其の七
ー漆原家ー
「ただいまー!」
父親が玄関で靴を脱いでいると、リビングから母親がやってきた。
「お帰りなさい、あなた。」
料理の途中だったのか、母親はエプロン姿のままだ。
「ああ。染一と進次郎は?」
2人と1匹が廊下の先からドタドタと駆けてくる。
「お帰りパパー!」
「おかえりー!」
「ワンッ、ワンッ!」
「ただいま。
おー、皇太もただいま!ははっ。」
皇太が父親に飛び掛かり、顔を舐めている。
「皆ご飯にしましょう。」
母親に促され、父親と息子達はリビングへと入っていった。
『いただきまーす。』
食事を始める漆原一家。
父親がハンバーグをつつきながら神妙な面持ちをしている。
「あなた、何かあったの?」
母親が心配そうな顔で聞く。
「ああ、実は今日…叔父さんが亡くなったと連絡が入ってな。
明日朝一で京都に行かなければならなくなった。」
箸を止める父。
「えっ!?晴夫叔父さんが?
…そうなの、残念ね。」
母親も箸を止め、肩を落とす。
「まあ詳しくは後で話すが、急な事だし俺1人で行ってくるよ。すまないな。」
「仕方ないわ。気を付けてね。」
染一が味噌汁を飲みながら会話に入り込む。
「ねえ2人ともどうしたの?」
「ああ、ちょっと悲しい事があったんだ。
でももう大丈夫、肘付かないよ染一。」
父親が説明と同時に染一のマナー違反を注意する。
"誰かが死んだ"事は理解している染一だが、なだめるような口調の父と、暗い表情をしている母との間に流れるどんよりとした空気を読み取り、それ以上質問する事をやめた。
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「きーらきーらひーかーるーおーそーらーのほーしーよー♪」
お風呂上がりに居間で鼻歌交じりに絵を描いている染一。
進次郎はあんパン型の頭をしたヒーローのぬいぐるみで遊んでいる。
リビングでは父親が風呂上りのビールを飲みながら、洗い物を終えた母親にも勧める。
「私はいいわ。それよりさっきの話なんだけど、どうしたの?」
母親が席に着く。
「実はな…亡くなったのは叔父さんだけじゃないんだ。奥さんも子供達も全員亡くなってしまった。
いや…殺されてしまった。」
俯き加減に話す父。
「えっ…?」
「警察もまだ断定はできないらしいが、現場の状況や遺体の状態から殺人事件の可能性が高いそうだ。」
開いた口が塞がらない母親。
「でもそんなのニュースでやってないわ。」
「それがな、犯行の手口が最近世間を騒がせた連続殺人事件と酷似しているみたいなんだ。
警察はマスコミに対し、第一級の報道規制をかけている。
もちろん俺達や向こうに居る親類達にも他言しないようにと要請があった。」
「連続殺人?それって…。」
「ああ、あの"鉤爪連続殺人"だ。」
「嘘でしょう…。どうして晴夫叔父さん達が。」
「それはわからない。
しかし、きっと警察が解決してくれる。
とにかく俺は晴夫叔父さん達を弔ってくるよ。」
2人は沈黙する。
すると居間から染一が駆けてきた。
「パパ見てー!お絵かきしたんだ!」
「おお!上手じゃないか!
これは…お星様だね。
ん…星陰破?読みは"せいいんは"かな…?
染一、この字はお前が書いたのか?」
「そうだよ!パパの本のやつー!」
「ああ、"占事略决"のコピーか。
染一は本当にあの本が好きだね。
陰陽師に興味があるなんて漆原家の血を濃く受け継いだんだな。
それに真似しただけとはいえ、こんな難しい漢字もかけるなんて賢いぞ。
良い国語教師になれそうだ。」
「えへへ。
ここからね、お星様が出てきて悪い奴をやっつけるんだ!」
「はははっ。
それはすごいな〜!
じゃあパパが居ない時は染一がママと進次郎と皇太を守ってくれよな。」
「うん!僕が皆を守るね!」
「おう!頼りにしているぞ。」
染一の頭に手を置いた父親は、赤ら顔で温かい笑顔を浮かべていた。




