其の十
ー地獄 閻王の間ー
巨大な王座に腰掛ける、赤黒い肌をした巨大な鬼。
「なぜ無有を推薦したのですか?」
赤い肌の上に白い衣服を纏わせた美しい女性の鬼が問いかける。
「適性だ。」
巨大な王の表情は変わらない。
「しかし李武と寛威の実力は確かなもの。
それに彼らの言う通り、無有はまだ若い。
ここまで賛同を得られないと、無有の即位後に覇権争いが起こるのでは?」
千治が食ってかかるように意見する。
「それをさせない為のお前だろう?」
淡々とした口調の王。
「そ、それはそうですが、鬼同士が直接争う事さえしなければ殺しの方法などいくらでもございます!」
千治は一向に引く気配を見せない。
「…………。
千治よ、上に立つものに必要な素質は何だと思う?」
「はっ!?…はい…圧倒的な力…、それに管理力や正確な判断力。
つまり閻王様に備わっているものでございます。」
一瞬動揺したが、すぐさま冷静な様子で答える。
「ふむ。確かにそれも必要かもしれんな。
しかしそんなものは後からいくらでも身に付く。」
「……?
では一体何が必要だと?」
「利他の心…だ。
他者を思いやり、利益をもたらそうとする心。
上に立つ者にはそれが必要不可欠なのだ。」
「利他の心…。」
鬼らしからぬ発言に千治の思考は一瞬止まる。
千治の表情は、彼女の中に芽生えた違和感をそのまま現しているようだ。
「鬼らしくない…か?そう思うのも当然だ。
しかし我ら鬼にも人のように心がある。
喜びがあり、怒りがあり、哀しみがあり、楽しむ事もできる。
我らの元素は人の魂であり、逆もまた然り。
我らと人との根本はそう違わぬのだ。」
「利他の心…」
千治が考え込むように呟く。
「確かに李武と寛威のいずれかが王座に就いたとして、その実力的には何ら問題なかろう。
しかし片や戦闘狂の暴君、片や冷徹な悪鬼。奴らが王ではいずれにせよこの地獄に混乱を招いてしまうだろう。
ならば時期尚早であろうが、無有に賭けてみたいのだ。」
地獄の王の表情は相変わらず硬いが、その瞳は何かを見据えているかのよう。
「………わかりました。
若輩ゆえ、感情的になってしまい申し訳ございません。
しばらく頭を冷やします。」
そう言うと千治は閻王の間を後にした。
王座に座る鬼の王。
やはりその表情から感情を読み取る事は難しく、凄まじい威圧感だけがただ、ただ、放たれ続けていた。




