てやんでえ旅情[3]
「こりゃいい、根がかりしないのがまた最高だな!」
「パパ、またきた!!」
「よし、がんばってみろ!」
え?何をしているのかって?
もちろん釣りである。
たどり着いた湖畔にレブルをとめ、俺たちは釣りをはじめた。
マザーが用意してくれた道具が予想よりはるかに扱いやすく、日本のもののスーパー版って感じだったからだ。
……けど、俺が釣り上げたのは最初の二尾だけで、あとはアイリスに任せた。
なぜかって?
持ち帰れないほど釣れそうだったからだよ。
だったら、はじめての釣りであるアイリスに楽しませたいだろ?
アイリスが格闘しているのを横目で見つつ、俺は自分の仕掛けを収納していた。
その脇には、乗ってきたレブルが停車している。
ヘルメットホルダーがひとつしかないので、アイリスのヘルメットをかけ、自分のヘルメットは右のミラーにかけてある。
そのレブルの横には、柔らかい畳める大きなバケツがあるのだけど……中身は、初心者が楽しむにはいいサイズの魚が数尾。
「しかし、なんつー爆釣れだい……どんだけ魚いるんだよ」
ホンダ・レブルは荷役にはあまり向かない単車だ。
多少の釣果ならともかくこれだと、最悪、ピストン輸送が必要だろう。
俺が自分の道具を収納してしまうと、アイリスも従おうとした。
でも俺は笑って、「もう一本は積める、ラストはアイリスに任せた!」と言って激励してやった。
やはり釣りたかったのか、アイリスは笑顔で釣りを再開。
それを横目で見つつ、俺は道具を確認した。
「それにしても……よくできてるなぁ、これ」
釣り竿は地球のものと見た目だけなら全然同じだ……ただし、いわゆる延竿に近い柔らかさの中にも、芯の強さも感じるものだ。
こんなので釣り上げる宇宙の魚って、どんなやつなんだろうなぁ。
そんで、一番色々とおかしいのは、とりつけてあるリールの方。
なんとこのリール、3Dプリンターよろしく道糸と仕掛け、針までも、その場で生成するのだ。
宇宙の釣りでは撒き餌禁止、金属製などのルアーも禁止と、さらに手作りフライなども禁止らしい。
いや、厳密にいうと、宇宙の手作りフライというのはデザインするもので、生成は機械でするんだと。
なんでそんな事をするかというと、一定時間で分解され、水と植物繊維に還ってしまう素材だからだって。
そう。
つまり、たとえ根がかりなどで仕掛けを切ってしまっても、あとには残らないための仕組みだな。
よくできてるもんだ。
いや実際、後日ここで泳ぐ事もあるかもしれないし、ありがたいけどな。
うーん、まさにオーバーテクノロジー世界の釣りだ。
でもまぁ、釣りはやっぱり釣りなわけで。
扱い方をデータで持ってたアイリスと、ああでもない、こうでもないと二人で釣りを楽しんでいたわけだが。
「パパ!あがった!」
目を向けると、なんと50cmはあろうかって大物を釣り上げていた。
文句なく、本日最大サイズだ。
「でかいな!よし、それでラストだ!」
「えー、もっと釣りたい……」
「だめだめ、これ以上釣るとさばくのも大変だし、だいいち食いきれないぞ?」
釣り上がった元気な魚をスマホで撮影すると、ごつい手袋をして針を外す。
え、なんで警戒してるのかって?
釣り上がる魚が、どうみても海の魚なんだよ。
ああ、ちなみに、こんなやつらしい。
『クロコ・クマロ』
本来は海底付近にいる魚だが、汽水や淡水にも耐えられるため、何かの理由で遡上している事がある。
雑食性だが特に甲殻類を好んで食べるため蟹食いの名で知られる。雑食性にしては美味であり、好まれる。
注意点としては、彼らの系統種族は全てヒレに毒を持っている事。食性による蓄積毒であると言われるが、よくわかっていない。
クロコ・クマロの毒性は時代と共に衰えているという指摘もあるが、今でも充分に有毒である。捕獲時と食べる時は、ヒレのトゲに注意すべし。
現地名の情報源はアイリス。
やっぱり、トゲがあぶないヤツか。
カサゴやオコゼを思わせる、地球でもトゲのあるヤツって感じだったから、まさかと思ったけどね。
魚をよく知らない人のために言っておくと、地球のカサゴやオコゼの仲間も同様にトゲを持っているんだよ。
だから、見た目で「これはやばいのでは?」と警戒したんだ。
やはり似たような環境で育つ、似たような魚だからこそ、生活史もひいては構造も似ているんだろう。
ただし、ここの湖水が真水でなく、むしろ汽水に近いらしい事もわかった。
今回はゲットしてないけど、テナガエビらしいのがいるのも判明した。
まぁ、あれは泥を吐かせるのが面倒だから今回は見送ったが。
「戻ったら、まず全部さばいて、それから半分は干物にしてみようかね」
「干物にするの?」
「おう、だって冷蔵庫がないからな!
