どんぶらこっこ…ぎゃあっ!
突然だけど、旅行なんかでフェリーや、それに類する船に乗った事あるかな?
鹿児島や尾道なんかに就航している内湾航路の船だと感じにくいけど、基本、やはり船は波の上で揺れるものだ。
だけど──俺たちの森林公園は車の中で隔離されたような空間なので、それを感じられないんだな。
え?それがどうしたんだって?
つまり……。
「うお」
森林公園から車の中に戻った途端、ゆったりとした揺れが俺の身体を襲った。
「船が……揺れてる?」
「海が荒れてる?」
「見に行ってみようぜ」
「うん」
車の外に出たら、そこはフェリーの車両甲板みたいなとこだった。
ただしフェリーと違うのは、車は俺たちのだけって事。
広い空間のあちこちには、何かよくわからない機械の見本市みたいになっていた。
「おい、なんか人型メカまであるぞ?」
「パパの記憶から作った試作品だって」
「実験場になってるとは聞いてたけど……こりゃあ、かなり遊んでんな」
「遊んでる?」
「楽しんで作ってるっぽいってことさ。
ま、楽しんでるならいいことだな」
「そうなの?」
「ん?そりゃそうだろ?
同じ人生なら、カリカリしてるより楽しんでる方がいいに決まってるじゃん」
ま、これは俺の勝手な考えだけどな。
同じ人生なら、楽しいに越したことはないだろう……そう思うんだ。
俺たちはそんな話をしながら、甲板にあがっていった。
「おお」
重い鉄の扉を開いて外に出た俺は、眼前の大海原に思わず声をあげた。
「これは……すごいな!」
まだ外は明るくて、そして思ったよりはるかにきれいな海が広がっていた。
甲板のはしっこには柵があり、一応だが人が落っこちない程度にはなっていた……が、それは旅客船にあるようなしっかりしたものでなく、いざという時は簡単に外れてしまうようなものに見えた。
それはつまり、用途の違う船って事なんだろうな。
柵について海の中を見る。
「おー……きれいだけど、なんだか寒そうな海だな!」
色というか雰囲気というか、なんかこう、北国っぽい重さを感じる。
だが、きれいな海だ。
対岸の遠くには陸地が見えるが……これは少なくとも、瀬戸内海の対岸よりは遠いかな?
「アイリス、この船は東に向かってるんだよな?」
「そうだよ」
「すると、あれは南大陸か」
たしか予定だと、明日の朝近くに例のタナ・タナなる町に近づくはずだ。
改めて、船の全容を見上げる。
「……戦艦だよなぁ」
俺は自衛隊の艦船を知らないわけで、これもやっぱり、創作物や写真で知る、先の大戦時代の戦艦の艦橋そのものだった。
前後には3つの砲門をつけた巨大な大砲が、ドン、ドンとすごい迫力で鎮座している。
「でっけーなぁ……例の46センチ主砲ってやつかな?」
『まぁ、見た目は似せてあるけどネ』
お、きたきた。
「おはようマザー、ごめん迷惑かけた」
『別にいいさ、それより調子はどうだい?』
「体感的には問題ねえよ、ありがとう。
それよりマザー、そっちはどうだったんだ?コルテア首長の件は?」
『ん?アイリスに聞いたんじゃないのかい?』
「ああ、もちろんきいてるさ。
でもアイリスとリアルタイムでつながってるわけじゃないんだろ?」
『ああ、最新情報ってわけかい。
なるほど、まぁそれじゃあ簡単に説明』
説明するが、とマザーが言おうとした、その時だった。
「……?」
なんだこの揺れ?
微妙に何かこう……?
「ん?」
今、チラッと見える海中で何か動かなかったか?
いやまて、それより。
この揺れ、なんでマザーは気づいてないんだ?
「マザー、おい婆さん!」
『なんだい?』
「この船って、海中にセンサーつけてないのか?」
『センサー?ああつけてるよ、今のとこ反応はないけどネ』
「なんか変だぞ、ていうか海中に何かいるんじゃねえか?」
『なんだって?でも反応は』
「うん、ないのはわかる。
けど何か今の震動は変じゃな──!?』
まただ、今度は揺れが大きい。
マザーの顔色も変わった。
『ハチ、アイリスも中へお入り!今すぐ!』
「おう!」
「え?え?」
「こっちだ!」
俺はさっき出てきたドアを開くと、なんかボケてるアイリスをつかまえ、中に引き込もうとした。
その瞬間だった。
「うえ!?」
「!?」
げ、なんだアレ!
俺たちは眼前の光景にパニックしながらも、急いでドアをしめた。
ドアごしに、ダン、ダンとぶつかる音を聴きながら、念入りにドアを施錠した。
「い、いまの、なに……」
「タコの食腕っぽかったよなぁ」
「まってまってパパまって」
「ん?」
「あれがタコだったら、本体どんだけおっきいの?」
「ああうん、ちょっと考えたくないな」
俺たちは、顔を見合わせてためいきをついた。
「……確認したくないけど、しないとなぁ」
「なにを?」
「いやだから、さっきの。クラーケンなのかって」
「くら……けん?」
「クラーケン!……俺の記憶で、海のモンスターの項目引っ張ってみな?」
「あ、クラーケン……クラーケンって!?」
アイリスは、まさかという顔をしてこっちを見た。
「だって、さっきの足……やっぱタコだろ?」
「……だよねえ」
「な、な、確認しようぜ?」
「わかった、いこうパパ!」
「アイリス、艦橋へ連れてってくれ!」
「わかった!」
俺たちは、揃って駆け出した。




