其の九
ー京都市ー
旧式のチャイムを鳴らすと、しばらくして和風家屋の玄関の戸が開き、喪服姿の若い女性が現れた。
「学さん…」
「里帆ちゃん。
皆はもう集まってる?」
「うん、和室に。
染ちゃん達は神奈川?」
「ああ、置いてきたよ。
急な事だったからね。
それに死因も…っ、すまない。」
漆原学が殺人の件に触れると里帆の目に涙が浮かぶ。
「ううん、大丈夫。
遠いところありがとう。
中に入って。」
里帆は気丈に振る舞い、涙を拭いながら学を迎え入れた。
玄関を上がった細長い廊下を進んでいくと左手に大きな和室があり、喪服姿の人々が集まっている。
里帆が引き戸を開け、学を中に招き入れると皆がそちらの方を振り向いた。
「おお、久しぶりやな学。
柃さんは一緒じゃないんか?」
初老の男性が嬉しそうな声で問い掛ける。
「明人兄さん、久しぶりだね。
柃は子供達と一緒に神奈川の家に居るよ。
親父はどこに居る?」
「兄貴は奥の部屋で警察のお偉方と話してはる。」
明人が言い終わるや否や、再び和室の戸が開き、スーツ姿の男が顔を覗かせた。
「皆様方、銀治さんとの話が終わりましたので私はこれで失礼させていただきます。
また何か気になる点や思い出した事がありましたら私に直接ご連絡ください。
それと繰り返しになりますが、この件は他言無用に願います。
心苦しいでしょうが、事件解決の為にもご協力お願い致します。」
皆が一礼するとスーツ姿の男も頭を下げ、玄関の方へと歩いていった。
「話は終わったようだな。
じゃあ学、挨拶しに行こけ。」
明人と学は和室を出て、廊下の先の部屋へと向かう。
やがて突き当たった部屋の前で明人がドアをノックした。
「兄貴、学が着いたで。
入ってもええか?」
ドア越しに明人が声を掛けると部屋の中から低いドスの効いた声が返ってきた。
「おう。」
2人が部屋に入る。
「学、遠いところご苦労やったな。
柃さんと子供達は神奈川の家に居るんか?」
銀治は葉巻に火をつけながら問い掛ける。
「うん、そうだよ。
急な事だったから。
それより晴夫叔父さん達、どうしてこんなことに…」
銀治と明人が緊張した面持ちで視線を合わせる。
「?」
学が不穏な空気を察し、恐る恐る口を開く。
「どうしたの?」
「いずれは話すつもりやった。
中々タイミングを見つからんくてな…
結局こんな事態になるまで言えへんかった。」
明人は無言で俯いている。
「ん?何の事?」
ただならぬ空気を察しながら質問する学。
「晴夫達を殺した者についてや。」
「え…?どうゆう事?何か知ってるの?」
「ああ、大体の見当は付いてる。
そしてこれはお前にもお前の家族にも関わる事や。」
「親父、一体何の話をしてるんや?」
学は自分の話し口調がいつの間にか京都弁に戻っている事に気付かぬまま、話の核心を問いただす。
「晴夫達はな…物の怪に殺されたんや。」
銀治の吐き出す煙が宙を漂い飽和していく様は、唐突に聞いた衝撃的な発言に対する学の心情を写し出しているかのようだった。