さすがにこれだけの量、昼と夜だけで食べ切れるか?」
「あ、そっか……保存かぁ」
「おう、まぁ干物づくりはしてみるし、冷蔵庫製作はマザーに頼もうや」
「うん」
おや、ちょっと沈んじまったな。
「というわけで、次からは食べる分だけ釣るぞ」
「え、釣ってもいいの!?」
「食べる分だけな。
アイリス、『釣ったら食べるのが礼儀』なんだ。忘れちゃダメだぞ?」
「釣ったら、食べる?」
「そそ」
俺は多くを語らない。
だけど、釣ったら食べる──これだけは教えないとな。
なぜなら。
命を一方的に弄ぶような存在に、アイリスは育ってほしくないから。
結局、釣った魚はビニール袋やかばんなどを駆使し、なんとかキャンプ場まで持ち帰った。
本当は現地で解体すれば整理もついて軽くできたが、炊事場も何もない場所だったしな。
んー……これは逆に、レブルに簡易天幕を積んでいって、現地で解体してきた方がいいかもしれないなぁ。
うん、次からそうしよう。
キャンプ場まで無事戻った俺は、レブルをとめ、運んできた魚を降ろした。
そのまま解体に移る。
「お手伝いする」
「おう、ありがとな」
やらせてみると、アイリスは俺の想像よりもはるかに器用で、料理スキルもある事がわかった。
というか、俺よりずっとうまいだろこれ。
「大したもんだな」
「勉強したから」
「そっか」
仮想空間で学習していたって事か。
そりゃあ、ぼっち暮らしで惣菜食べてた俺が勝てるわけないな。
俺はアイリスの横からコメントする事にした。
「内臓はきれいにとらないと、ニオイがうつるっぽいね」
「そうだな……底の魚だし、その方がいいだろう」
内臓などが臭う魚というのはつまり、食べているものや水質の汚濁を取り込んでいるのだろう。
だけど肉はその限りじゃないわけで、そういう魚は内臓や皮を、いかに汚さずに排除するかが肝なのだ。
「パパ。残り、わたしがやっていい?」
「ああ任せる、ていうより、俺がおまえに学ぶべきだなこりゃ」
「そこまで上手じゃないよぉ」
いやいや充分うまいだろ。
「まぁ頼む、俺はこっちを塩して干してみるわ」
「うん!」
アイリスはうれしそうに取り掛かった。
そうか、お役立ちが嬉しいか……。
俺は苦笑すると、干物づくり用に別枠にしたやつを処理にかかった。
干物の作成手順自体は、実は難しくない。問題は別にある。
ま、とにかく作ってみよう。
まず、当たり前だが魚をよく洗い、丁寧に内臓類を取り除く。
この時、今回のクロコ・クマロはトゲがあるので、ヒレ関係を切除してしまう。
あと、アイリス情報だと頭のところとエラの近くに隠しトゲがあるらしいので、これも切除するんだが……。
「お、あった」
「あった?」
「あったあった、あぶねーよなトゲ」
「あー……でもパパやわたしだと、ピリッて来るだけだよ?」
「そうだな、アイリスの言うとおりだ。
だけど、それでも危険物は切除する習慣つけとこうぜ?
まさかと思うけどさ、来客でもあって食わせる事態が発生したら、あぶねーしな」
「あー……そっか、そうだね」
「おう」
綺麗に処置したら、開きの形に展開する。
ここでちょっとコツがある。
開きにするなら、頭もきれいに割りたいだろ?
ここ、力任せにするのは危険だから……。
「ん〜……よし」
ためしに太い骨に包丁をあて、テコの原理で手前を倒し込むように頭を割っていくと、何とか割る事ができた。
はじめての魚なのにうまくいった。よかったよかった。
そんで綺麗に洗ったら、濃いめの塩水に一時間ほど漬け込む。
で、終わったら軽く洗って……そんで吊り下げて干す。
「これ、どれくらい干すの?」
「ちょっと待ってな」
車の中に戻り、USB充電式の扇風機をもってきた。
干している魚に風をあてる……あてきれないので、あれこれ工夫するが。
「……これで、どれくらいかかるの?」
「んー、とりあえず三時間ほど干してみる。
ダメならこっちでなく、外で干してみるよ」
ここは湿度も温度も高めだし、さっさと干さないと嬉しくない事になりそうなんだよな。
だから、扇風機で加速する。
「冷蔵庫があれば、間違いなく冷蔵庫で一夜干しにするんだけどな」
「冷蔵庫で干すの?」
「ものを冷やすと、水分が放出させるんだよ」
「?」
「あー……夜によると夜露が降りるだろ?
あれは空気が冷えて、空気の中に溶け込んでいた水が、溶けきれなくなるための現象なんだよ」
「あ……」
お、理解できたな?
「うん、今たぶんアイリスが気づいた通りだよ。
冷蔵庫で冷やすことにより、魚に含まれる水分が抜けて乾くってわけさ」
「すごい!」
「すごいのは俺じゃないぞ。物理現象と、これに気づいた昔の人間な」




