第61夜 出立
明里が祖父の遺影の前で手を合わせている。
「それじゃあ行ってくるね、お祖父ちゃん。」
合掌を解くと大量の荷物を持ち、本殿を出た。
「では、後の事はお任せください。」
玄関前には制服姿の明里が立っている。
「すみません、お願いします。」
もう1人の自分に深く頭を下げる明里。
「これこれ明里、そやつは染一の式神だ。
一連の行動パターンをプログラムされているだけで意思などない。むろん彩香も同様だ。」
「わかってる…笑実をお願いね。」
「私らが居る限り手を出せないのはお互い様だから大丈夫よん。」
妲鬼が手を振る。
「無有、そろそろ。」
漆原が促す。
《破》
無有の詠唱と共に境内の空間が歪み、明里達はその中へと吸い込まれていった。
「じゃあ美味しそうな彩…じゃなくて彩香ちゃん、早速始めましょうか。」
「押忍」
妲鬼が構えると呼応するように彩香も構えを取った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ー山梨県某所ー
宝永山の無い富士山を臨む広大な敷地の空間に歪みが起こり、明里と漆原、そして無有が現れた。
彼らが立つ土地の上方、坂道を登った丘の上に太陽を模した巨大なオブジェが付いた建物がある。
ひと目見れば、こちらの施設が陽光の輪の物と知らなかったとしても、太陽を象徴している何かの施設と想像が付くだろう。
「久しぶりに見たなこのオブジェ。
顕示欲が強いんだよ…。」
漆原ががっかりするようなジェスチャーを見せる。
「では染一、総攻撃される前に余はもどるぞ。」
無有が空間を歪ませる。
「総攻撃?」
明里が尋ねる。
「ああ…無有って鬼じゃん?
ここは太陽を神と信仰している場所だから陰魔の無有をめちゃくちゃ嫌ってんだよ。
最後にここに来た時は無有も一緒だったからあいつらと軽い戦争になったんだよ。
この場所が更地なのも、その時に無有の攻撃で周辺の建物が全壊したからなんだ。」
空間移動の為、歪みに消えていく無有を見ながら漆原が説明する。
「ちなみに俺もこいつら…ってか、あいつ(・・・)が無理だから修行自体は白石さん1人でやってもらう。」
明里は突然の告白に戸惑いながらも、再度決意を固めて前進する。
「うぃーす!おーい、サイコババア〜!」
漆原が門を越えた先のだだ広い中庭で絶叫している。
「いらっしゃい染一くん、それに明里ちゃん。」
正面から白衣を着た男性が歩いてきた。
「おお、先生!ババアはどこ?」
「千陽様なら陽神の間にいらっしゃるよ。
明里ちゃん目を見せてくれるかい?」
白衣の男性が、診断するかのように明里の両眼に親指を当てる。
「うん!大分良くなってるね!
染一くん、何かしたのかい?」
「いや、まさか!
あ、もしかして無有のおかげかな?
白石さんしばらく無有と暮らしてたから。」
「なるほど…アニマルセラピーになってたのかもしれないね。
いずれにせよ、安心したよ。」
柔らかい笑顔を浮かべる男性。
「あの…もしかして、漆原くんのお家で診てくれた先生ですか?」
「あれれ、あの時起きてたのか!
よく覚えてたね。
そうだよ、改めて…陽光クリニックの山神昇です。」
差し出された名刺には院長の肩書きが記載されている。
「染一くんとは彼がまだ小学生の頃からの付き合いなんだ。よろしくね明里ちゃん。」
「あ、あの時はありがとうございました。
よろしくお願いします!」
深々とお辞儀をする明里。
「じゃあ行こっか、白石さん。
先生、また後でな!」
手を振る山神を横目に2人は陽神の間へと向かう。
中庭からガラス張りの玄関に入り、大広間中央に位置する2つあるエレベーターのどちらかに乗り込む。
中に押しボタンは無く、階数を発言する事で当施設を管理するAIが指定階まで運んでくれるシステムとなっている。
「漆原染一、5階。」
漆原が発言すると、AIが作動する。
いや、正しくはAIは24時間稼働している為エレベーター機能が作動する、だ。
「漆原 "生意気クソガキ" 染一様ですね。
最上階へ移動します。」
「え、何これ…」
AIの暴言に明里が驚きの表情を浮かべる。
「クソババアめ…やる事が一々陰湿なんだよ。」
漆原が舌打ちをしながら文句を言っていると、最上階へと到着した。
エレベーターの扉が開き、漆原がフロアに上がった瞬間、右から気配を感じてとっさに屈む。
ヒュッ
ジュゥゥゥゥゥ…
赤いレーザーが先ほどまで漆原の頭部があった位置を一瞬で通り抜け、左側の壁を焦がす。
「ちっ…避けおったか。」
悔しそうな声が聞こえる。
「あぶねーなクソババア!!」
漆原が屈みながら怒っている。
一連の様子を見ていた明里が、屈んでいる漆原から正面の方に視線を移すと、オレンジ色の外套を纏った女性が漆原を睨み付けながら悔しそうに佇んでいた。




