第59夜 密談
静岡県某所ー月美学会総本部ー
真夜中、富士山を臨む広大な敷地に黒塗りの車が数台入ってきた。
最初に降りてきたのはスーツを着た屈強な男性達、そして警戒するように周囲を見渡した後、運転手側後部座席のドアを開けた。
他の車からも続々と屈強な男性が降りてくる。
「総理、足下にお気を付けてください。」
総理と呼ばれた女性はタイトスカートから伸びるスラリと長い脚を地面に降り立たせ、車外へと出る。
30代ぐらいに見えるが、纏う雰囲気は若造と呼ぶには違和感が大きく、確かな貫禄を醸し出している。
「大池総理、遠い所をよくぞいらっしゃいました。」
白い外套を纏った男性とその部下達が彼女を迎える。
「そちらも真夜中にご苦労。
真夜子は?」
巨大な施設のような建物に入りながら大池が訪ねる。
「真夜子様は奥でお待ちです。」
大理石の床に巨大な月の絵画が描かれたエントランスを抜け、長い廊下を進んでいくと大扉の前に着いた。
「あなた達はここで待っててちょうだい。」
大池が屈強な男達に指示を出し、観音開きの大扉を開けると、そこは普段月花のメンバーが集まる大きな円卓のある部屋だった。
丁度大扉の対角に白いフードを被った女性が座っている。
「大池、よく来たな。掛けてくれ。」
真夜子は大扉のすぐそばの席に座るよう促す。
「では私はこれで。」
先ほど大池を迎え入れた男性が2人の前に温かいコーヒーが入ったマグカップを置くと、大部屋を後にした。
「真夜子…多摩川での一件、どうなっている?」
開口一番多摩川での闘いの件を口にする大池。
「ああ、今日はその事でわざわざ足労いただいた。」
真夜子が頭に手をかける。
フードの下から現れた肌は透き通るように白く、大きな目が特徴的な美しい女性だった。
歳は20代ぐらいだろうか…ブロンドのせいもあり、かなり若く見えるが、大池同様纏う雰囲気はいくつもの修羅場をくぐってきたような確固たる貫禄を醸し出している。
「実はな、我々の計画を邪魔する者が現れた。」
コーヒーが入ったマグカップを手に取りながら真夜子が言う。
「邪魔?そのような者はこれまでにも居たが、その度に排除してきたではないか。」
大池もコーヒーを口に運ぶ。
「今回は特殊だ。陰陽師の漆原染一と言えばお前にならわかるか?」
「漆原…!?噂には聞いた事がある…
が、陰陽師はお前達月美学会が絶滅させたはずでは?」
「生き残りが居たのだ。更に鬼を伴っている。
先日、血月の際にヤツが白石明里に加担して繭子を退けたのだ。」
「何だと…?
陰陽師漆原の話は都市伝説とばかり…
まさか実在したとは。
鬼を使役し、繭子を退けるほどの力の持ち主…
どうするつもりだ?」
「鬼は厄介だが既に手は打った。
そして陰陽師の方はまだ未熟だ。
しかし放置すれば今後確実に脅威となってくるだろう。
叩くなら今しかない。
お前には漆原染一の抹殺、そして白石明里の拉致に協力してもらいたい。」
マグカップを置き、机上で手を組む真夜子。
「もちろん協力はさせてもらうが、陰陽師はともかく白石明里はまだ高校生だろう?
私も、もはや山本の時とは立場が違うのだ。
そんな年端もいかぬ少女の拉致に政府が関わっていると知れ渡れば私は失脚し、反大池派に実権を奪われる可能性がある。
そうなると、月神計画の完遂に支障が出ないか?」
大池は駆け引きをしているかのように真夜子に問いかける。
「…大池、陰陽師も白石明里と同い年だ。
元よりリスクは承知の上だろう?
こうしている間にも世界各国は覇権を握ろうと水面下で動いているぞ。
お前の言う"強い日本"を取り戻したいならば覚悟を決めろ。」
「………。」
しばらくの沈黙の後、大池が口を開く。
「わかった。やろう。」
机上で手を組む大池の顔はとても険しく、そばにあるマグカップからはゆらゆらと湯煙が立ち上がっていた。




