、どうみても長さ数百メートルはある。
その巨大な戦艦に、さらに巨大なクラーケンが巻き付いていて……しかも、まだ本体はどこにも見えない。
なにこの怪獣大決戦状態!?
たとえるなら……ああ、アレだね。
昔よく、子供向けの動物図鑑とかに、マッコウクジラVSダイオウイカの格闘図みたいなのが書いてあったよね?
アレに近い。
ただしイカがクジラより大きいので、絵柄がさらにひどいけどな。
『まさに海の怪物だねえ』
まったくだ。
だけど俺は、マザーの次のセリフで、さらに目を剥く事になった。
『しかしまさかこの歳で、しかも、ありあわせのチャチな武装で、よりによって伝説のクラーケンと戦う羽目になるとはねえ……なんともいえない気分だねえ』
「え、マザーの故郷にもクラーケンいたのか?」
『言っとくけど、実際にいたのはあくまでイカやタコに相当する生物だよ?』
「そりゃそうだろ……って、そうじゃなくて、怪物伝説の方があったって事?」
『ああ、あったよ。
実はね、宇宙文明がさっさと発達したせいで深海の研究は地球以上に遅れていたのさ。
そのせいで、よその恒星系に到達するほど文明が進んでも、未だに大型イカの新種が発見されてたよ』
「へえ……」
おもしろいな、それ。
まぁ地球に似た魚がいて、釣りまである世界だもんな。
それでイカタコまでいれば、似た状況になっても不思議はないか。
「っておい、なんかやられてるぞっ!」
一番前の主砲……なんていうんだアレ?
それに巻き付いた巨大なタコの足が、砲台を引き抜こうとしてないか?
『一番は鋼鉄製だからねえ。ははは、さすがの馬鹿力だね』
「のんきに解説してる場合かよ!どうすんだよ!」
『こらこら、落ち着きな。
結論からいえば、あれは釣りエサだからいいのさ』
「え、釣りエサ?」
『あのタコ野郎だけどネ、どうやらこっちのエネルギーに寄ってくるようなのさ。
だから動力炉のパワーを絞り込んで、一番の砲台だけに隠蔽なしでチャージをしてみた……その結果がアレさね』
「へえ……よくわからんけど、じゃあ、わざと吸い寄せたってこと?」
『ああ、そうさ』
へえ。さすがマザー、器用な事するなぁ。
『これはあくまで推測なんだがね。
あれほどの巨体だ、同様の大型生物を食うだけでは足りないんじゃないかね?』
「あー……なるほど、ありうるね」
怪獣映画の化物そのものの巨体だけど、あれは架空でなく現実の生き物だ。
地球の生き物を見ればわかるけど、超のつく大型種はいつの時代も、いわゆる濾過捕食者や草食動物ばかりだ。
これはどうしてかというと、肉食動物はエサとなる動物より大きくなれない、なったら栄養が足りずに餓死してしまうかららしい。
恐竜時代に、なぜ大型の肉食恐竜がいたか?エサとなる、より大きな草食恐竜がいたからだ。
かつて、メガロドンって大型サメがいたらしいけど……こいつが生きていた時代にもやはり、エサとなる超大型のクジラや魚類がいたらしい。
生物は、自分だけでは生きられない。
船よりでかいクラーケンがいるってことは、その巨体を維持するに足りるエネルギー源がどこかにあるはず。
しかし、少なく見積もっても300m近い戦艦より大きなクラーケンとなると……いくらなんでも、数百メートルからキロ級の大型動物がホイホイいたら、それはまずいだろうってわけだ。
だから、個体としての大型動物でなく、別の形で何か食っているんだろうってわけか……なるほどな。
「って、ちょっとまてマザー。
じゃあ、あいつの目的は最初から、この船のエネルギー源ってこと?」
『おそらくそうだネ』
「それは推測だけ?それとも……」
『ああ、今まさにリアルタイムで、船のエネルギーが不自然に減少しておるよ』
「大問題じゃん!」
『おちつけハチ、そこまで切羽詰まってはおらん』
マザーは、すました顔で続けた。
『コルテアの市街から少し東にいったところあたりの……おそらく海底だが、稼働中の核融合炉があるようだよ。反応からすると、オン・ゲストロで昔よく作られていた方式のものだネ。
おそらく、あのクラーケンは本来、そっち狙いでこの海域にいたんだろうさ』
「え、ちょっと待った」
『またストップかい、今度はなんだい?』
いや、なんだい、じゃないだろ。
「稼働中の古い原子炉が近くにあるってこと?大丈夫なのかよそれ?」
しかも核分裂炉でなく、核融合炉ときた。
事故が起きれば、チェルノブイリなどの比じゃないんじゃ?
『オン・ゲストロの方式なら問題ないよ、あれはよく安全策がとられているし実績もある。
それに稼働中のシステムじゃが、管理しておる者がおってな、きちんと保守が行われておるよ』
「え、管理人がいる?」
剣と魔法の世界で、核融合炉の保守する人がいるって事?
何者だそれ?
『うむ、ドワーフ族という者らしいぞ。
実はこの船のテスト時に施設に近寄りすぎてな、えらく警戒されたので対話で情報を伝えてある。
保守専業でなく、海底施設に動力を送るプラントとして使っておるようじゃ』
「へえ……技術レベルも問題ないの?」
『調べた限り、ないのう』
それはすごい。
『あいにく今は交流が難しいけど、いずれ尋ねてみるのも面白いだろうね』
「それは楽しみかも」
いや本当に。
「それで話は戻るけど、要するにマザーはあの砲台にわざとひきつけてるわけ?」
『ああ、そうともさ。
こっちの手持ちの魚雷をぶちこむつもりだけど、人間国家対策用に作ったやつだから、威力が足りなくてね。
数をぶつける必要があるから、ひきつけて動きをとめているわけさ』
「あ、なるほど」
「……」
クラーケンに核融合炉て……どんな取り合わせだよ。
ファンタジーなのかSFなのか、ハッキリしてほしいねまったく。




